小児科を受診するお子さんの中には、虐待を受けているお子さんが見つかることがあり、しかもその割合は増えているといわれています。子どもの虐待への対応、そして小児科医が求められる役割について済生会宇都宮病院小児科主任診療科長の高橋努先生にお話をうかがいました。
子どもに対する虐待が最近、非常に増えています。この済生会宇都宮病院でも虐待を受けているお子さんが受診することは珍しくありませんが、私は虐待を診るということは、小児科医でなければできない役割であると考えています。
虐待への対応においては医療関係者以外との連携が非常に重要です。たとえば警察、児童相談所、あるいは地域の保健師さんなど、そういった各部署と連携しなければ適切な対応はできません。また、院内ではチームで診療を行いますので、済生会宇都宮病院ではケースワーカーの方に虐待対策委員会に入っていただくということもしています。
私はそういったスキルは、本来小児科に備わっているべきであると思いますし、それこそが臓器で分かれない診療科を志している我々小児科医の力が一番発揮できる部分ではないかと考えています。
たとえば大学病院などで心臓や腎臓といった臓器に特化した診療を行っていれば、その領域のスペシャリストではあるのですが、一方で日頃から幅広くさまざまな病気を診ているというのも本来の小児科の姿の一面でもあります。そういった臓器別に分かれない診療科に携わる医師の特性として、警察や児童相談所、コメディカルのスタッフとのチームとしての連携に長けているところがあるのではないかと考えています。
臨床で診療を行っている中で、医師はそれぞれの専門を目指していきます。私の場合には小児科の研修をして、その次にはサブスペシャリティ(診療科の下の専門分化した領域)として心臓をさらに極めていこうと考えました。大学病院であればより複雑で重症な患者さんの心臓病をひたすら診ていき、こども病院(小児専門病院)であればその中の循環器科で心臓だけをずっと診ていくことになるでしょう。もちろん、そのこと自体はスペシャリティとして重要ではあるのですが、やはり我々のような市中病院の小児科では一般的な病気を幅広く診ることが求められます。
てんかん、けいれんの重積、脳炎・脳症、喘息、胃腸炎・肺炎など、本当に多種多様な病気が集まってくる中で「虐待」というものを目の当たりにすると、本来臓器だけを診るのではなく患者さんの発達過程全体を診たいと思って志した小児科医の目が活かされるところであると感じます。それは私が患者さんを診てきて実際に感じたことでもあります。
子どもが病気なのに病院で適切な治療を受けさせていないという問題は、ネグレクト(育児・養育の放棄)という位置付けになります。清潔でない不衛生な状態であったり、虫歯が一定数以上あるとネグレクトを疑うこともあります。つまり、必要な医療を受けさせていない、検診を受けさせていないということもひとつの虐待といえるのです。
たとえば学校であざ・やけどの痕などから虐待を受けている子どもが見つかった場合、学校から児童相談所に通報し、保護されることになります。そういったお子さんは小児科に一度診察に来ますが、全員が入院するわけではありません。いったん児童相談所に戻ることもありますが、中には本当に命にかかわるような重症で、頭から出血しているようなお子さんもいます。
実は虐待を受けている子どもたちの多くは病院を受診しています。虐待を受けてけいれんを起こしたりぐったりしてしまったことで、様子がおかしいといって親が連れて来ることもあり、普通の患者さんの中に虐待を受けているお子さんがまぎれているのです。その中から虐待を見つけ出すのは非常に大事なことです。そこを見落としてしまうと、次に受診したときにはもっと重篤な状態になってしまうおそれがあるからです。そういった意味で我々小児科医が虐待を見逃さないためには、経験だけでなくトレーニングやスキルも必要であると考えます。
済生会宇都宮病院 小児科 主任診療科長
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