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インタビュー

がん免疫療法とは?-エビデンス確立の歴史とオプジーボの登場

がん免疫療法とは?-エビデンス確立の歴史とオプジーボの登場
河野 浩二 先生

福島県立医科大学 消化管外科学講座 主任教授

河野 浩二 先生

がんの三大治療といえば「外科手術」「化学療法」「放射線療法」が挙げられますが、近年第四のがん治療方法として脚光を浴びているのが「がん免疫療法」です。がん免疫療法はさまざまな事情により長らくエビデンスの確立が難しく、効果の立証ができない不遇の時代を送っていましたが、2014年に免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」が登場したことでその可能性が見直され、現在積極的に研究され始めています。

今回はがん免疫治療の歴史やオプジーボ登場後の消化管領域における治療方法について公立大学法人福島県立医科大学 主任教授の河野浩二先生にお話を伺いました。

がん免疫療法にはおよそ30年という長い歴史があります。しかしその治療内容は民間療法といわれるものから、臨床試験などを行いアカデミックに研究されてきたものまで幅広く、がん免疫療法は長らく混沌とした時代を送ってきました。

このような時代の背景には、がん免疫療法が臨床試験の現場でなかなかよい実績を残せなかったという苦悩の歴史があります。当時、がん免疫療法を求める患者さんは進行がんを罹患している方が多く、さらに化学療法や放射線療法ですでに免疫が弱くなっている方がほとんどでした。そのような方にがん免疫療法を行なっても思うようにエビデンスを確立できず、がん免疫療法は効かないというレッテルを貼られてしまうこともありました。

これには、ご自身やご家族のがんをなんとかしたい、効果が不確かなものでもいいからそれにすがりたい…という患者さんの思いを逆手にとるような業者がほとんど効果のないがん免疫療法、あるいはがん免疫療法もどきを民間療法ビジネスとして展開させたことも背景としてあります。

がん免疫治療の場合、臨床効果の検証が十分実施されてこなかったため、保険適応のない自由診療という枠組みで、クリニックや病院で実践されてきた現状があります。がんを攻撃する命令をだす樹状細胞を患者さんから採取し、培養して患者さんの身体に戻す「樹状細胞ワクチン療法」や、患者さんの血液からリンパ球を採取し活性化させ、点滴で体内に戻す「活性化リンパ療法」などが挙げられます。

以前はこのような細胞治療が、法の規制なく野放しに行われており、治療そのものの安全性すら問われる時代もありました。しかし、2015年に定められた「再生医療新法」という法律により、iPS細胞に代表される細胞を育てて治療に役立てる医療の法が整いました。がん免疫細胞療法もこれに則って、細胞を採取、培養、投与する過程を報告するプロセスが法的に義務化されました。したがって、がん免疫細胞療法を実施する、医療機関の名称、実施症例数、培養細胞の種類などの情報は、より透明化されてきましたが、臨床効果の検証においては、さらなる実証の余地があります。だからこそ、私達は本当に効果のある免疫療法を確立するために研究を行っています。

疑問

がん免疫療法とは患者さんの免疫力を高め、身体の免疫系が自発的にがんを攻撃できるように促す治療です。

免疫とはヒトの身体にもともと備わっている機能で、体内に異物や毒素が侵入した際、それを追い出す「細胞障害性T細胞や抗体」と呼ばれる成分を作る役割を持ちます。一方、身体の中に侵入してくる異物は「抗原」と呼ばれ、がんには「がん抗原」という特有の抗原が存在します。抗原が体内に入ると、体内の免疫系が刺激されることで細胞障害性T細胞や抗体が作られ、抗原を攻撃して追い出します。

がん免疫療法では、「がん抗原」を認識した細胞障害性T細胞や抗体が、癌細胞を攻撃する性質を利用してがんの治療を行います。

従来のがん免疫療法の主な対象は、手術が行えず化学療法や放射線療法での治療を余儀なくされた患者さんでした。がん免疫療法は今のところ、それ単体でがんを死滅させるような強い効果は発揮できません。ですから原則補助的な役割として、抗がん剤や放射線治療と併用して用いられることがほとんどです。

しかし将来的にがん免疫療法の研究が進み、免疫療法のみでも十分がんを死滅させることができるようになれば、がん免疫療法は手術後の癌の再発予防として最も適応があるのではないかと私は考えています。手術後の患者さんは、体力が落ちていますので、抗がん剤や放射線治療など副作用が強い治療は極力控えたい部分があります。また、早期に発見できていればがんの規模がまだ小さい段階で治療を行うことができるため、がん免疫療法単独でも十分な効果が見受けられるはずです。

がん免疫療法には大きく分けて2つの種類があります。

・特異的免疫療法

・非特異的免疫療法

特異的免疫療法はがん抗原に特化した免疫を高める治療、非特異的免疫療法はがん抗原に限らず全体的な免疫力を高めることで、がん抗原への作用も高める治療法です。現在は、がん治療としてより高い効果が期待できるということで、がん抗原に特化した特異的免疫療法の研究が進んでいます。

がん免疫療法は現在、混沌の時代を終え、新しい時代に切り替わろうとしています。そのきっかけが2014年に生まれたオプジーボをはじめとする免疫チェックポイント阻害剤の登場です。オプジーボはもともと悪性黒色腫(メラノーマ)など、特殊ながんを治療するために開発されましたが、今では肺がんや腎がんなどさまざまながんの治療に役立てられています。

下記の表をご覧いただければわかるように、オプジーボは臨床試験でも従来の化学療法と比べ、生存率によい成績をもたらすことが明らかになっています。オプジーボの登場は、がん治療における免疫系操作の有用性をようやく医学的に証明しました。

 

悪性黒色腫治療におけるオプジーボと標準治療の抗がん剤「ダカルバジン」との生存率比較
悪性黒色腫治療におけるオプジーボと標準治療の抗がん剤「ダカルバジン」との生存率比較

がん治療はその部位や病状、ステージに応じて処方する治療薬が異なります。患者さんの年齢や体調によっても選択される治療薬は異なりますが、原則として症状や病期ごとに定められた最初に投与すべき治療薬のことを「第一選択薬」といいます。

がん免疫療法における混沌の時代の突破口となったオプジーボは、一部の肺がん治療においてはすでに第一選択薬に定められており、標準治療のひとつとして認知されてきています。これは、他の治療と併用して行われることがほとんどであるがん免疫療法としては実に珍しいケースで、上記の表も肺扁平上皮がんに対するオプジーボと抗がん剤の効果を比較したものです。

一方胃がんや難治がんといわれる食道がんなど消化管がん領域でのオプジーボの投与は、今まさに臨床試験が行われている最中です。この臨床試験の結果によっては、早ければ6か月〜3年後に消化管がんの標準治療として、オブジーボの投与が認められるかもしれません。

注射

オプジーボをはじめとする免疫チェックポイント阻害剤は、がんの罹患によって過度に免疫抑制がかかってしまった患者さんに投与することで、免疫を抑制しているブレーキを外し、細胞障害性T細胞が積極的にがん抗原を攻撃できるようにする働きがあります。

これに対し現在、免疫を高め細胞障害性T細胞を多く作らせることによって、積極的にがん抗原を攻撃できるように促す、つまり免疫反応にアクセルを踏ませる治療方法として、以前から民間療法でも取り上げられていた「樹状細胞ワクチン療法」の医学的な検討が行われています。こちらに関しては記事2『がん免疫療法の未来-標準療法と併用する樹状細胞ワクチン療法の福島県立医科大における研究』で詳しく説明します。

免疫チェックポイント阻害薬は、ヒトが本来持っている免疫抑制という機能を阻害する役割を持っています。そのため、投与すると膠原病や甲状腺機能障害など、自己免疫疾患に罹患しやすくなるという副作用があります。

しかしながら、近年はステロイドを少量処方することで、副作用が重症化するのを抑制し、副作用のコントロールが可能となってきました。

 

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