痛みは、体に危険を知らせるシグナルで、人間にとって非常に重要な感覚です。しかし、痛みが慢性的に続くと、生活の質(QOL)を大きく低下させます。
医学用語では、痛みのことを『疼痛(とうつう)』と呼びます。疼痛は、『侵害受容性疼痛』と『神経障害性疼痛』のふたつにわけることができ、それぞれ異なる原因によって痛みが起こります。
本記事では、疼痛が起こるメカニズムや原因について、東京医科歯科大学 腫瘍センター長 三宅智先生にお話を伺いました。
医学用語では痛みのことを『疼痛(とうつう)』と表します。
国際疼痛学会では疼痛を“実際に何らかの組織損傷が起こったとき、あるいは組織損傷が起こりそうなとき、あるいはそのような損傷の際に表現されるような、不快な感覚体験および情動体験”(*)と定義しています。
また、疼痛のなかでも、薬物療法等の治療では完全に取り除くことのできない痛みを難治性疼痛といいます。
*日本緩和医療学会「鎮痛薬使用の5原則」がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014年版 より引用
疼痛は、「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」のふたつに大きく分類することができます。
侵害受容性疼痛とは、外傷や感染による炎症や内外からの様々な刺激によって、痛みを感じる侵害受容器が刺激されて起こる痛みです。
侵害受容性疼痛は、体の外部または内部からの刺激が電気信号となって神経を伝わり、その神経伝達の過程が連続して発生することで起こります。急性の痛みであることがほとんどで、一般的な非ステロイド性鎮痛薬が効きやすいという特徴があります。この痛みは体に害が及んでいることを知らせるサインであり、人間にとって必要な痛みであるといえます。
侵害受容性疼痛の原因となる刺激には、主に以下のようなものが挙げられます。
・けがややけどなどの外傷による炎症
・機械的刺激
・温度刺激
・化学的な刺激
・細菌の侵入
神経障害性疼痛は、神経自体の圧迫や、なんらかの原因による神経伝達の障害から起こる痛みです。神経障害性疼痛の原因やメカニズムついては完全には解明されていませんが、慢性的な痛みや難治性疼痛に進行しやすいと考えられています。
神経障害性疼痛の代表的なものには、帯状疱疹(たいじょうほうしん)の後に続く神経痛、糖尿病性神経障害によるしびれ、腰痛症などがあります。
神経障害性疼痛には、一般的な非ステロイド鎮痛薬が効きづらいため、鎮痛補助薬を併せて使用し、患者さんの痛みを緩和していきます。
疼痛は目にみえない症状で、なおかつ主観的な感覚であるために、医師が患者さんの痛みの強さを客観的に評価することができません。
そのため、問診によって患者さんの痛みの部位や痛みの感じ方などを確認したうえで、疼痛スケール(ペインスケール)というものさしを用いて痛みの強さを評価します。
痛みの強さは他人と比較できませんが、疼痛スケール(ペインスケール)を使うことによって、鎮痛薬を使う前と後でどれくらい効果があったのか、痛みの経過を確認することができます。
疼痛スケール(ペインスケール)には主にNRS、VAS、VRS、FPSの4種類があり、患者さんの年齢や状況に応じて使用する指標を使い分けます。
疼痛スケール(ペインスケール)のなかで最も多く使用されているのがNumerical Rating Scale(NRS)です。
痛みを0から10の11段階に分けて、全く痛みがない状態を『0』、想像できる最も痛い状態を『10』として、患者さんに点数をつけてもらいます。
一般的には3よりも低い数値の場合、我慢できる痛みであるケースが多いとされています。
Visual Analogue Scale(VAS)は、10センチメートルの直線上の左端を『全く痛みがない』、右端を『これ以上の痛みはないくらい痛い』状態として、患者さんが線を引くことで痛みの強さを示す方法です。
Verbal Rating Scale(VRS)は、痛みの強さを0から4までの5段階に分けて言語化し、それを患者さんに選んでもらう方法です。段階が少ないために、痛みを詳細に評価できない可能性があります。
Faces Pain Scale(FPS)では、左端には『痛みが全くなく、とても幸せである』という顔のイラスト、右端には『耐えられないほどの強い痛みがある』という顔のイラストが描かれています。これらのイラストを自分の痛みの程度に合わせて選んでいただき、痛みの強さを評価する方法です。
幼い子どもや高齢の方に対して用いられることがある検査ですが、Verbal Rating Scale(VRS)同様に段階が少ないため、痛みを詳細に評価できない可能性があるほか、評価時の患者さんの心理状態が結果に反映されてしまう恐れがあります。
問診で重要なことは、患者さんの痛みの部位を把握することです。
しかし患者さんによって痛みの表現は様々で、話を聞くだけでは体のどの部分が痛いのかがわかりにくいこともあります。
そのため我々は問診と合わせて触診を行い、実際に患者さんが痛みを訴えている部位を触って、できるだけ正確に体の「どの部分が」「どのように」痛いのかを確認していきます。
このように患者さんの痛みの部位を把握することで痛みの原因を探り、治療法を決定します。
侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛ともに、疼痛は、主に薬物療法(痛み止め、鎮痛補助薬)によって痛みを取り除いていきます。
痛み止めには、下記の4種類が主に用いられます。
・NSAIDs
・アセトアミノフェン
・医療用麻薬
・鎮痛補助薬
鎮痛剤だけでは効きにくい場合、鎮痛補助薬を使用することがあります。
薬物療法だけでは完全に痛みを取ることのできない難治性疼痛は、インターベンションを利用したペインクリニック、放射線治療、認知行動療法、リハビリテーションなども併せて行い、痛みを緩和していきます。引き続き、記事2『難治性疼痛の治療と緩和−痛みの治療のゴールとは?』では、この難治性疼痛に対する様々な治療法と治療の目標についてお話しします。
東京科学大学医学部附属病院 腫瘍センター長・総合がん・緩和ケア科 、東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 臨床腫瘍学分野 教授
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