先天性心疾患は軽症、中等症、重症と重症度によってその後の治療方針や予後が大きく異なります。患者さんのなかには経過観察だけで済む方と、手術やカテーテル治療を繰り返す方がいらっしゃいます。そのため早期発見と、適切な治療計画を定めることが必要です。
本記事では心臓病の専門医であられる熊本大学大学院生命科学研究部環境社会医学部門教授の河野宏明先生に、先天性心疾患の検査・治療方法や患者さん、保護者の方が注意すべき点についてお話を伺いました。
記事1『先天性心疾患とは-種類や原因・症状にはどのようなものがある?』でお話しましたように、先天性心疾患の多くは目にみえる症状がほとんどなく、発見が遅れがちです。そのため新生児〜成長期の間のスクリーニング検査が非常に重要です。
先天性心疾患を罹患している場合、聴診の際に心音に雑音が入ります。そのため医師は必ず出生直後に新生児の聴診を行います。多くの場合、出生直後の聴診で先天性心疾患の疑いを持つことができます。しかし、この検査時に雑音がわかりにくいこともあるため、乳児健診、就学前健診、小学校や中学校の学校健診でも必ず聴診を行い、先天性心疾患の有無をチェックしています。その他、心電図、胸部レントゲン、問診、身長、体重などの成長の状態をチェックすることで、総合的に先天性心疾患の有無をチェックしています。
健診で異常が発見された場合、専門医は心臓のエコー検査、心電図検査、レントゲンなど諸検査を用いてより詳しく検査を行い、診断をつけます。
先天性心疾患の治療は基本的には手術です。しかし、軽症の場合には手術を行わず、経過観察で済む場合もあります。先天性心疾患と一言にいっても、疾患の具体的な種類や各個人の重症度に応じて適切な治療が異なるため、専門医師の診察をしっかり受けることが大切です。
特に非チアノーゼ性心疾患である「心房中隔欠損症」や「心室中隔欠損症」の場合は、罹患したままでも、生涯大きな問題なく過ごすことができる方も多くおられます。もちろん、将来妊娠出産を行える患者さんもいらっしゃいますし、通常の方々と同じ様に元気で天寿を全うされる方も多くおられます。また一部例外で、非チアノーゼ性心疾患の1つ「心室中隔欠損症」のなかには自然治癒の可能性があるタイプも存在します。
産科では胎児エコーを積極的に行っています。胎児の成長を定期的に観察することで胎児の健康状態を観察するのが主な目的です。胎児エコー検査で妊娠週数に対して胎児の成長に遅れが生じている場合、母体に問題が無ければ胎児側に問題があることになります。この時に、重篤な先天性心疾患の存在が疑われます。
もし先天性心疾患を疑われた場合、胎児の心臓を母体のお腹を通してエコーで観察します(胎児心エコー)。胎児心エコーは母体にも胎児にも痛みも無く、副作用も無い検査です。この時点で、先天性心疾患の診断を予測することができます。とても重篤な先天性心疾患を疑う場合には、小児循環器疾患の専門医を待機した状態で出産(多くは帝王切開になります)を行います。生まれて直後に治療を行わなければならない場合もあります。
問題なく出産できた先天性心疾患の新生児の場合は、専門医の診察と検査を行います。もし、手術を行うことになった場合には、その時期を考慮する必要があります。もちろんひどいチアノーゼ*を起こしているような重篤な状態の場合には、できるだけ早く手術を行います。その場合、小児の小さな体に対し手術を行うことは、成人に対して手術を行うよりもリスクが高くなります。そのため一次的な手術を行い、ある程度成長してから二次的に手術を行うことがあります。
ただ、重篤な先天性心疾患の手術は残念ながら根治には結びつかないことがあります。心臓の形や血管の構造を改善することにより、症状の軽減を図ることはできますが、健常な方と比べると成長が遅れがちであったり、少しの運動でも呼吸が苦しくなってしまったりすることがあります。
チアノーゼ……酸素は赤血球中のヘモグロビンによって運ばれている。酸素と結合したヘモグロビン濃度が低下した際に唇や指先の色が青紫色に変色する症状
近年は「心房中隔欠損症」や「肺動脈狭窄症」に対し、カテーテル治療が適応になるケースもあります。この治療は低侵襲ですので患者さんの負担も少なくすみます。全ての上記疾患の患者さんにできる治療ではありませんが、専門医の診察をおすすめします。
先天性心疾患を含め、心臓疾患の患者さんは基本的には疾患と一生付き合っていくことになります。
定期的な通院を行いながら専門の医師の指示に従い生活していれば、健常な方と同じくらい長生きできる患者さんも多数いらっしゃいます。日常生活をコントロールしながら、無理せずゆっくり付き合っていくことが大切です。
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