先天性心疾患とは、生まれつき心臓や血管の形状に異常があることで起こる疾患の総称です。40〜50の疾患の集合体であり、患者さんそれぞれの疾患や重症度に応じて治療や発育への影響も大きく異なります。
今回は先天性疾患の種類・原因・症状について熊本大学大学院生命科学研究部環境社会医学部門教授の河野宏明先生にお話を伺いました。
先天性心疾患とは、生まれつき心臓や血管の形状が通常と異なることによって起こる疾患の総称です。心臓や血管の構造が異なると血流に異常が生じ、体が酸素不足になることでさまざまな症状を引き起こします。
先天性心疾患を持って生まれる患者さんは1997年には318,326名でした。これは日本の全人口からみるとそこまで多くはなく、出生した赤ちゃんの1%前後といわれています。言い換えればおよそ100人に1人の割合です。また罹患者に男女の偏りはありません。
また先天性心疾患を持ったまま成人した患者さんも非常に多く、1997年時点で304,474名といわれています。
先天性心疾患は多因子疾患が85%を占めています。ごく数%は、ダウン症候群のように遺伝子異常によって起こることもありますが、ほとんどの場合いくつかの原因が合わさって疾患を引き起こすと考えられており、原因をはっきりと断定できません。
上記の通り先天性心疾患はほとんどの場合原因不明ですが、妊娠中の喫煙・飲酒・投薬の影響で先天性心疾患が誘発されるのではないかともいわれています。そのため妊娠中の喫煙・飲酒はもちろん控えることを勧めています。
投薬に関しても、妊娠中は出来る限り行わないことが得策です。特に妊娠4週目辺りまでは赤ちゃんの器官形成期にさしかかりますので、注意が必要です。しかし、この時期は自分の妊娠に気づいていない方も多く、知らずに薬を服用してしまうこともあります。このようなことを防ぐためにも妊娠の可能性がある方は、投薬について医師と相談するなど配慮して日常生活を送るほうがよいでしょう。
どの薬を飲むと赤ちゃんが先天性心疾患に罹患しやすくなるのか、まだ解明できていませんが、胎児奇形全般を引き起こしやすいのは高血圧を防ぐ薬や抗生剤に多いといわれています。
先天性心疾患は数が多く、主な種類だけをみても40〜50種類と非常に多岐にわたります。それらを大きく分けると「非チアノーゼ性心疾患」と「チアノーゼ性心疾患」に分類されます。
非チアノーゼ性心疾患は先天性心疾患の60〜70%を占める、わりと罹患率の高い疾患です。主に下記の4つが挙げられます。
<主な非チアノーゼ性心疾患>
非チアノーゼ性心疾患を罹患している患者さんの90%はこの4種の疾患であり、なかでも最も患者数が多いのは心室中隔欠損症です。心室中隔欠損症の患者さんは先天性心疾患全体の割合からみても50%と非常に多く、先天性心疾患の代表的疾患ともいえます。
一方でチアノーゼ性心疾患は先天性心疾患の30〜40%を占めます。チアノーゼ性心疾患の主な疾患は下記のとおりです。
<主なチアノーゼ性心疾患>
チアノーゼ性心疾患は非チアノーゼ性心疾患と比較すると罹患率が低い一方、重症度が高いことが特徴です。なかには患者さんの数が少ないために治療方法が確立されていない疾患や、心臓の形が大きく異なり手術の難易度が高い疾患もあり、より注意が必要です。
チアノーゼはドイツ語で、血液中の酸素濃度が低下した際に唇や指先の色が青紫色に変色する症状を指します。先天性心疾患に限らず、子どもの心臓病の症状として出ることが多く、この症状が強い場合には重症とみなされ手術など大々的な治療が必要です。
先天性心疾患の場合には、「シャント」という現象が原因で全身に十分な酸素が供給されなくなりチアノーゼが起こります。シャントとは血液が本来通るべき順番で血管を流れるのではなく、別のルートを通ってしまう現象を指します。先天性心疾患の場合、シャントは心臓の形や血管の構造の異常で起こります。
人の血液は、肺で酸素を血中に取り込み、酸素を十分に吸収した血液が動脈を通って全身に酸素を送ります。酸素を全身に届け血中酸素濃度の低くなった血液は、二酸化炭素を受け取って、静脈を通って心臓に帰ります。心臓に帰って来た静脈血は、再び肺に戻って酸素を取り込み、二酸化炭素を放出します。心臓は血液を滞りなく循環させるポンプの役割を果たしています。
しかし、先天性心疾患で心臓やその周辺の血管の構造に異常があると、本来静脈を流れるはずの酸素濃度が低下した血液が動脈に入り込んでしまい、全身に届く酸素量が少なくなってしまいます。これによって毛細血管のある唇や指先に酸素が渡りきらなくなり、チアノーゼを起こしてしまうのです。
先天性心疾患は「非チアノーゼ性心疾患」「チアノーゼ性心疾患」に2分化されますが、非チアノーゼ性心疾患でも重症度が高いとチアノーゼが現れることがあります。逆にチアノーゼ性心疾患の患者さんでもチアノーゼがほとんどみられない症例もありますので、どちらの疾患でも患者さんの容態には常に注意が必要です。
先天性心疾患は軽症であればあるほど目に見える症状が少なく、症状の把握が難しい疾患です。特に新生児は自分で症状を訴えることができないために、発見が遅れがちです。
しかし中等症以上の場合、下記のような症状が現れることもあります。
<チアノーゼ性心疾患の場合>
先天性心疾患は重症の場合、体内に供給される酸素の量が少なくなる「低酸素血症」が続くことで発育に影響が及んでしまうこともあります。
低酸素血症とは、血液中に十分な酸素がないために、全身が酸素不足となり、細胞の成長に遅れが生じたり、成長が不十分になってしまったりすることです。炭水化物などの栄養素は胃、腸などで消化され、最も小さい単位の「ブドウ糖(グルコース)」まで分解されると吸収されます。吸収されたブドウ糖(グルコース)は全身の細胞に運ばれます。膵臓から出るインスリンが全身の細胞にはたらき、ブドウ糖(グルコース)は細胞の中に入ることができます。インスリンが不足するとブドウ糖(グルコース)は細胞の中に入ることができなくなります。
たとえば糖尿病は、インスリンの作用が不足している病気であり、血中のブドウ糖が細胞内に入ることができなくなります。糖尿病は、血中のブドウ糖は多いですが、細胞の中はブドウ糖不足になっています。
細胞の中に取り込まれたブドウ糖は酸素、水と化学反応を起こし、二酸化炭素と水、そしてエネルギー通貨と呼ばれるATPを産生します。我々はこのATPをエネルギーとして細胞活動して生きています。酸素不足でもブドウ糖不足のどちらが起きても、細胞が活動できなくなってきます。私たちに酸素や栄養が必要なのは、このような理由です。私たちが呼吸で排出している二酸化炭素はATP産生の時に作られる物質です。エネルギーを最も必要とする臓器のひとつが脳です。したがって、先天性心疾患で体内に十分な酸素が行き渡らない状態が続くと、脳の成長が阻まれ、知能の発達が遅れてしまうこともあります。
先天性心疾患で特に問題となることは「アイゼンメンジャー症候群」です。この疾患は心室中隔欠損症や心房中隔欠損症、動脈管開存症などの非チアノーゼ性心疾患に罹患している患者さんが肺高血圧症を合併することによって起こります。心室中隔欠損症や心房中隔欠損症、動脈管開存症などの疾患をまとめて「シャント疾患」と呼びます。アイゼンメンジャー症候群に陥ると、心臓と肺の同時移植が必要となり、治療がかなり難しくなってしまいます。
シャント疾患に罹患している場合、心室・心房を左右に隔てる壁に穴が空いていたり、まだお腹のなかにいた頃に使われていた動脈管が生後も閉じずに開いていたりすることで肺血管への血流が増加します。このことが、肺血管系へのストレスとなり、肺血管の血管壁の肥厚をもたらし、肺血管全体が狭小化してきます。その結果、肺血管に血液が流れにくくなります。したがって、検査結果としては肺高血圧となってきます。先天性心疾患の患者さんがアイゼンメンジャー症候群を合併すると、静脈を流れる酸素が少ない血液が肺血管を通過できなくなり、直接的に動脈系に流れ込むようになり、酸素不足のため強いチアノーゼを引き起こすことがあります。
肺の血流の状態は「肺体血流比」といって肺動脈と大動脈の血流の対比から判断します。肺はものすごい量の血液が流れている臓器なので、健常な方の場合には肺動脈と大動脈の血流の対比は1:1です。つまり、肺を流れている血液量と肺以外の全身を流れている血液量は1:1を意味します。
しかしシャント疾患に罹患している方ですと、1:1.5〜2というように肺体血流比に乱れが生じてきます。これは、肺を流れている血流が肺以外の全身を流れている血流より1.5-2倍多いことを意味します。
このような状態は肺血管への大きなストレスとなり、そのストレスが肺血管壁の肥厚、そして肺血管系の狭小化をもたらし肺血流の障害を引き起こします。肺血管系の狭小化は血管抵抗の上昇をもたらし、その結果として肺高血圧症を引き起こすことになります。
アイゼンメンジャー症候群を合併すると心臓だけでなく、肺も治療しなければならなくなります。しかしながら、肺血管全体が障害を受けていることになりますから、肺を部分的に治療しても治る見込みは乏しいです。一般的には肺移植が必要になります。現実的には肺移植はドナー(臓器提供者)の問題と大変高度な医療が必要なため、なかなか壁が高い治療法です。したがって、アイゼンメンジャー症候群に進展する前に、肺体血流比1:1.5〜2という段階なら先天性心疾患の手術をすることを勧めています。
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