インタビュー

肺動脈狭窄症とはどんな病気? 自覚症状のないケースも多い先天性心疾患のひとつ

肺動脈狭窄症とはどんな病気? 自覚症状のないケースも多い先天性心疾患のひとつ
河野 宏明 先生

熊本大学 大学院生命科学研究部循環器内科学環境社会医学部門教授

河野 宏明 先生

この記事の最終更新は2017年09月04日です。

肺動脈狭窄症とは、先天性心疾患のうちの1つで、心臓の右心室から肺動脈にかけて狭窄があることで血流が悪くなる疾患です。近年はカテーテルを用いた狭窄を取り除く処置と開胸手術を併用して治療が行われています。

今回は熊本大学大学院生命科学研究部環境社会医学部門教授の河野宏明先生に、肺動脈狭窄症についてお話いただきました。また先天性心疾患全体については記事1『先天性心疾患とは-種類や原因・症状にはどのようなものがある?』、記事2『先天性心疾患の診断・治療・予後について-先天性心疾患はいつわかる?』も併せてご覧ください。

提供:PIXTA

肺動脈狭窄症とは、記事1、2でお話してきた先天性心疾患のうちの1つで、なかでも非チアノーゼ心疾患に分類されます。この疾患は心臓の右心室から肺動脈までの血管のどこかに生まれつき狭窄が認められることを指し、狭窄によって血流が悪くなることで、右心室に大きな負担がかかってしまいます。

肺動脈狭窄症は、狭窄だけが単体でみられる場合と、他の先天性疾患と合併してみられる場合があります。

肺動脈狭窄症には狭窄している部位に則して3つのタイプがあります。

<肺動脈狭窄症の種類>

肺動脈狭窄症は、先天性心疾患の8〜10%を占める疾患です。肺動脈弁狭窄症をさらに細かく分類すると、最も患者数が多いのは肺動脈弁狭窄症といわれています。

肺動脈狭窄症も他の先天性心疾患と同様、軽症であれば自覚症状がないことも少なくありません。中等症の場合にも幼い頃は症状がほとんどなく、軽い倦怠感に見舞われる程度ですが、年をとるにつれ動悸や息切れが現れるようになります。そのため、ほとんどの場合、自覚症状で疾患が発覚することはなく、検診や診療の聴診で心音に雑音が混じっていることがわかり、疾患がみつかります。

しかし、重症の場合には生まれてすぐにチアノーゼ*を引き起こすこともあり一刻も早く手術を要することもあります。また、ミルクを十分に飲めなかったり、思うように体重が増加しなかったりすることもあります。

チアノーゼ……酸素は赤血球中のヘモグロビンによって運ばれている。酸素と結合したヘモグロビン濃度が低下した際に唇や指先の色が青紫色に変色する症状

肺動脈狭窄症の検査は、右心室と肺動脈の血圧の格差で図ります。収縮期血圧(高い方の血圧)は右心室と肺動脈の血圧は健常な方の場合には等しいのが普通です。しかし、肺動脈狭窄症の方の場合、右心室から肺動脈への血流が悪いために右心室のほうが高くなり、それによって心室の筋肉が通常よりも厚くなってきます。

右心室と肺動脈の圧差が40mmHg以下の場合には軽症とみなされ、80mmHgまでが中等症、80mmHgを超えると重症と判断されます。

肺動脈狭窄症は主にカテーテル治療と手術によって治療されます。大抵はお子さんの成長過程に合わせ複数回治療を行うことになります。まずそれぞれの治療方法についてご説明いたします。

早急な手術が必要ないと判断された患者さんの場合、小児の段階ではカテーテル治療で対応し、成人してから手術を行うことが多いです。カテーテル治療とは開胸せずに血管から細い管を通し、心臓まで進めて処置を行う治療方法です。

肺動脈弁狭窄症の場合、カテーテル治療は経皮的バルーン肺動脈弁形成術(PTPV)と呼ばれています。PTPVでは右心房、右心室から肺動脈へ向けカテーテルを通し、肺動脈弁の狭くなってしまった部分でバルーンをふくらませることによって、血管の狭窄を内側から広げる治療です。

PTPVは開胸する必要がないため、低侵襲で回復も早く、繰り返し治療を行えることが魅力です。しかし、肺動脈狭窄症のなかには狭窄の位置などによってカテーテル治療では対処できないケースもあるため、適応は絞られます。

肺動脈狭窄症はカテーテル治療では対処できない場合や、成人して血管の太さが安定した患者さんに対して、手術を行います。手術では狭窄部分を切除したり、狭窄のもととなっている肺動脈弁を人工弁に置換したりすることで狭窄を取り除きます。

開胸手術は癒着などの問題もあり、一度行ってしまうと2回目降の手術はリスクがより高くなってしまいます。そのため、医師はできる限りカテーテル治療での対処を心がけます。

また重症度が非常に高い場合は出生後すぐに手術が必要になることもあります。

肺動脈狭窄症も他の先天性心疾患と同様、軽症の患者さんの場合には経過観察のみで、カテーテル治療や手術など具体的な治療の必要がない事がほとんどです。中には投薬の必要もなく、普通に生活できる患者さんもいらっしゃいます。

カテーテル治療や手術は狭窄を取り除き、血流をよくするために行われますが、逆に狭窄を完全になくすまで治療を続けると、肺動脈弁がうまく機能しなくなり、血液の逆流を起こすこともあります。

そのため肺動脈狭窄症の治療は、慎重にバランスを保って行われる必要があります。

子どもスポーツ

肺動脈狭窄症を持つ患者さんが生活面で注意することはほとんどありませんが、運動時には無理は禁物です。無理をしすぎて過度に呼吸が乱れると、心臓への負担が強くなり心不全チアノーゼに陥ることもあるからです。 特にお子さんはスポーツで他のお子さんと競わせると無理をしがちなので、スポーツは競わせず、楽しめる範囲で行うのがよいでしょう。

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