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一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアム 「災害時に医療と福祉を守る連合体・コンソーシアムの形成へ」講演レポート

一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアム 「災害時に医療と福祉を守る連合体・コンソーシアムの形成へ」講演レポート
メディカルノート編集部 [医師監修]

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この記事の最終更新は2018年03月14日です。

去る2018年2月1日、パシフィコ横浜にて一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアムの設立記念連続公開シンポジウム「災害時に医療と福祉を守る連合体・コンソーシアムの形成へ」が日本集団災害医学会総会・学術集会のとの共催で開催されました。

今回はこのシンポジウムの概要をレポートします。

はじめに、一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアムの理事長を務める有賀徹先生からご挨拶がありました。

自然災害大国である日本では、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の策定があらゆる組織で進んでいます。BCPとは、「災害などが発生したときに特定の重要業務を中断せず事業を継続すること、万が一事業が中断したときに重要な機能を復旧して、損失を最小限にとどめる」という意味です。

医療界におけるBCP、いわゆるHealthcare (医療・介護福祉)BCPにおいても、災害時にすでにある医療をきちんと維持したうえで、災害時の医療を提供できるようなBCPの策定を行う必要があります。

Healthcare (医療・介護福祉)BCPを構築するためには、医療や福祉の枠組みだけで解決することは不可能です。国や各企業などの経済・産業界といった、さまざまな領域と密に情報交換を行うことが大切です。

私たち一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアムは、異なる専門知識を持つ人々が参加することで、より実効的なHealthcare BCPを構築し、日本の災害医療の先駆けとなることをコンセプトとしています。

この実現のために、今回のような勉強会や議論を行っていき、いずれはあらゆる企業などと本当の意味でのHealthcare BCPコンソーシアムを展開していきたいと考えています。

2017年3月「災害拠点病院指定要件の一部改正について」(厚生労働省)では全国の災害拠点病院にBCPを策定することが義務化されました。

BCP策定においては、病院内だけでなく地域社会全体も含めて考えていく必要があります。そこで、自らが勤務する病院の防災・減災から、広域災害におけるグループ病院全体が被災したときの対応へと視点を広げ、当法人設立の背景と趣旨についてご説明したいと思います。

防災の基礎は火災対応です。そのため、自分が勤務している場所における消防設備や建築設備についてしっかりとした基礎知識を持っておくことは非常に重要です。

まずは、防火区画(火災を部分的に止め、他への延焼と煙の拡散を防ぐためのもの)を把握することです。火災発生時に防火区画をきちんと機能させるためには、従業員が日頃から防火戸(防火区画を区切るもの)を認識しておくことが重要です。

さらに、適切な避難誘導の方法についてもきちんと知っておくようにしましょう。災害発生時には建物内にある防災設備(防煙垂れ壁や排煙設備など)を生かした、籠城避難や水平避難の方法について理解しておくことが大切です。

また、歩行が困難な方の場合、垂直避難(非常階段などを使用して移動すること)など避難の方法によってはかえって危険を伴うこともあります。BCPを策定するうえでは、このような防災知識を持っておくことは基本的なことです。

広域災害の発生に備えるためには、地域医療を強化して地域全体で自らの地域を守ることが重要です。

たとえば、傷病者が多く集中する災害拠点病院はもちろんのこと、地域の保健所の機能強化を行うことで、災害時の地域での連携がよりスムーズになります。また、JMAT(日本医師会災害医療チーム)が自らの地域内での活動することについても議論されています。JMATは本来、ほかの地域が被災した際に支援する目的で作られましたが、自分の地域が被災した際にも、被災地内のJMATがしばらくの間活動を行うことで地域医療の足腰が強くなるだろうといわれています。さらに、地域包括ケアシステムを強化することも災害時に強い地域を作ることにつながると考えます。

近年高齢化が急速にすすみ、日本は65歳以上の高齢人口が全人口の21%を超え(2015年)、超高齢社会を迎えています。さらに、単身世帯(高齢者や一人親世帯を含む)も増加してきていて、孤独死が問題になるなど、社会のあり方は大きく変容しつつあります。

このような社会においては「社会連帯の重要性」を再び認識する必要があります。そしてこれは、Healthcare BCPの基本的な考えにも通じると考えます。ですから、当法人は社会の仕組みを構築・強化しようとしている各団体や企業と連動しながら、今後BCP全体を論じていく必要があります。

地域に根ざしたHealthcare BCPは医療に特化した話ではありません。医療・介護・製薬・インフラ・食料…など、社会において関係を持つあらゆる機関がコンソーシアムとしてスクラムを組んでいくべきなのです。

続いては、帝京大学医学部附属病院の病院長である坂本哲也先生のお話です。

2017年に全国の災害拠点病院に策定が義務付けられたBCPですが、東京都では2013年から全国に先駆け、病院BCPの策定が義務付けられています。

本講演では、坂本哲也先生より帝京大学医学部附属病院における病院BCPの概要と課題についてお話がありました。

病院BCPについてお話しする前に、まずは一般企業のBCPと病院のBCPの違いを簡単にご説明します。

一般企業におけるBCPでは、災害発生時に企業が行う事業が最低限の機能を残し、許容される範囲内で復旧することが目的です。つまり、一定期間の業務停止が容認されることになります。

一方、病院は災害発生時に入院患者を抱えていたり、治療や手術を行っていたりする可能性があります。そのため、病院BCPでは災害発生時に医療サービスを受けている者に対する医療の中断は許されず、さらに災害による傷病者の対応を行うことが目的です。

要するに、病院BCPでは通常業務を超えたニーズに対応する必要があり、これが一般企業のBCPとの大きな違いです。

災害拠点病院における病院BCPは以下のような役割を担います。

1.事前の備えにより対応力の低下を抑制

病院内のインフラ整備、災害発生時の組織体制の事前計画、病院の耐震化などの事前準備を行うことで、災害が起きたときの対応力の低下を防ぐ

2.対応力の早期回復

災害時に必要な業務に優先順位(災害時にも継続しないといけないこと、後回しにしてもよいことなど)をつけておくことで、対応力の回復時期を早める

3.対応力の増加

継続すべき業務と縮小できる業務をあらかじめ区別することにより、対応力を一定レベルまで増加させる

4.災害拠点病院への患者数の抑制

近隣医療機関と連携した役割分担を事前に決めておくことで、災害拠点病院における患者数を抑える

さらに、病院BCPを策定するにあたっては、想定される被害に対して具体的な業務内容を明示する必要があります。病院BCPにおける業務内容は大きく以下のようなものがあります。

1.優先度の高い通常業務

入院患者の給食や人工呼吸管理、人工透析など、患者さんの生命にかかわり、災害発生時にも中断が許されない業務

2.災害時応急対応業務

トリアージや重症患者の治療、不足する医療機器材の確保などの災害医療業務

3.応急復旧業務

災害発生直後の非常電源や井戸水などへの切り替えなど、最低限必要なライフラインの確保

4.優先度の高い復旧業務

寸断した電気幹線・破損した給水管の交換など、応急復旧業務のあとに行う復旧業務。病院単体ではなく地域のなかの公共機関と協働で行っていく必要がある。

5.予防業務

BCPやマニュアルの策定など、平時から災害に対する計画を立てる業務

当院で実際に病院BCP を策定するにあたり、東京都が作成したBCP策定ガイドラインの手順に基づき以下の手順で策定を行いました。

<BCP策定の手順>

  • STEP1…策定体制の構築
  • STEP2…現況の把握
  • STEP3…被害の想定
  • STEP4…通常業務の整理
  • STEP5…災害応急対策業務の整理
  • STEP6…業務継続のための優先業務の整理
  • STEP7…行動計画の文書化
  • STEP8…BCPの取りまとめ

BCP策定にあたり、まず病院内にBCP策定委員会を設置しました。当委員会には院内のすべての部署(診療系、非診療系のすべて)から最低1名ずつの委員を招集しました。そして、部署ごとに災害時の活動計画を立て、委員会ですり合わせを行いました。

次に現況の把握として、災害時の在院職員数の把握を行いました。当院は大学病院であることから研究や講義に従事している医師も多く、実際の診療にどれだけの人数が携わっているのかは実際のところ不明確でした。

そこで、数日間かけて昼間と夜間それぞれの在院人数を割り出し、どの部門にどれだけの職員がいるのか割り出しを行いました。さらに、災害発生後1〜2時間のあいだに自動参集できる職員数の想定も行いました。

またBCPを策定するためには、具体的な被害の想定を行う必要があります。

当院のBCPは東京湾北部地震(M7.3、冬の18時発生)を想定していて、夜間帯であることから職員数が少ないうえに院長などの幹部が不在という、厳しい条件下で策定しています。

次に、通常業務における優先度の整理を行いました。平時の業務をすべて洗い出し、その業務に必要な人数と時間を調査し、災害時に継続する必要性について検討しました。

ここまでの準備を行ったうえで、災害発生時の重症者収容や治療に関する業務内容の決定を行いました。具体的には、災害拠点本部の決定、指揮命令系統図の作成などです。また、災害時に集合したスタッフ一人ひとりに配布する行動指標カードであるアクションカードの作成も行いました。

そして、優先業務の整理を行うために院内のインフラが災害時にどの程度使用できるのかについて検討しました。非常用電源や非常用飲料水や医療用水(洗浄や透析に必要な水)を確保するための方策を練りました。

また、これらの内容を行動計画として文書化しました。そして、策定したBCPの適宜見直しも行っていて、併設している帝京大学BCPとの整合性を図るなどしています。そのほか、BCPに基づいて板橋区との合同災害訓練も定期的に行っています。

東京都から特定の地震を想定してBCPを策定することが求められていたため、具体的な検討を行うことができました。しかし一方で、オールハザードへの効果が未知数であるとも感じています。

また、災害時に医療を支えるさまざまな院内設備やインフラ、人員について検討することが重要でした。それぞれの部署で作成したBCPを院内全体で共有することも大切であると実感しています。今後、机上訓練や地域との実動訓練を積み重ねて、病院BCPの継続的な改善をしていくべきであると考えています。

引き続き、兵庫医科大学救急・災害医学講座の准教授である中尾博之先生の講演がありました。

災害時の医療には、災害時特有の医療行為だけでなく、平時で行っている医療を継続して行うことも含まれます。さらに、災害発生時の生活(食事や居住環境、復旧活動)なども含め、全体を俯瞰して考えることが大切です。

また、災害時の医療について考えるときには、医療分野だけでなく、介護・福祉分野も含めて考える必要があります。

災害時の医療の課題として、「大学病院における課題」「医療型BCPにおける課題」についてお話ししたいと思います。

まず、大学病院における災害時の課題には、一般の総合病院とは異なる課題がいくつかあります。たとえば、学生の安否確認や研究室の対策、大学本部と病院本部の連携などが挙げられます。国立大学病院長会議での全国国立大学病院での災害対策マニュアルの分析では、大学病院はまだまだ多くの課題を抱えていることがわかっていて、現在(2018年)も議論が展開されています。

また、医療型BCPにおける課題には、医療機関幹部の協力体制の不足や権限移譲による活動の不慣れ、地域防災計画に関する他機関連携の不足などが挙げられます。つまり、災害発生時の「医療従事者の活用方法」について未完成である部分が多いと考えています。

海外では日本でいうBCPの役割をするCOOP(クープ)やHICS(ヒックス)というものがあります。特にHICSは、大規模病院から福祉施設までで核となる活動計画が示されていたり、災害発生時の役割分担や権限の移譲などについて明確にされていたりする特徴があります。

日本でも、災害対策のための医療システムについて追求する必要があります。BCPは一般企業BCPをもとに作成されていますが、実際の災害時に医療に応用できるのかについては検証が進んでいません。COOPやHICSなどのような海外の事例も含めて、日本特有の医療システムを構築していくことが重要です。

災害時の医療の課題を踏まえたうえで、一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアムは大きな3つの目的を持っています。

すなわち、「①医療機関を取り巻く、さまざまなサプライチェーン・マネジメントの整備、②情報システムの構築・独立電源の確保・インフラ整備等、③他組織と共同したBCP体制の構築を進める」です。

この目的をもとに、日本版BCPを展開していきたいと考えています。また、具体的事業には主に以下の4つがあります。

  • 多様な組織の参加の推進
  • 実効的なBCP体制の構築
  • 他地域への日本版BCPモデルの展開・検証
  • 会員同士の相互交流による研究、製品等開発支援

このなかの特徴は4つ目にある「会員同士」という部分です。この会員は、医療関係者だけではなく、バックアップしていただけるインフラ関連企業やその他団体も参加することで、組織学習を行うことです。

BCPはもともと一般企業の事業継続のために作られたものであることからも、医療型BCPも経済学的な観点から策定を行うべきだと考えています。

たとえば、院内における災害医療対応をミクロだとすると、地域一体における災害医療対応はマクロとして捉えることができます。さらに、災害医学は科学的な再現による実証が困難であり、これはマクロ経済に類似しています。そのため、災害医学にも経済学的手法が応用できると考えています。

BCP策定は地域が一体となって行うべきです。災害発生時にBCPを策定しているごく少数の病院が残存する場合、その病院に傷病者が集中してしまい、やがてその病院の機能も崩壊してしまいます。ですから、地域全体で病院の機能を守ることが大切で、傷病者が集中すると考えられる病院のインフラ整備などを行う必要があります。

さらに具体的には、インフラ企業が災害発生時にどの病院に優先的にインフラを供給するかなどを事前に取り決めておくことが大切であると考えます。

また、病院がBCPを策定する際には、病院単独でBCPを策定するのではなく、地域のすべての病院で核となる部分を取り決めるべきであると考えます。

このように、地域の病院やインフラ企業がBCP策定にかかわり、ネットワークを構築していくことが重要です。そのようなさまざまな立場の人が集まる場を、当法人で提供できればと考えています。

中尾博之先生
中尾博之先生
有賀徹先生
有賀徹先生
溝端康光先生(大阪市立大学大学院医学研究科救急医学教授)
溝端康光先生(大阪市立大学大学院医学研究科救急医学教授)
坂本哲也先生
坂本哲也先生

シンポジウムの最後には、一般社団法人Healthcare BCPの理事長である有賀徹先生、理事である溝端康光先生、坂本哲也先生、中尾博之先生による総合討論が行われました。参加者のみなさまからさまざまな意見や質問があり、活発な討論となりました。