院長インタビュー

患者さんの思いを尊重した医療を提供する九州がんセンターのがん治療

患者さんの思いを尊重した医療を提供する九州がんセンターのがん治療
藤 也寸志 先生

国立病院機構九州がんセンター 院長

藤 也寸志 先生

独立行政法人国立病院機構 九州がんセンターは1972年(昭和47年)から、九州で唯一のがんを専門とする医療機関としてがん治療を提供してきました。患者さんの思いを尊重しながら、質の高い医療サービスの提供を目指す同センターの取り組みについて、院長である藤 也寸志(とう やすし)先生にお話を伺いました。

当センターは、411の病床を抱える福岡県の都道府県がん診療連携拠点病院です。2022年に、創立50周年を迎えました。福岡県福岡市に位置し、九州で唯一のがん治療を専門とする施設として、多くのがん患者さんの治療にあたってきました。25ある診療科は、そのほとんどが、がん治療を専門としたものです。なかでも特に食道がんをはじめとする消化器がん肺がん乳がん頭頸部がん、血液がんなど治療の分野で実績があります。

1972年(昭和47年)に前身である国立福岡南病院から現在の九州がんセンターに名称を変更し、がん治療を専門とする医療機関となりました。それ以来、患者さんやそのご家族一人ひとりの思いを受けとめる医療サービスの提供を実践してきました。その理念の基本は、「病む人の気持ち」と「家族の気持ち」を常に考えながら診療をしていくことです

2016年(平成28年)3月には全面建替えによる新病院がオープンし、さらに充実した施設となりました。

私が専門とする食道がんの診療については、日本食道学会から食道外科専門医認定施設として選ばれていて、最近10年間だけでも384例の食道がん手術を行ってきました(2012年1月〜2022年8月累計)。全国で300名弱しかいない食道外科専門医*も3名、在籍しています(2022年9月時点)。また食道外科医に限らず放射線治療医や消化管内視鏡医などの医師も有しています。食道がんの特徴は、他臓器のがんと重複する可能性が高いことです。他臓器のがんと重複している場合、該当する臓器を扱う専門の診療科と連携して治療にあたっています。また、食道がんの進行度によっては、化学療法や放射線療法と組み合わせたり、多臓器合併切除手術が必要になったりする場合もあります。食道がんの根治切除術では、胸腔鏡下食道切除術やロボット支援下食道切除術を導入しています。さらに、近年では、免疫チェックポイント阻害剤により治療も積極的に行っています。

当センターは、そのような医療技術を必要とする食道がんの治療も積極的に行ってきました。食道がん治療の技術を誇る医療機関として、これからもあらゆる患者さんと向き合ってまいります。

*食道外科専門医:日本食道学会が認定する資格で、食道疾患の外科治療において高度かつ専門的な知識や技能を有し、指導的立場になり得る者に与えられる。

当センターは食道がん治療のほかに、胃がん大腸がん膵臓がんなどの消化器がん肺がん乳がん頭頸部がん、血液がんなどの治療も行っています。当センターでは、内科・外科・放射線科など診療科間の垣根をなくし総合的な診療を行っており、看護師や薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、医療ソーシャルワーカー、理学療法士、臨床心理士などが一丸となり患者さんをバックアップするチーム連携医療が実現できています。がんに特化した施設ですから、チーム医療のほか、緩和ケアチームやがん相談支援センターの活動も特徴です。

外科系の診療科では、手術でただ病巣を取り除くのではなく、根治を第一としながらも術後回復や早期離床が可能ながん治療を心がけてきました。多くの外科系診療科では、鏡視下治療、また近年はロボット支援下手術も積極的に導入しています。また、多くの種類の進行がんの場合にも、化学療法や放射線療法を積極的に導入し、病巣を縮小させてから切除手術を行うなど、治癒を求めた積極的な治療に挑戦してきました。

全診療科、そして看護師を含む全スタッフが1つのチームとして、診断から治療まで1人の患者さんを支える体制を整え、患者さんの症状に応じた治療を行っています。

当センターはこれまでに、数多くの治験や臨床試験を行ってきました。特に、呼吸器腫瘍科、消化管・腫瘍内科、血液・細胞治療科、乳腺科などには、現在も多くの治験や臨床試験の依頼が寄せられており、第1相試験や国際共同治験なども数多く行っていることは、その実力を反映しているものと言えます。治験の契約額は、国立病院機構の中では4年連続でトップを走っています(2022年時点)。

当センターの臨床研究センターには、治験・臨床試験を円滑に実施するための業務を行う専門の職員である臨床研究コーディネーター(CRC)が24名在籍しています。そこに非常勤を加えた全44名の専門のスタッフが、日々新薬や新治療法の安全性、信頼性や有用性を確かめる業務にあたっています(2022年9月現在)。より安全で有用な薬剤や治療法をいち早く患者さんへお届けできるよう、これからもこの取り組みを継続していきます。がんゲノム医療にも積極的に参加し、がんゲノム医療拠点病院に指定されています。

当センターの強みの1つとして、前述のように診療科や部門を超えた円滑な連携体制を挙げることができます。医師同士が所属している診療科や専門分野にかかわらず、さらに全ての職種が協力し合える環境をつくり上げてきました。この連携体制をさらに強固なものにするため、新たな取り組みにも着手しています。

それが、私が2015年に院長になって始めた“オール九州がんセンタープロジェクト”です。この取り組みでは、医師や看護師、薬剤師など診療科や部門の異なるスタッフが数多くのチームをつくり、1年を通して病院が抱える諸問題と向き合います。チームの中核メンバーは、私が幅広く人材登用し、さらに中核メンバーが即時にメンバーを指名して活動します。チーム単位で、それぞれに与えられた課題を解決していくことで、普段顔を合わせる機会の少ないスタッフ同士の間に相互理解が生まれることを狙いとしました。さらに各々の活動は、月1回開催されるオール九州がんセンターフォーラムで発表され、他者の評価や提案を受ける仕組みになっています。2019年からは、自主的なチーム活動や新たなリーダーが次々に現れてきています。このような取り組みを継続していくことが、診療科間・部門間の垣根を取り払うことにつながり、ひいては強固な連携体制の構築に役立っています。病院全体での合同の忘年会、送別会、創立記念会なども開催しています。また、市民公開講座、一般医師向け“最新がん情報講座”、がん患者のQOL推進事業講習会、地域住民に向けた“健康フェスタ”など、多くの外部向けの活動にも、全職種のメンバーがボランティアで参加して手伝ってくれる文化が醸成されています。

さらに、2018年には、このオール九州がんセンタープロジェクトにジョイントする形で、コーチングプロジェクトを導入しました。毎年、選抜されたスタッフがプロコーチのコーチングを受けながら、オール九州がんセンタープロジェクトのチームリーダーをコーチングしていく取り組みです。コーチとコーチングを受けるスタッフの組み合わせは、職種や上下関係をまったく問いません。コーチングでは、自分自身で言葉に表すことで初めて、自分やチームの目標が明確になります。このコーチングプロジェクトを通じて、職種間のコミュニケーションも醸成され、垣根をなくすことに役立っています。2022年の日本医療機能評価機構の病院機能評価受審では、サーベイヤーから審査後に「垣根を低くすることを目標にしていると話していたが、“垣根はない”と感じた」との評価を得たことは、これらのプロジェクトの成果なのだと考えています。

食道がん治療で実績のある消化管外科をはじめ、肝胆膵外科・内科、呼吸器腫瘍科、乳腺科、血液・細胞治療科、消化管・腫瘍内科などの診療科を抱えていることは、当センターの大きな誇りです。しかし、それらも含めて全ての診療科、全ての部門で、まだまだレベルアップしていかなければなりません。そのため、治験や臨床試験などで得た収益を、医師だけでなく看護部、薬剤部、臨床検査技術部、放射線技術部など各部門に分配し、学会参加費や研究費にあてています。全ての診療科・全ての部門がさらなるレベルアップをして医療サービスを提供できるよう、日々精進していく所存です。

当センターの基本理念は『「病む人の気持ちを」そして、「家族の気持ちを」尊重し、温かく、思いやりのある、最良のがん医療をめざします』というものです。当院では、全てのスタッフがこの理念を大切にし、患者さん一人ひとりの思いを尊重した医療を実践してきました。これからも患者さんに寄り添う医療サービスが提供し続けられるよう、医療の質向上を目指していきます。

たとえば、2017年から、当センターの在籍医を対象にコミュニケーションスキルセミナーを開催しています。「面倒くさい」と思う医師もいるでしょうが、「素直な気持ちで受講してみて、自分を振り返ってみよう」と言っています。1回に受講できる人数に限りがあるので、まずは指導的立場の者から受講してみようということで、初年度は副院長をはじめとして部長クラスに受講してもらい、以後、順次中堅から若手へ対象を広げています。このセミナーを通して、患者さんやご家族と接する際に求められるコミュニケーション能力を全ての医師に身につけてほしいと考えています。そうすることで、患者さんの心のケアがしっかりとできる体制づくり、スタッフ相互間の円滑なコミュニケーションをベースとした高いパートナーシップを築き上げることを目標にしていきます。

藤 也寸志先生

当センターは、全てのスタッフが参加するチーム医療や相談支援体制など“がん診療の総合力”が評価されていると思います。今後も、継続的な医療水準の引き上げに取り組むことで、少しでも皆さまのお役に立てればと考えております。

開院以来、患者さん一人ひとりの思いを受け止めることができるよう、質の高い医療サービスを提供できるように努めてきました。現在、病院の機能分化を目指す国の方針に準ずれば、急性期医療を提供する当センターが在院期間や回復期医療の面で患者さんのご要望を汲み取ることは難しい状況にあります。しかし、そういったご要望にお応えしていくことも医療の現場には必要であると私たちは考えています。国が推進する医療方針の全てを無批判に受け入れ、ただ時代の流れに任せるのではなく、「患者さんにとって大切なことが何であるか」を常に念頭に置きながら、これからも患者さん一人ひとりに合わせた医療を提供していきます。

当センターを頼りにし、お越しいただいた患者さん・ご家族の皆さまには、我々に改善できるところがあれば何でもおっしゃっていただきたいとお伝えしてきました。患者さん一人ひとりのご意見が当センターを進歩させてくださり、それが日本の医療の進歩にもつながると信じています。

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