独立行政法人 労働者健康安全機構 愛媛労災病院は、1956年に厚生労働省によって愛媛県新居浜市に開設されました。1989年に総合病院としての認定を受け、2004年には独立行政法人となり、現在に至ります。開院以来、労災病院として働くみなさまを支えるための勤労者医療を提供する一方で、地域住民に必要とされる医療の提供に努めてきた同院では、現在どのような取り組みが行われているのでしょうか。院長である宮内 文久先生にお話を伺いました。
当院は、全国に34か所ある労災病院のひとつです。患者さんの治療と就労の両立支援や、職業病・労働災害などの診療、予防医学に関する啓発活動などを積極的に行っています。
近年は地域の高齢化が進み、医療におけるニーズも変化してきました。多様な世代の幅広いニーズに対応するため、20の診療科と各種専門外来を設け、医療機能の充実を図っています。
当院は、開院当時から整形外科の診療に強みを持っています。整形外科疾患全般に幅広く対応していますが、なかでも積極的に行っているのが脊椎手術です。この分野の専門知識・技術をもつ國司善彦医師を中心に、椎間板ヘルニアや腰椎分離症などの手術を行っています。また、患者さんの高齢化にともない、大腿骨頸部骨折など骨折の症例数も増加しています。
当院では、治療と就労の両立支援の一環として、「働く女性メディカルセンター」を設立しました。
同センターでは、月経不順や不妊治療、妊娠、育児のお悩みや更年期などライフサイクルに関わる問題、あるいは仕事に関わる疾患や生活習慣病の予防など、幅広いお悩みの相談に応じています。
当院の特徴のひとつに、「アスベスト疾患センター」を構えていることが挙げられます。
アスベスト疾患の主な原因は、就労中のアスベスト曝露とされています。そのため、当院では通常の呼吸器疾患の診療も行っていますが、特に労災病院としてアスベスト疾患の専門センターも設置し、アスベスト疾患の診断や治療を行うほか、検診や他医療機関のサポートも実施しています。
患者さんの高齢化にともない、日常の歯磨きや、他診療科を受診されている患者さんの周術期における口腔ケアなど、さまざまな場面で歯科口腔外科が必要とされるようになりました。なるべく入れ歯を使わずに、残っている歯を大切に守るには、正しい口腔ケアが非常に重要です。また、全身麻酔下での抜歯も増えてきました。認知症の方が増え、局所麻酔では安全に抜歯することが難しいためです。このように今後は、歯科口腔外科も含めたすべての診療科において、患者さん一人ひとりに合わせた柔軟な対応が求められるようになると考えています。
当院の強みとして、看護の質が高いことも挙げられます。
たとえば、手術担当の看護師は、クリニカルパスをもとに入院・手術前から患者さんに納得いただくまで丁寧な説明をしています。また、認定看護師が多くいるのも特徴です。現在は、がん看護をはじめ、緩和ケアや糖尿病、感染管理、皮膚・排泄ケアといった分野の認定看護師が1名ずつおり、患者さんをきめ細かくサポートしています。
地域に必要とされる医療を提供していくうえでは、他医療機関との連携が欠かせません。
私は、副院長時代に「副の会」という情報交換の場をつくりました。ここでは、愛媛県立新居浜病院・住友別子病院・十全総合病院のそれぞれの副院長と、新居浜市医師会の副会長とで情報交換や相談を行っています。
現在、副の会設立当時の副院長たちは、ほとんどが各病院の院長になっているため、患者さんの受け入れなどの相談が互いにスムーズに行える関係となっています。
地域の開業医の先生方の協力も重要です。院長である私や副院長、医事課長、各診療科の部長などが、年に2回は必ず訪問するようにしています。そこで当院の情報を案内するようにしており、年に4~6回発行する当院の広報誌もお渡ししております。
医療機関だけでなく介護施設との連携も進めています。定期的に施設の方との懇話会を開いて、当院を見学いただいたり、ご相談に応じたりしています。施設に入居されている方の病態が急変したときには、当院で受け入れが可能であるということもお伝えしています。
当院では、公民館や自治体を訪れて、さまざまなお話をする出張講座を行っています。
住民のみなさまが特に知りたいとおっしゃるのが、介護の方法です。体を起こす方法や薬を飲ませるときの注意点などについて、リハビリテーションスタッフや薬剤師などが、わかりやすくお話ししています。
また、整形外科の医師による講座の要望も多くなっています。近年、筋力の低下によってさまざまな問題が引き起こされる「ロコモティブシンドローム」が注目されるようになり、ニーズが高まっています。豊かな老後を過ごすために歩きましょう、と整形外科の医師が声をかけ、理学療法士が具体的なお話をする、といった形で講座を進めています
今後は、がん緩和ケアに取り組みたいと考えています。
愛媛県内のがん診療に関しては、愛媛大学附属病院と四国がんセンターが中心となっています。しかし、急性期治療を終えたあとの慢性期の患者さんの受け皿となる病院が少なく、再発時や終末期になったとき、住み慣れた地域に帰って来られないという問題があります。こうした状況に対応するため、将来的には当院に緩和ケア病棟を設けたいと考えています。
職員のみなさんに伝えたいことは、「愛媛労災病院はみなさんのものである」ということです。みんなでこの病院をつくっていくという意識を持ってほしいと思います。
そして、院長である私の仕事は、みなさんが働きやすい職場環境を整えることです。今後もみなさんが気持ちよく働ける職場をつくるため、努力していきたいと思います。
地域住民のみなさまに伝えたいことは、シンプルにただひとつです。
当院はみなさまのためなら、どのようなことにも取り組みます。もし何か、お困りのことがございましたら、どうぞ遠慮なくご相談ください。
独立行政法人労働者健康安全機構愛媛労災病院 院長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。