トヨタ記念病院は、1938年に社員を対象とした診療所としてスタートし、1947年には地域の方にも利用いただける病院となりました。トヨタ自動車50周年にあたる1987年に現在地に新築移転してトヨタ記念病院として開院、そして2023年5月に新病院をオープンし、現在に至ります。
そんな同院の強みや注力している取り組みなどについて、病院長である岩瀬 三紀先生にお話を伺いました。
当院は、豊田市にあるトヨタ自動車株式会社の企業立病院です。もともとは工場内に設置された診療所でしたが、現在は豊田市を中心とした地域の皆さまの健康を支える地域の中核的な病院となっています。2017年9月には地域医療支援病院としての認可を取得しました。その後、2023年5月に病院再構築計画「ReBORN(リボーン)」により新棟が完成し、新病院としてスタートを切りました。
豊田市・みよし市の2市で構成される西三河北部医療圏において、65歳以上の高齢者人口は2040年ごろまで増加し続けます。特に前期高齢者の増加は急性期医療のニーズ増加と密接に関連しているため、地域の医療機関の役割はますます重要になるでしょう。
当院の理念である“『笑顔』と『まごころ』あふれる病院 ~Smile & Heart~”を日々心に留め、救急診療やがん診療などを中心に、高度かつ専門的な医療を提供できるよう努めています。
当院の救命救急センターでは、24時間365日、救急外来の受診や救急搬送者を受け入れています。“断らない救急”をモットーとする当院への救急搬送は、2021年度7,723台、2022年度8,539台、そして2023年度は8,932台と年々増加しています。そんな中、救急車不応需率(救急車受け入れ要請のうち、受け入れ困難でお断りした割合)は常に1%未満と非常に低く抑えられています。
2019年度からはドクターカーの運用も開始し、豊田市消防本部からの要請に応じて救急現場へ医師と看護師が駆けつけています。さらに、新病院の屋上にはヘリポートを設置し、へき地や山間部など、陸路搬送では時間がかかる場所からでも迅速な搬送が可能となりました。
新病院では、一刻も早い診断と治療開始を実現するために、救急外来(ERトヨタ)とCT、血管造影撮影室、内視鏡室を隣接させ各種検査室までの動線を大幅に改善しました。さらに、救命救急病棟(EICU)とERトヨタを直結する専用エレベーターを設置しています。また、救急搬送された患者さまの初期治療を行う初療ベッド数を増やし、初期治療が終わった患者さまが待機できる休養室をナースステーションの近くに配置して、より安心していただける環境に整備しました。また、CT室内でレントゲン撮影も行えるようにするなど、さまざまな工夫を凝らし、無駄を省いた効率的な救急体制づくりに努めています。
当院は“愛知県がん診療拠点病院”の指定を受けており、がん診療に非常に力を入れています。がんの手術では、開腹手術や内視鏡手術はもちろん、手術支援ロボット「ダビンチ」を用いたロボット支援下手術も2016年度からいち早く導入しています。2023年3月には2台目のダビンチを導入し、さらに多くのロボット支援下手術を行える体制となり、2024年2月には累計1,000症例を達成しました。当初ロボット支援下手術は前立腺がんのみでしたが、現在は大腸がん、胃がん、肺がん、腎がん、子宮がんに適用範囲が広がっています。
また、放射線治療では、広範囲の放射線照射が可能な“トゥルービーム”と、ピンポイントかつ短時間での放射線照射が可能な“サイバーナイフ”を導入しています。トゥルービーム、サイバーナイフは従来より低侵襲(体への負担が少ない)かつ高い効果が期待できる放射線治療です。
化学療法については、新病院の開院を機に、化学療法センターのベッド数を15床から30床に倍増しました。センターに在籍する腫瘍内科の医師をはじめ、がん化学療法専門看護師(日本看護協会認定)やがん専門薬剤師(日本医療薬学会認定)がチームとなり、患者さま一人ひとりに合わせた化学療法を提供しています。
また、緑豊かな景観を眺めることができる緩和ケア病棟を9階に新設しました。緩和ケア病棟では、患者さまやご家族が大切にしていることを尊重し、穏やかに日々を過ごせるようサポートに努めています。
トヨタの技術を用いて開発された自動搬送ロボット“Potaro(ポタロ)”は、旧病院での実証実験を経て、新病院開院を機に運用を開始しました。Potaroは、看護師の勤務時間の多くを占めていた“モノの運搬”の負担を軽減するためのロボットです。自動車の自動運転技術を応用しており、荷物を積んだワゴンを目的の場所まで運搬し、人や障害物を検知すると自動的に止まる機能に加え、ドアを開けたりエレベーターを呼び出したりする機能も搭載されています。運用開始当初は薬剤の運搬をメインにしていましたが、現在は小さな医療機器や検体、スピッツなど幅広い運搬を任せられるようになりました。その結果、看護師が本来の看護業務に専念できる時間が増加し、患者さまのケア向上にもつながっています。
2019年より、患者さまのベッドサイドで看護業務を行う“セル看護提供方式®”を麻生飯塚病院より学び導入しています。導入当初は繁雑な業務が多く、実際にベッドサイドでケアをする十分な時間を確保することが難しいという課題もありました。しかし、前述の自動搬送ロボットPotaroの導入や、当院が以前より取り組んでいるTPS(トヨタ生産方式:Toyota Production System)を基本としたカイゼン業務の積み重ねによって、さらに患者さまに寄り添った看護サービスを提供できるようになりました。今後もさらなる“カイゼン”を重ね、よりよい看護サービスの提供を目指し続けてまいります。
2024年7月には2号館に健診センター、さらに3号館としてスポーツ医学に特化したトヨタアスリートサポートセンター(TASC)をリニューアルオープンしました。リニューアルした健診センターでは、男性と女性の滞在エリアを分離しプライバシーに配慮した空間としています。また、乳がん、子宮がん、骨粗しょう症といった女性向けの検診や、PET-CT健診、脳ドックなど各種オプション検査も充実しています。
東海地方では唯一といえるTASCでは、医師、理学療法士、トレーナーが一丸となり、プロから学生まで幅広いアスリートをサポートし、競技への安全な復帰やスポーツ外傷・障害予防、パフォーマンス向上に努めます。
当院は、複数の病気を持つ患者さまにも総合的に高いレベルで診療するための医療体制を構築・改善し、より総合力の高い病院づくりを目指しています。“特定の優秀な医師がいなくなると、診療能力が落ちる”ということがないよう、若手医師の教育・指導にも力を入れており、能動的に働く若手医師に対しては、どの病院よりも早いレスポンスを行うよう心がけています。医師にとって大切なことは、積極的であることと、どんなことにも興味を持つことです。
また、謙虚と感謝の気持ちも大切にし、患者さまやご家族に病態を的確に理解していただくコミュニケーション能力を磨いてほしいです。患者さま自身が病態を理解することはよりよい治療を目指すうえで不可欠ですからね。院内外の問題や自身の興味がある分野、取り組みたいことについて上司や同僚に相談すれば、きっと応えてくれます。責任のある仕事を担当した際には、間違いの指摘や指導を受けることもありますが、それはよりよい医師に成長してほしいとの思いがあるからこそです。周りの意見にしっかり耳を傾けながら成長を目指す若手医師に対して、私たちも全力でサポートいたします。ぜひ当院で、私たちと一緒に頑張りましょう!
平素より当院の運営や診療にご理解・ご協力をいただき、誠にありがとうございます。おかげさまで、2023年5月にかねてからの念願であった新病院開院を迎えることができました。
新病院開院後も当院は、自動搬送ロボットPotaroの運用開始や2台目のダビンチ導入、健診センター、TASCのリニューアルオープンなど、地域の皆さまの医療ニーズの高まりと広がりに応えられるよう、新たな医療技術の導入とカイゼンを続けていきます。地域医療にしっかり貢献するためには、地域の開業医の先生方や慢性期医療を担う病院とのより強固な連携協力が重要であり、今後もさらに地域連携のカイゼンに取り組み、この地域での“真の地域完結型医療の実現”を推進していく所存です。
地域の皆さまの求めに応じる病院、さらには誇りに思っていただける病院となるよう、職員一丸となって努力を続けてまいります。どうぞ今後とも、よろしくお願い申し上げます。
*写真提供:トヨタ記念病院
*診療科や医師、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年10月時点のものです。
トヨタ記念病院 病院長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。