成長期に発症のピークを迎える悪性腫瘍・骨肉腫は、周囲の骨を破壊しながら腫瘍自身が新たな骨を作っていくという性質を持っています。膝周りや肩付近などに持続的な痛みや腫れがみられる場合、病院ではどのような検査が行われるのでしょうか。また、仮に骨肉腫と診断された場合には、どのような治療が行われるのでしょうか。国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科科長の川井 章先生にお伺いしました。
骨肉腫は、診察と画像検査、血液検査を行うことにより、ある程度まで診断を絞り込むことができます。これらの診察と検査は、きちんと教育を受けた整形外科専門医であれば実施することができます。
お近くの整形外科で骨肉腫など腫瘍の可能性が高いと判断された場合には、診断の確定と治療のため、がん専門病院や大学病院など、より専門的な施設に紹介となります。
診察では、腫れの状態や痛みの性状を確認します。膝や肩の関節の動き、患肢(腫瘍が生じている腕や足)の長さや太さも測ります。
骨肉腫が生じると、発生部位の骨は腫瘍によって破壊され、新たな骨が形成されていきます。レントゲン検査によって、骨の壊され方や新たな骨の形成をみることができます。
骨肉腫による骨破壊は、レントゲンでは「虫食い状」と表現されるような骨破壊としてみられます。これは、桑の葉が蚕に食われたときのように、骨の破壊部位と正常部位の境界線がギザギザと不規則であることから名づけられた言葉です。
レントゲンで骨の壊され方を表現する言葉として、このほかに「地図状」や「浸透状」と呼ばれるものがありますが、これらはそれぞれ良性の骨腫瘍やユーイング肉腫でみられることが多い所見です。これらのレントゲン所見を注意深く観察することによって診断を絞り込んでいきます。
CT検査では、骨破壊の詳細な評価や、レントゲン画像には写らない微妙な石灰化をみることができます。また、骨肉腫と診断された場合には、全身のCT検査で肺転移やリンパ節転移の有無を調べることも大切です。
MRI検査では、腫瘍自体の性状に加えて、その広がりや周りの組織との関係を詳細にみることができます。
骨の破壊や代謝の状態をみるために行います。近年では、骨シンチグラフィの代わりに、PET検査を行うケースも増えています。
骨肉腫では、血液中のアルカリホスファターゼという酵素が高い値を示すことがあります。ただし、アルカリホスファターゼ値は骨の代謝の亢進(活発になること)によって上昇するため、健康な子どもでも大人の数倍にのぼることが多く、この値が高いからといって必ずしも何らかの異常があると断言することはできません。
顕微鏡で腫瘍の病理診断を行うために腫瘍組織を採取する検査のことを生検といいます。生検には、体の外から針を刺して組織を採取する針生検、小さな手術で組織を採取する切開生検の2通りの方法があります。骨肉腫など骨の腫瘍が疑われる場合には、間違いなく診断を行うために、十分な組織が採取できる切開生検を行う方がよいと考えられます。病理診断の結果は、良性と悪性、他の病気との鑑別など、その後の診療や治療に大きな影響を与えます。生検およびその後の治療は、骨肉腫など骨・軟部腫瘍の治療経験が豊富な専門施設で受けることが重要です。
骨肉腫の治療は、抗がん剤治療と手術を組み合わせた集学的治療が基本となります。
現在では、メトトレキサート、塩酸ドキソルビシン、シスプラチンの3種類の抗がん剤を使用するMAP(マップ)療法と呼ばれる治療が、骨肉腫に対する世界の標準的な治療となっています。この3剤併用療法を、手術の前後に8~10か月ほど行います。(2018年9月現在)
手術の前に抗がん剤治療を行うことには、以下のような3つのメリットがあると考えられています。
1つ目のメリットは、手術をより安全に行えるようになることです。抗がん剤により腫瘍が縮小したり辺縁が固くなったりするため、腫瘍を切除しやすくなります。これにより、骨肉腫が生じた手や足(患肢)を温存しやすくなります。
2つ目のメリットは、抗がん剤の効き目の程度や、相性を確認できることです。腫瘍を切除した後の抗がん剤治療では、たとえ再発が起こらなかったとしても、それが薬の恩恵によるものなのかどうかまではわかりません。一方、腫瘍が目に見える状態で存在している場合、どの抗がん剤がその人の腫瘍を縮小させるかを確認することができ、術後の抗がん剤治療をどのようにするかという治療方針の決定にも役立てることができます。
3つ目のメリットは、遠隔転移を抑える可能性が高まることです。骨肉腫は、比較的早い段階で肺に転移を起こす悪性腫瘍です。手術により腫瘍を切除したとしても、その時点で肺転移を起こしてしまっていると救命は難しくなります。そのため、生検による診断確定後、すみやかに抗がん剤治療を開始し、遠隔転移を防ぐことが重視されています。
3剤併用のMAP療法では、貧血や白血球減少といった一般的な抗がん剤治療の副作用に加え、腎障害や肝機能障害、心臓の障害といった慢性的な副作用も起こり得ます。骨肉腫は若い人に多い病気であることから、妊孕性(妊娠・出産する能力)の温存など、長期的な副作用にも気を配りながら、専門的な施設で投与量や副作用の管理に十分な注意を払いつつ実施することが大切です。
骨肉腫の根治(完全に治すこと)のためには、原発巣を手術によって取り除くことが最も重要です。骨肉腫の手術では、再発を防ぐために腫瘍を周囲の正常な脂肪組織や筋肉組織で包み、一塊として切除する「広範切除」が行われます。このとき、多くの場合、骨肉腫の発生部位である骨や関節もあわせて切除する必要が生じるため、広範切除後には人工関節や患者さんご本人の移植骨を使った再建が行われます。
MRI検査などの画像診断の進歩や手術手技の改善によって、骨や筋肉、軟部組織などを広範切除したとしても、重要な血管や神経を残すことができる症例であれば、患肢(患者さんご本人の手や足)を残すことができるようになってきました。
ただし、骨肉腫の多くは骨が伸びるために必要な成長軟骨の付近に発生するため、成長軟骨を切除せずに温存することは困難な場合がほとんどです。そのため、これから身長が大きく伸びる年齢の患者さんの手術を行う際には、術後に足の長さを伸ばすことができる特殊な延長型の人工関節が使用されます。また、現在の腫瘍用人工関節は、骨との間の緩みや細菌感染、破損などさまざまな理由により、術後10年ほど経つと約半数の症例で入れ替えの手術(再置換)が必要となります。
骨肉腫の大きさや広がり具合によっては、手足を動かす神経や、手足に栄養を送る血管も切除しなければならないこともあります。また、これらの神経や血管を残すことができる場合でも骨や関節の切除範囲が大きくなる場合には、術後の機能や長期成績が大きく損なわれることが予想されることもあります。このような場合には、患肢を切断し、義足や義手を使用したほうが、生活の質(QOL)や患者さんの活動度が高まるということも報告されています。
もちろん、患者さんやご家族にとって、患肢を残さないという選択をすることは容易ではありません。そのため、私の場合は、患者さんに十分理解していただき、よく考えて、後悔しない冷静な選択をしてもらえるよう、過去に経験したさまざまな症例について、その良かったところも悪かったところも包み隠さずお話しすることを心がけています。そのうえで、患者さん自身が選んだ選択肢を尊重し、手術に臨んでいます。
日本における最新(2017年1月)の統計によると、骨肉腫の5年生存率は83%となっています。骨肉腫の場合、治療後5年間にわたり再発や転移がみられなければ、その後骨肉腫を再発する可能性は低いと考えてよいと思います。ただし、人工関節などを用いた患肢温存術を行った場合には、人工関節の破損や緩みなどのチェックを生涯にわたってきちんと行っていく必要があります。
国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科長(希少がんセンター長)
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