骨肉腫は骨にできる代表的な悪性腫瘍(がん)です。好発年齢は10歳代(特に中学生~高校生)で、日本全国の年間の罹患者数は200人程度と非常にまれな病気です。骨肉腫と似た症状は成長痛やスポーツ障害などでもしばしば認められるため、症状のみから早期診断を行うことは困難です。また、患者さんは筋肉痛などと勘違いして放置してしまうこともあります。
では、もし骨肉腫が進行した場合はどのような症状が出るのでしょうか。また、治療ではどのようなことが行われるのでしょうか。
“進行がん”の厳密な定義はがんの種類によっても異なり、がんの大きさやリンパ節、ほかの臓器への転移の状態から判断されることが一般的です。骨肉腫の場合、最初に発生した部位とは異なる部位まで病気が広がった場合(多くは肺転移の出現)、あるいは病気の拡大によって骨折などを生じた場合に進行した病態だと考えられます。
骨肉腫では、主に病気が発生した部位が痛んだり腫れたりします。最初のうちは局所を動かしたり、体重をかけたりした際などに痛む程度ですが、病気が大きくなると安静時や夜間にも痛みが生じるようになるほか、骨が弱くなり、通常であれば骨折しないような軽いけがや力で骨折を生じたりすることもあります。このような骨折のことを病的骨折といいます。
進行した骨肉腫の場合は、転移によってさらなる症状が現れることがあります。骨肉腫が転移する場合、その多くは肺に生じることが知られており、肺転移が進行すると咳や血痰などの呼吸障害が現れることがあります。なお、骨肉腫の死亡原因の多くは肺転移による呼吸不全とされています。
肺の次に多い転移箇所は骨です。転移した骨の場所や病変の大きさによっては、転移箇所の痛みや周りの神経を圧迫することによる麻痺まひ、しびれ、神経痛などを生じることがあります。さらに、前述のように病的骨折を生じる場合もあります。これらの症状は、まとめて“骨関連事象(SRE)”と呼ばれます。
進行した骨肉腫に対する治療としては、がんの進行を抑えて症状を軽減するために、化学療法や分子標的薬による薬物療法が検討されることが一般的です。薬物療法として用いられる薬は、それまでの治療歴や治療効果、患者さんの状況によって異なります。また、痛みを軽減させるための薬物治療も重要です。特に進行期の骨肉腫では、患者さんの容体もさまざまなため、患者さんの状況や希望をよく把握して治療方針を検討することが大切です。場合によっては、症状を緩和するための外科治療や放射線治療が行われることもあります。
骨肉腫の治療によって副作用や合併症が生じることがあります。なかでも治療後しばらくして起こるものは晩期合併症と呼ばれます。たとえば、骨肉腫の治療で用いられるアントラサイクリン系の抗がん薬を使用した場合、副作用として動悸や息切れ、むくみなどが現れることがありますが、この場合は心筋障害や心不全が起こっている可能性も考えられるため、早めに必要な検査、対策を検討する必要があります。シスプラチンやイホスファミドの使用による腎機能障害、シスプラチンによる聴力障害、イホスファミドによる妊孕性の低下(不妊)も重要な晩期合併症です。
また、放射線治療を行った場合は副作用として皮膚や筋肉の壊死えし、関節の拘縮(動きにくくなる)、リンパ浮腫などが起こることがあります。治療中に気になる症状が生じた場合は、迷わず医師に相談するようにしましょう。
骨肉腫は、発見時すでに発生した骨から外に進展している(Enneking*のステージIIB)ことが多く、さらに肺や骨に転移があるとステージIII期と診断されます。
骨肉腫の予後は、年齢や病気のステージ、発生部位、病的骨折の有無、化学療法の効果などによって異なります。転移のない骨肉腫では、化学療法や外科治療の進歩に伴い5年生存率は60~80%に達していますが、転移のある場合は、5年生存率は未だに20~30%といわれています。
*Enneking:骨や軟部腫瘍のステージ分類に用いられる指標
進行した骨肉腫の場合、がん自体に伴う痛みなどの症状のほか、治療に伴う副作用や合併症、病気に対する不安も本人を苦しめます。進行した骨肉腫における治療の選択にあたっては、病気の治療だけではなく、本人や家族の意思、気持ちが非常に重要となります。そのため、疑問や不安がある場合は、ためらわずに医師や看護師に相談し、場合によってはセカンドオピニオンなどさまざまな専門家の意見も聞きながら、納得のゆく治療をしてゆくことが大切です。
国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科長(希少がんセンター長)
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