骨肉腫とは骨にできる悪性腫瘍(がん)の一種です。好発年齢は10~20歳代で、特に10歳代の男児の患者が多いとされています。骨肉腫の特徴的な症状は膝や肩などの発症部位の痛みと腫れです。テレビやインターネットなどの影響から骨肉腫は知名度が高いため、子どもが痛みを訴えた場合には骨肉腫の可能性を過度に心配する親もいますが、好発年齢である10~20歳代の年代では成長痛やスポーツ障害(運動時に筋肉や骨を使いすぎることによる障害)を生じることが一般的であり、このような病気を自身で鑑別することは困難とされています。さらに、骨に発生する肉腫には良性のものもあるため、診断のためには医療機関での検査が必要となります。
骨肉腫の最初の症状はがんが発生した場所の痛みと腫れです。また、熱っぽさを感じることもあり、これらの症状は徐々に悪化するとされています。骨肉腫が発生しやすい場所は大腿骨やすねの骨の膝関節に近い部分で、骨肉腫全体の60~70%を占めます。次いで多い発生箇所は上腕骨の中でも肩に近い部分です。実際に骨肉腫を疑って受診する方は、主に膝や肩周囲の痛みや腫れを訴える方が一般的です。
しかし、骨肉腫で生じる症状は子どもの場合成長痛やけがなどでも発生することがあるため、症状だけで骨肉腫と判断することは非常に困難です。さらに、骨肉腫の年間罹患者数は150人程度と非常にまれな病気であるため、罹患者数から考えても過度に心配をする必要はないといえるでしょう。
そのほか、骨肉腫と同じような症状を呈する病気にユーイング肉腫という病気があります。これも子どもの骨に発生することがあるがんで、大腿骨に発生しやすいとされています。ただし、関節から離れた骨の真ん中に発生しやすい点が骨肉腫との違いです。
前述のように痛みや腫れだけで骨肉腫と判断することは困難であり、痛みや腫れがあっても実際は成長痛やけがが原因であることが一般的です。ただし、痛みが長く続く、夜間や安静時なども痛みがある、熱っぽさもあり症状が次第に悪化するなどの特徴的な症状があれば、骨の腫瘍や骨髄炎の可能性も含めて整形外科などの受診を検討するとよいでしょう。
骨肉腫の診断には主にX線検査(レントゲン)が行われます。検査の結果、骨肉腫の可能性が疑われる場合は骨肉腫の専門病院や診療科を紹介されることもあり、そこでさらにX線検査、がんの広がりを調べるためのCTやMRI検査、腫瘍の一部を採取して組織を見る病理検査などが行われます。その結果、骨肉腫と診断された場合は治療が行われます。
骨肉腫の治療は抗がん剤治療と手術を組み合わせて行うことが一般的です。
主に術前に2~3か月程度の抗がん剤治療を行った後に手術を行い、術後はさらに数か月~1年程度の抗がん剤治療を行います。手術前の抗がん剤治療はがんを小さくすること、細胞レベルで存在する可能性がある肺転移巣をなくすこと、腫瘍に有効な抗がん剤を知ることなどの目的で行われます。一方、手術後の抗がん剤治療は肺転移と局所の再発を防ぐために行います。なお、骨肉腫では放射線治療を行うことはまれですが、脊椎や骨盤など手術が困難な場合には重粒子線治療を行うことがあります。
手術では周囲の健康な組織とともに腫瘍を切除する“広範切除”を行います。できる限り、人工関節や自分の骨を使って手足を再建する“患肢温存術”を検討しますが、腫瘍が神経や血管へ浸潤していると太ももや肩で切断せざるを得ない場合もあります。
患肢温存術には金属製人工骨置換術や骨延長術、自家処理骨移植法(腫瘍を放射線などで消失させた骨を再び体に戻す方法)などさまざまな方法があります。金属製人工骨置換術とは、切除した部分に金属製の人工関節を入れることで機能を温存する方法です。体の中に異物が入るため、感染の危険性が10~20%位あります。
また、手術によってこれから成長する過程(特に10歳以下の子ども)の膝近くにある成長軟骨を切除してしまうと、成長後に左右の脚の長さに10cm以上差が出てしまう場合があります。このような場合には、後で骨の延長術を行うこともあります。
膝周囲の骨肉腫で通常の患肢温存術が難しい場合には“回転形成術”という方法もあります。回転形成術とは血管と神経以外(がんの部分と皮膚や筋肉など)を切除し、すねから下を引っ張り上げて前後反対にして太ももに接合する方法です。この方法を採ると通常膝があるはずの場所に足首がある状態になるため、見た目に違和感がありますが、足首が膝のはたらきをし、太ももで切断するよりも機能的に優れた状態にすることが可能です。
骨肉腫は進行が非常に早いため早期発見、早期治療が重要です。また、現時点で診断から5年後に再発もなく生存している確率(5年無病生存率)は60~70%とされていますが、診断時に肺に転移している場合の5年無病生存率は20~30%となっています。繰り返しになりますが、骨肉腫の発症数から考えると多くはないため過剰に心配する必要はありません。ただし、子どもが長期間続く腫れや痛みなどを訴える場合は、ほかの病気である可能性を考慮して整形外科などの受診を検討するとよいでしょう。
地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター 元総長、横浜市立大学 整形外科臨床教授
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