骨肉腫は骨にできるがんの約30%を占めるもっとも頻度が高いがんです。しかし、患者数自体は非常に少なく、日本における新規年間患者数は200~300人程度と類推されています。なかでも10~20歳代に多く、全体の約50%以上を占めます。ただし、中高年でも一定の割合発症し、近年は少子化、高齢化に伴い中高年の骨肉腫の数が増えてきています。患者数から見ても骨肉腫は非常にまれな病気といえますが、骨肉腫は発見してから早期の治療介入が望ましく、骨肉腫について正しい情報を理解することが必要です。
本記事では骨肉腫の原因をテーマに、骨肉腫の受診の目安や予防策の有無について詳しく解説します。
骨肉腫の原因は、いまだはっきりと解明されていません(2024年4月時点)。しかし、関連する病気や危険因子はいくつか見つかっています。
骨肉腫の発症には、遺伝子変異が原因の1つにあると考えられています。たとえば、遺伝性疾患であるLi-Fraumeni(リー・フラウメニ)症候群の患者さんの場合、骨肉腫を発症しやすいと考えられています。Li-Fraumeni症候群とは、がん抑制遺伝子(細胞ががん化するのを防止する遺伝子)である“p53遺伝子(TP53遺伝子)”の変異によって起こるもので、骨肉腫に限らず、あらゆるがんの発症につながるといわれている病気です。
また、RB1遺伝子の変異によって起こる網膜芽細胞腫も骨肉腫の発症に関連しているといわれています。網膜芽細胞腫は網膜にできるがんで、乳幼児に多い病気です。骨肉腫を含む骨や筋肉の肉腫を発症するリスクが高いといわれています。そのほか、まれではありますが、骨パジェット病、ロスムンド・トムソン症候群、ブルーム症候群なども、骨肉腫を含めた何らかのがん種を発症するリスクが知られています。
ほかのがん治療で放射線治療や化学療法(抗がん薬)の経験がある場合、遺伝子異常などがなくても骨肉腫など二次がんを発症するリスクが高まることがあるとされています。
まれに、放射線治療を行った箇所から発生する照射後肉腫として骨肉腫が発生することもあります。また、放射線治療の量が多いほどリスクも高まるとされています。
骨パジェット病とは新しい骨細胞の代謝異常により起こる病気で、罹患した骨は脆くなって変形し壊れやすくなります。
通常の骨肉腫は若年での発症が多いですが、骨パジェット病が関連していると考えられる骨肉腫は50歳以上に多くみられます。日本では米国に比べて骨パジェット病の患者数は少ないことが知られていますが、骨パジェット病の患者さんのうち約1%に骨肉腫が発生するといわれています。
繰り返しとなりますが、骨肉腫のいくつかの危険因子は知られているものの、明らかな原因は分かっていません。そのため、予防法についても確実なものは存在していません。
しかし、早期発見・治療によって、病気の進行を食い止め、予後(病気の見通し)をよいものに導ける可能性はあります。早期発見につなげるためには症状を理解し、気になる症状が現れたら早めに整形外科などの受診を検討するとよいでしょう。
骨肉腫の代表的な症状は痛みと腫れです。特に大腿骨やすねの骨の膝に近い部分、肩に近い上腕骨に発生することが多いとされているため、これらの部位に痛みや腫れがある場合は注意するとよいでしょう。
ただし、これらの症状は一般的に好発年齢である10~20歳代でよくある成長痛やスポーツ障害(運動時に筋肉や骨を使いすぎることによる障害)によって生じている可能性があります。また、骨肉腫の発症数から考えても痛みや腫れなどの症状だけでは骨肉腫である可能性は極めて低いと考えられます。したがって、疼痛だけで過度に骨肉腫を不安視する必要はありません。
ただし、痛みや腫れが数か月以上続く、夜間や安静時でも痛む、局所の熱っぽさなどを感じる場合は、ほかの病気の可能性も含めて、まずは近くの整形外科の受診を検討するとよいでしょう。
整形外科では主に、まずX線検査(レントゲン)を行います。そのうえで骨肉腫が疑われると判断された場合、多くは骨肉腫の専門とする病院を紹介されます。ただし初期の段階では、X線検査だけでは判別できないことも少なくありません。
骨肉腫が疑われる場合には、がんの広がりを調べるためのCT検査やMRI検査、腫瘍の一部を採取して組織をみる生検による病理検査などが行われます。このような検査の結果、骨肉腫と診断された場合は治療が行われます。
現在、骨肉腫の原因ははっきりとは解明されていませんが、遺伝子異常や放射線・抗がん薬での治療歴などいくつかの危険因子が可能性として考えられています。そのため、先ほど述べた症状や骨肉腫発症のリスク因子があって気になる症状のある方は、病気の可能性も考えて医師に相談するとよいでしょう。
国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科 医長
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