骨軟部腫瘍の治療は、外科治療(手術)・放射線治療・化学療法の3種類の治療を腫瘍の種類に応じて使い分けて行います。外科治療や放射線療法は局所治療であり、化学療法は全身的な治療法です。本記事では、腫瘍の種類と病期によって選択される骨軟部腫瘍の治療について、国立がん研究センター中央病院 希少がんセンター長 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科 科長 川井 章先生にお話しいただきました。
外科治療(手術)の目標は、①腫瘍の原発巣を完全に切除すること、②腫瘍とともに切除した骨や関節を再建し患肢機能を回復することです。特殊な例を除いて、悪性骨腫瘍の根治のためには広範切除による適切な外科治療が不可欠です。
腫瘍に放射線を照射し、腫瘍を死滅させる方法です。腫瘍の大きさや場所によって、手術のみでの完全切除が困難な場合に、補助的な治療法として使用されることがあります。
骨肉腫やユーイング肉腫には抗がん剤による化学療法が有効です。腫瘍の組織型に応じて複数の薬剤を組み合わせて使用します。
組織学的には悪性度の低い軟骨肉腫、線維肉腫の一部などが含まれます。手術は広範切除(正常組織で腫瘍を包み込むように切除する方法)を行います。
適切な広範切除が行われた場合、四肢発生例においては局所再発率は10%以下、5年生存率は90%以上が期待されます。手術が困難な骨盤や脊椎に発生した例では、局所再発率はこれよりも高く、治療成績は劣ります。初回手術で適切な広範切除を行うことが極めて大切です。
多くの骨肉腫、悪性線維性組織球腫、ユーイング肉腫などが含まれます。診断時には周囲の軟部組織に進展していることが多く(ステージIIB)、骨内にとどまっている例(ステージIIA)はまれです。これらの腫瘍は、手術による局所治療のみでは遠隔転移を生じる可能性が高く、外科治療と化学療法を主体とした集学的治療が行われます。
骨肉腫やユーイング肉腫などでは、「術前化学療法⇨原発巣外科治療⇨術後化学療法」という全治療期間1年弱の集学的治療が必要になります。現在、骨肉腫の治療成績は、四肢発生例においては5年生存率70~80%、脊椎・骨盤などの体幹発生例では5年生存率30~40%です。ユーイング肉腫の5年生存率は約60%です。
原発巣(がんが最初に発生した場所)と転移巣(多くは肺転移)の両者に対する治療が必要です。骨肉腫やユーイング肉腫など化学療法が有効な腫瘍では、原発巣・転移巣を手術で切除したあとに化学療法を行うことで、治癒、長期生存する患者さんも増えてきました。
病態に合わせた治療法の選択は次のとおりです。
悪性度の低い高分化型脂肪肉腫などが含まれます。広範切除による手術で治療されます。適切な広範切除が行われた場合、局所再発率は10%以下、5年生存率は90%以上が期待されます。
広範切除による手術で治療されます。適切な広範切除が行われた場合、局所再発率は10%以下、5年生存率は90%以上が期待されます。
滑膜肉腫、平滑筋肉腫などが含まれます。広範切除による手術が基本ですが、局所再発を防ぐための放射線治療と、遠隔転移を生じる危険性が高いと考えられる場合には化学療法が併用されることがあります。
化学療法による全身治療が中心になります。原発巣による痛みや腫脹などの症状を緩和するために手術や放射線の局所治療が行われることもあります。粘液型脂肪肉腫など化学療法が比較的有効な腫瘍では、長期生存する患者さんも増えてきました。しかし多くの場合、完治は難しいため緩和治療を併用しながら病気とうまくつきあっていくことになります。
これまで、再発、転移した悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)に対する抗がん剤としては、ドキソルビシン、イホスファミドによる一次治療の後は、有効な抗がん剤はありませんでしたが、近年いくつかの新しい薬が開発されています。2012年にパゾパニブ、2015年にトラベクテジンが発売となり、2016年2月にエリブリンが軟部肉腫にも適応拡大されました。これから、これらの新しい薬をいかに適切に使って、軟部肉腫の患者さんの治療成績を上げてゆくかが重要な課題です。
仙骨に発生した脊索腫など、切除困難な悪性骨腫瘍に対して、炭素線などの重粒子線治療が保険適応になりました。これまで、先進医療として300万円程の自己負担が必要でしたが、これからは保険での診療が可能になります。骨軟部腫瘍を専門とする整形外科医と放射線治療医が協力して治療にあたることがますます重要になります。
国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科長(希少がんセンター長)
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