骨肉腫は、成長期の子どもに生じることが多い「骨のがん」として知られています。患者数自体は非常に少ないものの、適切な診断と治療が行われない場合、患者さんの生命やQOLを脅かすことにもなる重大な病気です。では、どのような症状があるときに、骨肉腫の可能性も考えて病院を受診したほうがよいのでしょうか。
国立がん研究センター中央病院骨軟部腫瘍・リハビリテーション科・科長の川井 章先生にお伺いしました。
診療科目の名称は、院内標榜を掲示しています。
骨肉腫とは、成長期の子どもや若年成人などに好発する悪性腫瘍のひとつです。膝周りなどに発生することが多く、悪性腫瘍そのものが新たな骨を形成するという特徴があります。
悪性腫瘍と聞くと癌を連想される方も多いでしょう。癌と肉腫にはどのような違いがあるのでしょうか。
・癌:
上皮細胞から発生する悪性腫瘍のことを指します。上皮細胞とは、体の表面や管腔臓器の表面を覆う細胞です。
「胃癌や肺癌は体の内部にできる悪性腫瘍では?」と疑問に思われた方もいるかもしれませんが、これらの悪性腫瘍は胃の粘膜上皮細胞や気管支・肺胞などの上皮細胞など、実は体の外(外界)とつながっている細胞から発生するため、癌に分類されるのです。癌は一般にリンパ節への転移をしやすいことが知られています。
・肉腫:
脂肪や筋肉、骨の細胞など、体の支持組織である間葉系細胞から発生する悪性腫瘍のことを指します。これらの細胞は上皮細胞とは違い、外界には接していません。肉腫は、がんと異なり血流にのって肺に転移しやすいことが知られています。
骨肉腫とは、肉腫のうち「腫瘍細胞自身(そのもの)が骨を形成する性質」を持った悪性腫瘍のことを指します。
実際には骨肉腫の大半が骨から発生するため、「骨にできる悪性腫瘍が骨肉腫である」と捉えられてしまうこともあります。しかし、骨から発生する肉腫には、骨肉腫以外にも軟骨肉腫やユーイング肉腫などの肉腫が存在します。また、頻度はごく稀であるものの、骨肉腫が筋肉や脂肪など骨以外の組織から発生することもあります。これらは骨外性骨肉腫と呼ばれます。
骨肉腫は患者数の少ない希少がん*のひとつです。日本整形外科学会・国立がん研究センターが取りまとめた「全国骨腫瘍登録一覧表 平成27年度」によると、2015年の骨肉腫の総数は全国でちょうど200例となっています。
希少がんとは:年間発生数が人口10万人あたり6例未満の悪性腫瘍のこと。骨肉腫は代表的な希少がんのひとつ。
骨肉腫は、成長期にあたる年齢の方に多くみられます。「全国骨腫瘍登録一覧表 平成27年度」によると、2006年~2015年における骨肉腫の発症年齢のピークは15~19歳、次いで10~14歳となっています。
高齢化に伴い、近年では高齢者の骨肉腫の報告も増えていますが、これらは骨盤や軟部組織に多い傾向がみられます。
同データによると、2006年~2015年に登録された骨肉腫の男女比は1031例:794例と男性の方がやや多くなっています。これは男女の持つ細胞量の差に関係しているのではないかと推測されています。
骨肉腫を発症する原因は、現在のところ完全には解明されていません(2018年9月時点)。ただし、体が大きく成長する小児~思春期の方に多くみられることから、体の成長期に細胞分裂が活発に起こることに関連して生じる可能性が高いと考えられています。
骨肉腫と体の成長との関連は、骨肉腫が生じやすい部位からも示唆されています。骨肉腫が最も生じやすい部位は、股関節と膝関節をつないでいる太ももの骨、大腿骨の遠位(膝側)の骨幹端部です。骨幹端部とは、身長が伸びるときに活発に細胞分裂が起こる骨端軟骨(成長板)のやや骨幹寄りの部分を指します。この部分では、体の成長に合わせて、骨の形成と形の作りかえ(骨の改変)が活発に行われています。このとき、活発に分裂が起こっている細胞に何らかの異常が生じて骨肉腫が発症すると考えられているのです。
骨肉腫は、大腿骨遠位のほか、すねの骨である脛骨の近位(膝側)や、肩関節と肘関節をつなぐ上腕骨の近位(肩側)にも発症しやすいことが知られています。脛骨近位や上腕骨近位も、骨が成長するときに細胞分裂が活発に起こる成長板がある部位です。
他のがんと同じように、骨肉腫においても遺伝子異常の解析が進められています。現在のところ、骨肉腫のなかには、P53遺伝子に異常がみられるもの、網膜芽細胞腫(Rb)遺伝子に異常がみられるもの、そしてこれらの遺伝子に異常がみつからないものがあることがわかっています。
しかし、なぜこれらの遺伝子に異常が起こるのか、また、その遺伝子異常が生じるとどうして骨肉腫ができるのかといったことに関しては、まだ解明されていません。
なお、遺伝子の異常により骨肉腫が生じることは示唆されているものの、骨肉腫は親から子へと遺伝する遺伝性疾患とは異なると考えられています。
骨肉腫には、何らかの原因疾患(先行疾患)があることで生じる二次性のものもあります。二次性骨肉腫の原因疾患としては、網膜芽細胞腫という目の病気などがあります。また、放射線治療も二次性骨肉腫を引き起こすことがあります。
骨肉腫の代表的な症状は痛みと腫れです。典型例では、次に掲げる部位に持続的な痛みや腫れがみられます。
このなかでも大腿骨遠位の成長板付近は骨肉腫が最も発生しやすい部位であり、痛みや腫れも膝の周辺に現れることが多くなっています。
関節そのものではなく、関節から少し離れた部分(骨幹端部)に症状があるという患者さんの訴えは、骨肉腫の診断のために役立ちます。膝関節の隙間(関節裂隙)そのものに痛みや腫れが生じている場合は、半月板損傷や靱帯断裂など、関節の損傷である可能性が疑われますが、骨肉腫では膝関節から数cm離れた成長板の近く・骨幹端部に症状が現れる傾向があります。
骨肉腫の痛みの特徴は、1か月~数か月以上にわたり長く続くことです。
成長期の子どもが「膝周りが痛む」と訴えている場合、その正体は成長痛や過剰なスポーツ活動を原因とした痛みであることがほとんどです。しかし、症状が徐々に強くなっていく場合や、安静にしても痛みが持続する場合には、背後に骨肉腫のような病気が隠れている可能性も考え、医療機関を受診したほうがよいと思います。
体表の腫れは、体の内部に発生した骨肉腫が大きくなることで現れます。冒頭でも述べたとおり、骨肉腫とは「骨を新たに作る性質を持った悪性腫瘍」です。腫れの正体も骨であるため、触って動かそうとしても硬くて動かないという特徴があります。また、腫れていても赤みなどはほとんどみられません。
骨肉腫を疑う症状がみられる場合には、まず整形外科を受診することをおすすめします。きちんと教育を受けた整形外科専門医であれば、次の記事『骨肉腫の検査と治療、5年生存率-抗がん剤治療と広範切除手術』で紹介する画像検査や血液検査を行うことによって、ある程度まで診断をつけることができます。これらのスクリーニング検査により、骨肉腫など腫瘍の可能性が高いと判断された場合は、がん専門病院や大学病院など、より専門的な施設へ紹介となります。
次の記事では、骨肉腫の検査と治療、予後について解説します。
国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科長(希少がんセンター長)
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