2014年6月、国立がん研究センターに希少がんセンターが開設されました。希少がんセンターは、国立がん研究センターにおける希少がんの診療や研究を円滑に進めるための中心的役割を果たすとともに、日本における希少がん対策を先導する役割も期待されています。本記事では、日本における希少がんへの取り組みや希少がんセンターの役割について、国立がん研究センター中央病院 希少がんセンター長 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科 科長 川井 章先生にお話しいただきました。
2015年3月に設置された「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」(座長 国立研究開発法人国立がん研究センター 理事長 堀田知光先生)において、がん対策推進基本計画に基づき、希少がん医療・支援のあり方に関して検討が行われました。
(※関連記事:国立研究開発法人国立がん研究センター前理事長 堀田知光先生「がんの死亡率・罹患率の推移-高齢化・医療の進歩ががんにもたらすもの」)
検討会では、これまで日本では定義が明確でなかった「希少がん」の定義を定めました。定義は次のとおりです。
*罹患率:1 年間に人口 10 万人のうち何名罹患したかを算定した値。
*RARECARE 分類::欧州の希少がん関連学会の連合プロジェクト。希少がんの定義、リストアップ、データ整理等を行っている。(現在は RARECARENet というプロジェクト)
*診療・受療上の課題:①標準的な診断法や治療法が確立しているかどうか。②研究開発、臨床試験が進んでいるかどうか。③既に診療体制が整備されているかどうかなど。
「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」では、日本における希少がんに対する取り組むべき課題について以下のような内容が議論されました。
希少がんがまれな疾患であるがゆえに、十分な症例数の経験を有する病理医が少なく、病理診断が正確かつ迅速に行われないケースがあります。その結果、治療の開始が遅延したり、予後を悪化する原因になることにつながっています。これらを改善するために、国立がん研究センターや日本病理学会が協力し、病理医の専門性の研鑽を行える体制作りや、病理診断の依頼を受ける病理医との業務を円滑に進めるための事務局の整備などを行う必要があります。
希少がんは症例数が少なく、臨床研究や治験を進めにくいことから、標準的な治療の確立やガイドラインの策定が困難で、患者さんが近隣の病院を受診しても適切な治療を受けられないことが懸念されます。また患者さんが分散して病院を受診すると、各々の施設や医療者が経験する希少がんの症例数が少なくなり、十分な経験に基づく的確な治療が行えない可能性も懸念されます。希少がんでは、5大がんなど数の多いがんで進められている均てん化とは別の、限られた施設に患者さんを集める(=集約化)必要性も検討する必要があります。
平成26年11月に内閣府が実施した世論調査では、88.4%の方が、希少がん患者さんを集める「集約化」が必要であると答えています。しかし、一方では、もし自分が希少がんと診断された場合、77.3%の方が専門的な医療機関まで「片道3時間未満」で通いたいという希望があるという結果も出ています。患者さんが専門的な医療機関をみつけやすくするような環境の整備や、集約化により患者さんが大きな不利益を被らないようにする工夫も大切です。
(※関連記事:国立がん研究センター がん対策情報センター がん臨床情報部 部長 東尚弘先生「がん対策情報センターが担う希少がんの取り組み」)
希少がんにおいては、一人の医師の経験する患者さんの数が少なく、その病気に関する知識や経験が豊富な医師が育ちにくい環境があります。センター施設での研修やWEB等を活用した教育によって、医療者の教育・育成を促すことが重要です。また、医師や医療スタッフの教育を通して、希少がんに対する集学的な医療や研究・開発を進められる医療チームの育成にもつながることが期待されます。
希少がんに関する正しい情報が十分に発信されていないため、患者さんが疾患の正しい知識を得ることが難しい現状があります。また、専門の医療機関や医師の情報も周知されていません。今後は国立がん研究センターがん情報サービス等を活用して、希少がんの診療実績、専門的な医師・医療機関、患者団体の情報、各施設の取り組み、学会・研究会の情報、研究や治験情報等を広く提供する体制をつくっていく必要があります。
現在、国立がん研究センターの希少がんセンターには「希少がんホットライン」という電話相談窓口が設けられています。今後は、より充実した相談支援体制、相談員の育成、ホットラインの周知など、その機能をより強化、整備していくことが必要と考えられます。
がん基本計画に基づき、平成26年度から「がん研究10か年戦略」が定められています。そのなかに「希少がん等に関する研究」が挙げられ、希少がんに対する研究開発の推進が求められています。また、日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group : JCOG)などでも、希少がんに対する臨床試験は行われていますが、症例の少なさから臨床試験や治験が進みづらい状況は続いており、“集約化”、“ネットワーク化”による臨床試験や研究開発の促進が期待されます。
希少がんセンターは、国立がん研究センターにおいて診療科の垣根を越えた希少がんに対する連携体制を整えると共に、希少がんの中でも特にmultidisciplinary(集学的)な診療が必要とされるサルコーマ(肉腫)に対してサルコーマグループを組織し、多診療科の医師による定期的なサルコーマ・カンファレンスを実施しています。また、希少がんに関する最新の正確な情報を提供するために希少がんセンターホームページを開設し、逐次更新を行っています。
(※関連ホームページ:国立がん研究センター 希少がんセンター)
さらに、一人一人の患者さんや医療関係者に対して、情報提供、相談支援を行うことを目的として、前述の「希少がんホットライン」という専任の看護師による電話相談窓口を設けました。「希少がんホットライン」の開設以来、これまでに相談を受けた件数は4,000件を超え、希少がん患者とその治療にあたる医療関係者が、十分な情報のない中で、信頼できる情報源、相談先を求めていることが痛感されます。
国立がん研究センターの希少がんセンターは、臨床の現場から希少がんのかかえる問題点を明らかにし、自ら率先してその解決を図るとともに、公正・中立な立場から、我が国における希少がん医療の望ましい集約化・ネットワーク作りをサポートする拠点として活動していきたいと考えています。
国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科長(希少がんセンター長)
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