坂出市立病院は、香川県坂出市で急性期医療を主に、在宅医療も提供する公立病院です。沿革上のターニングポイントとなった1991年以降、経営改善のために職員一同で努力を重ね、大きな成長を遂げて今の病院があるのだと院長の岡田 節雄先生はおっしゃいます。どのような取り組みを行い、現在の姿へと成長したのか、お話を伺いました。
坂出市立病院は1946年に開院し、現在に至るまで80年近い歴史を誇る市民病院です。増床や診療科の拡充を行い、また急性期医療と在宅医療に力を入れながら、地域医療に貢献できるように尽力してきました。
前々任の院長が赴任した1991年当時、当院は医業収支の赤字が続き、総務省から廃院勧告を受けるなど民間病院であれば倒産していてもおかしくはない状況でした。この危機的状況を受けて、当時の院長は職員を厳しく指導し、職員は自らを奮い立たせるようになったといいます。
当時の院長が初めに着手したのは組織風土の改革でした。当時は赤字経営が続いている原因が他部署にあると考え、お互いに責任転嫁し合うなど職場の雰囲気がよくありませんでした。そこで“相手が喜ぶことを考えながら行動しよう”などと訴え続け、部署を超えた協力体制の構築に取り組みました。また、行動のよりどころになる共通の価値観“理念”を作成し、市民の皆さんが安心して暮らし、心の支えとなる病院になるためにはどうすればよいのか、常に考えて行動できるよう職員の意識改革をしました。
職員の努力の甲斐あって、当院は地域の急性期医療を担う病院へと成長し、救急告示病院やへき地中核病院などの指定へとつながりました。2010年には、地域の急性期医療を支える健全な病院経営の努力が認められ、自治体立優良病院総務大臣表彰も受賞しています。表彰を受けられたことは、地域の皆さんのご支援のもと、職員が努力を重ねてきた結果だと思います。
当院は医療圏において2次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)を担っています。今年(2024年)の救急車の受け入れ件数は2,000件を超える見込みで、過去最高を更新する見通しです。このように救急を積極的に受け入れているのは、救急医療が崩壊したら地域医療の崩壊につながると考えているためです。
それでも、当院の病床数は200床ほどで、救急救命センターが備わっているわけではありません。そこで、多くの患者さんを受け入れるため、特に夜間の受け入れ態勢を強化し、昼夜問わず迅速に緊急手術が実施できる体制を整えました。昼間は多くの医療スタッフがいますが、夜間は当直の職員数が限られます。そこで当直の医師が対応できない場合には、各診療科の医師に連絡し、迅速に対応できるようにしました。簡単なことのように思われるかもしれませんが、勤務時間外に病院まで来てくださいと依頼するのはなかなかハードルが高いことです。このように診療科の垣根を越えて、患者さんファーストの目線でスタッフが連携しているのが当院の強みで、それが救急の受け入れ件数の増加につながっています。
当院は改革を重ねるなかで、救急の他に抗がん剤治療(化学療法)に力を入れたり、悪性疾患に力を入れたりして、急性期の患者さんを数多く受け入れる方針を掲げました。その結果、救急の受け入れ件数だけでなく化学療法の症例数も非常に増えており、現在(2024年)は年間約4,300件に達しています。
一方、急性期の患者さんが慢性期へ移行した際にはスムーズに在宅医療へ切り替えられるよう訪問診療にも力を入れ、最後まで責任を持って診療する体制を整えています。急性期医療を中心に提供していこうと言いながら、訪問診療にも注力するのは相反すると感じるかもしれません。しかし、患者さんが希望していないのに、慢性期医療を提供している病院に紹介するのは当院の理念に反します。そこで、訪問診療に力を入れることで、患者さんが希望される医療サービスを提供できるようにしました。
また、退院後も在宅診療、看護の面からサポートすることで、患者さんが住み慣れた地域で過ごせるよう、すこやかライフ支援室を設置しました。すこやかライフ支援室は、訪問診療を利用している患者さんが夜間に具合が悪くなった場合や、ご自宅でのお看取りなどに対応するため、スタッフを派遣する部署です。支援室に所属しているスタッフは、24時間体制でご家族からの連絡に対応するためにPHSを所持しており、患者さんの具合が悪いときはすぐにご自宅に向かい、必要であれば当直医の手を借りて処置にあたります。
地方の中規模病院に求められる要素とは、1つの診療分野に特化することではなく、全ての診療科をカバーできる総合力だと思います。急性期医療はもちろんのこと患者さんの在宅復帰に向けたサポートも合わせて充実させることで、地域に求められる医療を充実させることができるのではないでしょうか。
そのため、当院では多くの診療科を設置し、さまざまな病気に対応できる体制を整えています。たとえば、呼吸器疾患については内科と外科を備えることで、呼吸器感染症やアレルギー性疾患などの内科的な診療だけでなく、肺がんや気胸などの外科的な治療が必要な病気にも対応しています。
専門外来の血液内科では、白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの血液がんを中心とした、血液疾患に関する治療を行っています。当科には、一般社団法人日本血液学会が認める血液専門医が在籍しており、患者さんの病状に配慮しながら、造血幹細胞移植や抗がん剤治療などを行っています。また、知識と経験をもとに、なるべくご希望に添った医療を提供するように努めています。その結果、坂出市だけでなく、周辺地域の患者さんも数多く受診されるようになりました。
ちょうど新型コロナウイルス感染症が中国の武漢で始まった年(2019年)に、当院は中讃地区で唯一の第二種感染症指定医療機関の指定を受けたばかりで、瞬く間に新型コロナの最前線病院としての対応を迫られました。その結果、中讃地区を中心に広範な地域から新型コロナの患者さんを受け入れ、その数は入院された患者さんだけでも2024年3月末までに延べ2,100名を超えました。当院のような規模の病院でこれほど多くの新型コロナの患者さんを受け入れることができたのは、当院のスタッフが“地域医療を支えるため、積極的に患者さんを診療していこう”という思いを強く抱いていたからです。通常行われている手術についても件数こそ減りましたが、皆で“どうしたらできるか考えよう”を合言葉に取り組んで、大きな成果を得ました。
当院は病院経営が困難な状態から地域の皆さんのご支援のもと、急性期医療に主軸を置きつつ、在宅医療の提供も可能となるまで成長しました。地域の皆さんが坂出市で充実した急性期医療、そして在宅医療を受けることができる環境をさらに整えていくために、職員一同、今まで以上に努力を重ねてまいります。急性期医療とその後の在宅医療に注力しながら、地域に求められる機能を発展させ、維持してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
また、若い医師の皆さんには、自身の専門分野の技術や知識を多く身につけると共に、総合診療の大切さも改めて理解してもらえたらと思います。専門性を重視し、知識と技術を身につけていくことは、医師としてひとつの正しい姿です。しかし、診療とは、病気そのものを診ることだけではありません。患者さんの家庭環境、入院中や退院後に必要なサポートなどのさまざまなことを考えて、患者さん自身を診療することが大切です。患者さんからも高い評価を受ける地域医療の担い手を目指して、高い医療技術を習得するのと同時に、豊かな人間性と正しい倫理観を養っていただければと思います。
坂出市立病院 院長
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現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。