院長インタビュー

自治体病院として地域医療を守る高岡市民病院の取り組み

自治体病院として地域医療を守る高岡市民病院の取り組み
薮下 和久 先生

高岡市民病院 院長

薮下 和久 先生

目次
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富山県高岡市の自治体病院である高岡市民病院は1951年の開設以来、地域の皆さんが安心して生活できるように急性期医療の提供に尽力してきました。富山県北西部の高岡市をはじめ、氷見市、射水市の3市からなる高岡医療圏の急性期医療を担う同院について、病院長の薮下和久先生にお話を伺いました。

高岡市民病院 外観

高岡市民病院 外観

当院は、高岡市の自治体病院であり、約30万の人口(2019年4月時点)を持つ高岡医療圏において急性期医療の一端を担っています。高岡市の自治体病院としての使命を持ち、地域の皆さんの生活や健康を支えるために、急性期医療の提供に尽力しています。

2000年3月に新病院の開設にともない、「生命の尊重と人間愛を基本に、心がかよいあう医療の提供」の基本理念に基づいた5つの基本方針を新たに掲げました。

Hospitality(心のこもった接遇)、Excellent(良質な医療で健全経営)、Amenity(快適な療養環境)、Relationship(人材を育成しよりよい人間関係)、Trust(地域との信頼関係の構築)の5つです。さらに、この5つの基本方針を合わせたHEART(心のかよいあう医療)をキャッチフレーズに「病んでいる患者さんに寄り添うHEARTをもとう」という考えを持って医療の提供に尽力しています。この考え方のもと、心のかよい合う医療の提供に従事し、患者さんやご家族、地域の医療機関からも選ばれ、頼られる病院作りを目指しています。

病んでいる患者さんに寄り添うHEARTをもとう
病んでいる患者さんに寄り添うHEARTをもとう

当院は1996年に災害拠点病院の指定を受け、災害医療の分野でも自治体病院としての使命を持って取り組んでいます。また、2000年に行った新病院への移転の際には、当院が災害拠点病院としての機能をフル活用できるように設計しています。たとえば、大規模災害が発生した際には、1階ロビーが処置室になり被災した方々に適切に医療を提供できるようになっています。

また、周辺地域の災害医療だけでなく、全国で発生した災害に対してDMAT(災害派遣医療チーム)を派遣しています。当院はDMATを2チーム擁しており、実際に2007年に発生した新潟県中越沖地震、2011年に発生した東日本大震災、2016年に発生した熊本地震にDMAT隊員を含めた医療救護班を派遣しました。日頃から地域の医療機関と連携した大規模災害訓練を実施しており、有事に備えています。

高岡市民の皆さんの健康を守ることは、当院の使命の1つだと考えています。経済的に困窮している方や、受け入れられる医療機関が限られる病状の方など、さまざまな背景を持った患者さんがいらっしゃいます。そういった方々に対しても、当院が受け入れ、治療にあたらなくてはならない、という意識を職員全員が持って日々の診療に臨んでいます。

高岡市民病院 内観
高岡市民病院 内観

当院は高岡市の自治体病院として、市民の皆さんが安心して生活を送ることができるように、医療を提供していく必要があると考えています。そのため、当院では結核医療、精神疾患などの政策医療の提供にも尽力しています。特に精神科疾患に対しては、精神科病棟を開設し、身体合併症のある精神疾患の患者さんを受け入れ、治療にあたっています。

政策医療などを当院が担うことは、自治体病院としての使命の1つであり、地域の皆さんが安心して生活を送るために当院が担い続けるべき医療であると自負しています。

地域における認知性疾患の医療、情報提供の1つとして、認知症疾患医療センターを2017年10月に開設しました。認知症疾患医療センターは、認知症の方やご家族が地域で安心して生活を送ることができるように、認知症に関するさまざまな相談や鑑別診断などを行う専門医療機関です。認知症疾患医療センターでは、相談窓口業務を行いながら医師の力が必要なときには神経内科、精神神経科の医師が担当します。神経内科、精神神経科の医師が常勤していることや、精神科病棟を開設している強みを生かして、認知症の患者さんの急性期治療を行うこともあります。認知症疾患医療センターが順調に運営できているのも、医療機関や地域の皆さんからのご理解、ご協力のおかげであると考えています。

地域の急性期医療を担う
地域の急性期医療を担う

当院は地域の急性期医療の一端を担い、救急医療やがん診療、地域に求められる医療の提供に尽力しています。救急医療では、救急車に限らず、ドクターヘリで搬送される患者さんの受け入れも行い、救命にあたっています。高岡医療圏の病院群輪番体制を確立することで、地域の救急患者さんを高岡医療圏の医療機関で受け入れ、治療にあたることを可能としています。

以下では、救急医療で必要不可欠な循環器疾患と脳血管障害の治療についてご紹介いたします。

循環器疾患の治療では、虚血性心疾患不整脈に対するインターベンション療法を積極的に行っています。緊急の治療を要する虚血性心疾患に対応できる体制を整え、症状発現から治療開始までの時間を短縮して救命率向上を目指しています。患者さんの症状に合わせて、より適切な治療方法を選択できるように尽力しています。

また、複数の診療科を有している利点をいかして、他科との連携もスムーズに行っています。近年では、糖尿病高血圧などの生活習慣病を原因とした心臓血管病の発症も増加傾向にあります。1つの病気のみを治療するのではなく、患者さんを総合的に診療する体制を取っています。

当院では、脳卒中の治療にも力を入れて取り組んでいます。脳神経外科と神経内科で緊密な連携を取り、脳卒中の患者さんを受け入れ、治療にあたっています。脳卒中の患者さんは夜間でも搬送されてくることがあるため、脳神経外科、脳神経内科の医師が24時間診療にあたることができる体制を取っています。また、脳卒中地域連携パスを運用して、長期のリハビリテーションを必要とする患者さんの情報共有をスムーズに行い、緊密な連携体制を可能にしています。

当院は、2007年1月に地域がん診療連携拠点病院の指定を受けました。この指定を受け、婦人科がん、乳がんなどの「女性のがん」の治療を当院の強みの1つとしています。また、2016年には外来部門を集約させた包括的がん医療センターを開設し、診療科や部門にとらわれることなく予防医学から検診、治療、緩和ケアまで一貫した医療を提供するシステムが構築できました。さらに、外来化学療法室を2016年10月にセンター内へ移転させました。リクライニングチェアを7台、ベッドを4台設置して、外来での化学療法のニーズに応えられるように整備しています(2019年10月時点)。

センター内には外来機能だけでなく、がん相談支援室、栄養相談室、看護専門外来を配備して、患者さんやご家族からのご相談に応じています。

高岡市民病院の外科診療を支える皆さん

高岡市民病院の外科診療を支える皆さん

当院は女性のがんの治療を強みの1つとしており、婦人科がん、乳がんに対する積極的な診療を行っています。たとえば、乳がんの診療では、形成外科とも連携して乳房再建術を積極的に行っています。また、当院婦人科には日本産科婦人科内視鏡学会認定の腹腔鏡手術技術認定医が4名在籍しており(2019年10月時点)、婦人科がんに対して、患者さんの体の負担が少なく、早い社会復帰が期待できる腹腔鏡下手術を施行しています。

さらに、遺伝子乳がん・卵巣がんカウンセリング外来を開設し、遺伝カウンセリングや遺伝子検査を実施する体制の構築を進めています。

当院では外科手術や抗がん剤治療のほかに、放射線治療に力を入れて取り組んでいます。2018年7月には、放射線治療システムを更新し、より患者さんの体の負担を軽減した治療の提供に尽力しています。新しく更新した放射線治療システムは、画像誘致放射治療(IGRT)技術を搭載しており、患者さんの体の位置ずれを補正し、腫瘍に対してピンポイントに照射することが可能です。患者さんが治療の選択を狭めることなく、病状に応じて治療方法を選ぶことができるように、がん診療を充実させていきます。

がんの治療では、治療そのものと同様に患者さんの心に寄り添った緩和ケアが重要になってきます。当院では緩和ケア外来と緩和ケアチームを設置しており、痛みやだるさなどの体の症状だけでなく、不安な気持ちや生活面でのことなど、お気軽に相談いただけるような体制を整えています。

さらに、2016年には緩和ケア病棟を新たに開設しました。緩和ケア病棟では、がんによる体や気持ちのつらさを和らげたり、がんの積極的な治療からシフトして患者さんらしい生活を送るためのサポートを行ったりしています。また、緩和ケア病棟から自宅に退院する患者さんもいらっしゃり、ご自身の最期のときを住み慣れた地域で過ごしていただくこともあります。

薮下先生

今後も安心・安全の医療を提供できるように、患者さんとご家族、地域のかかりつけの先生方から信頼される病院を目指して努力していきます。

高岡市の自治体病院である当院が、地域医療機関との連携における旗振り役を担い、地域完結型医療の実現を目指していきたいと考えています。自治体病院として、地域の皆さんの声に耳を傾け、期待に応えられる病院でありたい。それが当院の目標です。

若いうちは、多くの症例をみることが大切です。しかしながら、たくさんの症例を経験したいという思いが強すぎるあまり、病気をみて患者をみないという状況になりかねません。研修期間においては、病気だけにとらわれず、医療現場で起こるさまざまなことを経験してほしいと思います。

当院のような地方の中規模病院は、他科の医師や医師以外の医療スタッフ、さらには患者さん、ご家族の皆さんとの距離が近いことも1つのよい特徴だと考えています。他科の医師、医療スタッフや患者さんのご家族と関わる時間をたくさん経験することで、大学病院などの大きな病院では経験できない実際の医療現場で起こるさまざまなことを経験してほしいと思います。研修医の方たちは、どうしても症例数の多い大きな病院に目が向きがちですが、地方の病院だからこそ学べることも多々あります。高岡市は万葉文化にあふれ、たくさんの観光名所があります。また、病院は駅や繁華街にも近く、アフター 5も充実していると思います。どうぞ、奮って当院に勉強しに来てください。

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