東京大学医科学研究所附属病院は、国立大学の附属かつ、研究所としての役割も果たす病院です。そのため、ほかの大学医学部附属病院と違った側面も持っています。
今回は、本院の国立大学研究所附属病院としての取り組みや、特徴的な診療体制、地域に対する取り組みなどについて、病院長の東條 有伸先生にお話を伺いました。
東京大学医科学研究所附属病院は、1892年に設立された“大日本私立衛生会附属伝染病研究所”から始まりました。設立2年後の1894年には、研究所に附属する医院が設置されました。当時の日本における主な死因は“伝染病”、つまり感染症だったため、その時代に感染症について研究し、治療を行っていた当院は、大きな役割を担っていたのではないでしょうか。
時代の移り変わりとともに、日本における主な死因も変化しています。戦後、人々の生活レベルや公衆衛生が向上したことにより、死因の中心は結核や胃腸炎、肺炎といった感染症から、がんや心臓疾患となりました。こうした変化とともに、当院が治療や研究に力を入れる病気も、がんや心臓疾患などへと変化してきました。
当院はほかの大学医学部附属病院とは異なり、全ての領域の診療科が設置されているわけではなく、内科、外科ともに限られた領域や病気に対応する診療体制となっています。こうした体制をとるのは、特定の領域や病気について基礎研究と臨床研究の橋渡しをする、“研究所”附属の病院であることが大きな理由です。
現在は、がんなどにフォーカスしながら、先端医療の臨床と研究を行う病院として機能しています。
当院にはプロジェクト診療と呼ばれる診療体制があります。これは、比較的患者数の少ない病気や難治性の病気などについて、文字通りプロジェクト化して、診療や研究にあたるものです。たとえば、感染免疫内科では、HIV感染症や免疫不全によって起こる日和見感染症*の研究を、外科では大腸がんや炎症性腸疾患の臨床研究を行っています。
加えて当院では、トランスレーショナルリサーチ(基礎研究の成果を臨床に応用するために行う橋渡し研究)を推進することに力を入れています。これは、基礎研究で得た成果を臨床の場で応用するために行う研究のことで、当院は関連施設の東京大学医学部附属病院と共に、“東京大学拠点”となっています。
患者さんと医療従事者が協力して未来の医療を作り上げていくのがプロジェクト診療であり、トランスレーショナルリサーチです。また、こうした取り組みを通して、医療の発展に貢献することこそが、研究所附属病院である当院の役割だと考えています。
*日和見感染症:免疫が低下することにより、健康な状態では感染しない程度の病原性が弱い病原体によって起こる感染症。
遺伝カウンセリング外来では、遺伝性の病気を持つ患者さんやそのご家族をはじめ、遺伝についての不安や悩みを持った方々に対して、カウンセリングを行います。カウンセリングをとおして、遺伝性の病気について、どのような治療の選択肢があり、どう選択するのか、遺伝子診断を受けるべきかどうかなどに関して、意思決定の助けとなる情報を提供します。
遺伝子の病気に関する悩みを持つ方は、ぜひご検討ください。なお、遺伝カウンセリングは完全予約制の自費診療となり、初診では5,500円(税込)、再診では3,300円(税込)の費用がかかります。お電話でご予約を取っていただく際にご家族やご相談内容についてお伺いさせていただきますが、いただいた情報によってはカウンセリングの対象とならないケースもあります。
渡航外来は、出張や旅行、留学などで海外へ行かれる15歳以上の方が対象です。ワクチンの接種や特定の感染症を予防する薬の処方、渡航時健康診断、留学やビザ取得に必要な証明書の発行、渡航先の医療情報の提供などを行っています。
渡航外来での診療も、遺伝カウンセリング外来と同様に完全予約制の自費診療となり、費用は接種するワクチンや診療内容によって異なります。診察料は初診では3,168円(税込)、再診では1,375円(税込)です。検査料は15,000円~20,000円(税込)ほど、種類によって異なりますがワクチン接種料は1回あたり5,060円〜23,650円(税込)ほどになります。
接種するワクチンは、医師の診察のうえ決定させていただきます。なお、接種部位の痛みや腫れなどの副反応が起こることがあります。また、一部日本ではまだ未承認の輸入ワクチンも扱っています。万一これらの輸入ワクチンを接種後に重篤な健康被害が発生した場合、医薬品副作用被害救済制度*は適用されませんのでご注意ください。
*医薬品副作用被害救済制度:薬の副作用によって入院治療が必要となるような重篤な健康被害が発生した際に医療費や年金などの給付が行われる制度
当院は定期的に“市民公開医療懇談会”を開催しています(2020年2月時点)。このイベントでは、病気に関する基礎知識や感染症対策など、さまざまなテーマを取り上げて講演を行っています。こうした活動を通して、地域住民の皆さんの医療リテラシー向上に貢献することが目的です。
また、不定期ですが、入院中の患者さんやそのご家族に楽しんでいただけるよう、近隣の高校や大学の皆さんによる院内コンサートも開催しています。
当院では、後期臨床研修プログラムを実施しています。高度な専門性が求められる先端医療において、それに対応し得る能力を持った人材を育成することが、当該プログラムの目的です。3~4年の研修修了後は、各専門学会の認定医や専門医資格の申請が可能です。
当院は難治性疾患や先端医療の研究所でもあります。日々進歩する医療研究に意欲ある若手医師の参加をお待ちしております。
当院の看護部では、患者さんへのケアを行ううえで大きな役割を担う看護師が、よりよい医療や看護を提供するために、人材育成に力を入れています。
当院では一般健康診断も実施しており、港区白金台の地域の皆さんとのつながりが深い医療機関でもあると考えています。地域にいらっしゃるさまざまなバックグラウンドの患者さんに、あたたかいケアを提供することが看護部の役割です。
当院では、1人の看護師がある患者さんの入院から退院までの看護を受け持つプライマリーナーシングと、2人1組で看護を行うペア・システムを導入しています。この方式を採用することによって、患者さんとの関係構築が図りやすくなると同時に、看護師一人ひとりに責任感が生まれ、やりがいにつながると考えています。
また、個人がスキルアップするための学習環境を整えるという観点から、e-learningを用いた教材を導入しています。インターネットに接続できるパソコンがあれば、気になったときにいつでも看護技術や手順について確認することができ、テストや技術チェックリストを用いた予習復習も可能です。希望する方に対して、日本看護協会認定看護師の資格取得をサポートする制度もあり、キャリアアップを目指す看護師にとって、よい環境であると自負しています。
当院は研究所附属病院であるという特徴があり、基礎研究を進め、その成果を臨床へ応用する、橋渡し的存在として役割を果たしています。患者さんには日々の診療のなかで研究にご協力いただく場面も多く、大変感謝しています。今後とも、医療の進歩へのご助力をどうぞよろしくお願いいたします。
当院は先進医療の開発の場であり、また臨床試験の場でもあります。日々進歩する医療の研究の一端を担いたい、医療レベルの向上に寄与したい、という意欲ある若手医師の皆さんは、ぜひ一度当院へいらしてください。