インタビュー

本当に体質? お子さんにこんな症状があれば受診を――ファブリー病の早期発見のために

本当に体質? お子さんにこんな症状があれば受診を――ファブリー病の早期発見のために
村山 圭 先生

順天堂大学大学院医学研究科 難治性疾患診断・治療学講座 教授

村山 圭 先生

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ファブリー病は、生まれつき特定の酵素がなかったり、はたらきが弱かったりするために、糖脂質が全身の細胞に蓄積されるようになる希少疾患です。発症すると、子どもの頃からさまざまな症状が現れる可能性があります。

ファブリー病の治療に尽力されている順天堂大学大学院医学研究科 難治性疾患診断・治療学講座 教授の村山 圭(むらやま けい)先生は、「治療せずにいると、より重い症状が現れる可能性があるため早期発見・治療が大切」とおっしゃいます。

早期発見のためには、お子さんに現れる症状を体質と判断せずに積極的に受診することが大切です。村山先生に、ファブリー病のお子さんに現れやすい症状や治療法、ご家族・保護者の方に心がけてほしいことなどについてお話を伺いました。

ファブリー病は、ライソゾーム病の1つです。ライソゾーム病とは、細胞内のライソゾームという器官にあるいずれかの酵素が欠けたり、はたらきが弱かったりするために老廃物が細胞内に蓄積され、さまざまな症状が現れる病気のことを指します。ライソゾームは、体のリサイクル工場のような役割を担っており、内部に存在する多数の酵素が、必要がなくなった脂質や糖質などを処理して再利用するためにはたらいているのです。

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ファブリー病は、ライソゾーム内のα-ガラクトシダーゼAという酵素が欠けたり、はたらきが弱くなったりするために、体中の細胞に糖脂質(GL-3)が蓄積してしまう病気です。X連鎖遺伝形式*で病気が遺伝し、女性と比べて男性に症状が出やすいという特徴があります。

男性には、子どもの頃から手足の痛みなどの症状が現れる“古典型”と、大人になってから腎臓や心臓の機能に障害が現れる“遅発型”があります。女性に起こる“女性ヘテロ型”は、症状が現れる時期や、症状の程度に個人差が大きい点が特徴です。男性の古典型と同じような症状が子どもの頃から現れる方もいれば、大人になってから症状が現れる方や、症状がまったく現れることなく経過する方もいらっしゃいます。

*X連鎖遺伝形式:X染色体に病気の原因となる遺伝子が存在するために、X染色体を1本しか持たない男性では症状が現れやすくなる。X染色体を2本持つ女性では、正常なX染色体が活性化されている場合は発症しない、もしくは軽症になる傾向にあるという特徴がある。

ファブリー病は希少疾患ですが、近年は医療従事者の間で病気が広く知られています。そのため、特に男のお子さんで手足の痛みなどの症状があれば、専門とする医師を紹介されスムーズに診断される例が多いと思います。

また尿検査で、ファブリー病を疑う方の尿の中にマルベリー小体(渦巻状の脂肪成分)が認められたことがきっかけとなり、診断に至る場合もあります。

拡大新生児スクリーニング*によって、赤ちゃんのうちにファブリー病が発見される例もあるでしょう。

*拡大新生児スクリーニング:新生児を対象に、新生児マススクリーニングの対象ではない病気の可能性について、希望によって任意で受けることができる検査。

ファブリー病の古典型や女性ヘテロ型では、子どもの頃から、手足の痛みや汗のかきにくさ、発疹(ほっしん)、腹痛や便秘、下痢などさまざまな症状が現れることがあります。

症状の程度は、患者さんによってさまざまです。たとえば、病気の原因となる酵素がまったくない場合は症状が早期にかつ強く現れます。一方、酵素のはたらきの低下が少なければ症状がゆっくり現れる傾向があるでしょう。

ご家族・保護者の方が体質と判断されて受診されないケースもあると考えられますが、早期発見のためには、症状から病気を疑い受診することが大切です。子どもの頃に現れる症状の中でも気付きやすいものは、手足を中心としたピリピリとした痛みだと思います。特に手のひらや、足の裏に起こりやすい点が特徴です。痛みが起こりやすいのは手足ですが、体のほかの部分に現れることもあります。

痛みの程度には個人差があり、痛みがそれほど強くない場合は、常に痛みがあるわけではなく何らかのきっかけで現れることが多いでしょう。一方、痛みが強い場合は、常に痛みがありながら、ある時ドカンとさらに強い痛みが現れるといった特徴があります。

手足などの痛みは、環境の温度や体温が高くなることで誘発されることが多いです。そのため、冬よりも夏に症状が現れやすくなったり、症状が強くなったりするのが特徴です。

痛みによって行動に変化が起こることが多いので、ご家族・保護者の方にはお子さんに次のような傾向がないか注意してほしいと思います。ご自宅では、痛みを理由に湯船につかることを避けるようになるケースがあります。学校では、体育の時間や運動そのものを嫌がったり、暖かい部屋に入ることを嫌がったりすることがあるでしょう。

お子さんが手足などの痛みを訴えている場合はもちろんのこと、上記のような傾向がある場合には、本人に理由を聞いてみてください。痛みが理由であれば、病気の可能性を考えて受診してほしいと思います。

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写真:PIXTA

ファブリー病は遺伝する病気なので、1人ファブリー病の患者さんが見つかれば、その家系でほかの患者さんが発見されることがあります。

必ずしも症状が同じになるとは限りませんが、家族内で現れる症状は似ることがあります。大人の方が “自身の子どもの頃にも、お風呂に入ると手足が痛むことがあった”などと、家族内で似たような症状があることに気付くことができれば、診断のきっかけになります。

早期治療を受けるためには、お話ししたような症状をきっかけに受診し診断を受けることが大切ですが、拡大新生児スクリーニングを受けることも有効だと思います。赤ちゃんのうちに病気が見つかれば、症状が現れる前から周囲に見守られて、必要なフォローを受けながら治療を開始することができるからです。

ファブリー病では、早期治療が重要です。それは、時間の経過とともに糖脂質が体中の細胞に蓄積していき、より重い症状を引き起こす可能性があるからです。

子どもの頃に発症し治療せずにいると、青年期や中年期に腎不全や心臓の肥大、脳梗塞脳出血などが現れる可能性があります。そのため、治療によって早い段階で糖脂質の蓄積を抑えることが大切なのです。たとえば、腎臓の機能がある程度保たれているうちにファブリー病の診断がつけば、治療によって腎不全を防ぐことが期待でき透析治療が不要になります。

また、治療によって手足を中心とする痛みをコントロールすることができれば、生活の質の改善につながるでしょう。

現状では、古典型の患者さんの場合、症状が現れ始める小学校入学以降に治療をスタートするのが一般的です。ただし私は、より早く症状を抑えるために、古典型の場合はもう少し早期から治療をスタートしてもよいのではないかと考えています。

実際に海外では、2歳頃から治療を開始する例もあります。後ほど詳しくお話ししますが、ファブリー病の治療の中心は点滴です。幼い時期から点滴による治療を行うべきかについては、安全性や継続可能性などの検討を重ねる必要があると考えています。

症状などからファブリー病かもしれないと思ったら、かかりつけの先生に「こういう病気を心配している」と相談して、専門的な医療機関を紹介してもらうのがよいと思います。

かかりつけの先生がいなかったり紹介を受けることが難しかったりする場合は、予約すれば受診できる総合病院に相談するのもおすすめです。可能であれば、ホームページなどにファブリー病の患者さんの診療が可能と掲載されている医療機関を受診するとよいでしょう。子どもだったら小児科、大人だったら総合診療科や腎臓内科、循環器内科などを受診してほしいと思います。

ファブリー病の診断では、酵素活性検査を行います。この検査では、数滴の血液を採取し酵素のはたらきを測定します。男性の場合は、酵素活性検査で酵素のはたらきが低下していることが分かれば、ファブリー病と診断されます。

女性の場合は、ファブリー病であっても酵素のはたらきの低下が認められない場合もあるので、遺伝子検査*を実施したうえで診断に至ります。

*遺伝子検査:血液を採取し、遺伝子の状態を確認する検査。

お話ししたように、ファブリー病を治療せずにいると、腎不全や心臓の肥大などより重い症状が現れるようになります。生命予後に関わるようなこれらの症状を防ぐことが、ファブリー病の治療の大きな目的です。

なお現状では、ファブリー病と診断されたら治療は生涯継続的に受ける必要があります。

ファブリー病の主な治療法には、酵素補充療法とシャペロン療法があります。

酵素補充療法は、足りない酵素を2週間に1回点滴で補充する治療法です。ファブリー病の中心的な治療ですが、副作用としてアレルギー反応である発疹が現れたり、気持ち悪さを感じたりすることがあります。これらの副作用は特に治療を始めたときに現れやすいため、酵素補充療法の開始時には点滴の速度を遅くしたり、患者さんの様子を十分確認しながら導入したりすることが大切だと考えています。

シャペロン療法は飲み薬による治療であり、患者さんは2日に1回服用する必要があります。シャペロン療法は16歳以上で、かつ特定の遺伝子変異が認められる場合にのみ行われます。私は、該当の遺伝子変異を持ち、かつ症状が軽い場合はシャペロン療法で治療をスタートするのがよいと思っています。また、酵素補充療法によってアレルギー反応が強く現れるような場合は、シャペロン療法への変更を検討してみるのもよいでしょう。ただし、シャペロン療法では胸やけなどの副作用が起こる可能性があります。

ほかにも、手足などの痛みを和らげるために抗てんかん薬を使用することもあります。痛みが強い場合は、痛みをケアする専門家を交えながら治療を進めるケースもあります。

治療中に体調の変化などがあれば、医師に相談してほしいと思います。患者さんの状態を把握できれば、より適した治療の検討ができるからです。たとえば、酵素補充療法の副作用として発疹が出やすくなる場合は、あらかじめ薬によって抑えることも可能です。また、酵素補充療法を受けている患者さんが点滴を嫌がる場合には、飲み薬への変更が可能か検討することもできます。

私は、酵素補充療法を受けている患者さんに対しては、2週間に1回点滴を行う際に体調を確認するようにしています。たとえば「少し胸が痛む」など何らかの変化が確認できれば、必要な検査を行います。また、重篤化しやすい腎臓や心臓の合併症については、月に1回などの頻度で定期的に確認する必要があります。

現状では、ファブリー病と診断されたら継続的な治療が必要であり、病気と一生付き合っていかなければなりません。ご家族・保護者の方には、患者さんの伴走者のような役割を担ってほしいと思っています。家族内にファブリー病のほかの患者さんがいる場合は、病気に伴う悩みを共有し合うのもよいでしょう。

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治療継続のためには、治療の意義をお子さんに理解してもらうことも大切です。子どもの患者さんには、看護師やチャイルド・ライフ・スペシャリスト*、遺伝カウンセラー**などが疑問に答えていくのも有効だと思います。1回の説明で納得してもらうというよりも、必要に応じて私たち医師も含め、繰り返し時間をかけながら対話していくことが大切だと考えています。

また、学校の先生に病気についてどのように伝えるべきか悩まれるご家族・保護者の方もいらっしゃいます。私は、主治医に相談したうえで、症状や治療について伝えていただくのがよいと考えています。もしも学校の先生が希望し、主治医が了承するのであれば医師から病気の説明を行うのも1つの方法です。実際に、私から患者さんの学校の先生に症状や治療について説明させていただくこともあります。子どもは社会の財産ですから、協力しながら皆で見守っていくことが大切だと思っています。

*チャイルド・ライフ・スペシャリスト:子どもの患者さんやご家族に心理的・社会的なサポートを行うAssociation of Child Life Professionals (ACLP)認定の専門家。

**遺伝カウンセラー:患者さんやご家族の遺伝に関わる疑問に対応したり、遺伝する病気の診断後のサポートを行ったりする日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会認定のカウンセラー。

ファブリー病と診断されたら、まずは治療をきちんと受け続けることが大切です。繰り返しになりますが、治療を中断することで腎臓や心臓の機能が悪化する可能性があります。

患者さんの中には、成長とともに結婚や出産について悩まれる方もいらっしゃいます。ファブリー病は遺伝する病気であることは間違いないのですが、症状を抑える治療がすでにありますし、今後、治療法がよりよく改善されていくことも期待できるでしょう。

私は患者さんに結婚や出産について相談されたときには、ファブリー病であっても、人生を豊かにするために結婚や出産を前向きに考えてほしいと伝えています。

ファブリー病は、早期発見・治療によって良好な経過をたどることが期待できます。お子さんに手足の痛みなど病気を疑うような症状や、運動や湯船につかるのを嫌がるなどの行動がみられれば、体質などと判断せずに積極的に受診し、診断を受けていただきたいと思います。

診断を受けたら、腎臓や心臓の機能をきちんと確認しながら人生を歩んでいただきたいと思います。現時点では治療の選択肢は限られていますが、いずれは新たな飲み薬や遺伝子治療など、ほかの治療法が登場する可能性も大いにあるでしょう。世界中で治験が進んでいますし、現状の治療法が改良されてよりよいものになる可能性もあります。

基本的に治療は生涯続くものなので、よい医師と出会うことも大切です。医師や周囲の方と連携しながら、前向きに治療を受けていただきたいと思います。

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