1988年に開院した千葉県こども病院は、全国でも数少ない小児に特化した独立型の総合病院として、一般的な病院では対応が困難な特殊な症例や専門的な診療を要する小児患者さんを全国から受け入れています。子どもたちの健康と生命、そして未来を守る“最後の砦”として尽力する同院の特徴や取り組みについて、病院長の皆川 真規先生にお話を伺いました。
1988年10月に開院した千葉県こども病院は、全国に14施設しかない、小児のために特化した独立型の総合病院です(2024年7月現在)。現在は218の病床および12の内科系診療科、10の外科系診療科と中央診療部門(麻酔科*、リハビリテーション科、集中治療科、放射線科、病理診断科)に加えて、新生児集中治療室(NICU)や新生児回復室(GCU)、小児集中治療室(PICU)を備え、一般的な医療機関では対応が難しい特殊な症例や専門的な診療を要する小児患者さんの診療に尽力しています。
当院はその名に冠するとおり千葉県の小児医療の中枢を担う存在ですが、小児医療に特化した病院が全国的に少ない背景を考慮し、医療圏にこだわることなく他県からも小児患者さんの紹介を受け入れてきました。診療の対象は、原則15歳(中学3年生)までのお子さんです。成長過程にある子どもを対象とした病院として年齢や体格に応じた環境の整備や医療機器の充実を心がけるとともに、入院中の子どもの食事介助や遊び相手になる病棟保育士も配置するなど、小児医療に特化した病院独自の工夫が各所に施されています。
*麻酔科医:原真理子、細谷俊介、篠崎奈可、稲田美香子、鈴木芽衣、中島愛里沙
小児医療に特化しつつも、幅広い診療科をそろえている点が当院の特徴です。一般的な病院では診療の難しい症例として、たとえばダウン症候群に加えて先天性心疾患や呼吸器疾患を併存しているなど、複数の病気を抱えている場合があります。そのような場合、複数の診療科が関わり専門的な治療を的確に進める必要があり、当院は各診療科の専門家たちが密に連携を取って協働で治療にあたる環境が整っています。
また地域医療連携室を中心として、当院での治療にとどまらず、退院後に在宅医療を必要とする患者さんへの移行支援や地域の診療所との橋渡しなどを行い、患者さんへのシームレスな診療提供体制の維持に努めています。
当院では原則15歳(中学3年生)までの小児患者さんの診療を行っていますが、長期にわたり治療を要する患者さんに対しては成人するまで引き続き診療を行うほか、診療科によっては、初診の時点で15歳以上であっても当院で対応が可能な患者さんは個々の判断で受け入れています。
ただし、患者さんが成人期を迎えると成人特有の病気にかかる可能性が高まり、小児医療に特化した当院では対応が困難になる場合があります。このような事情を考慮し、適切なタイミングで成人診療科への移行を進めるために設置しているのが、当院の“成人移行支援室”です。当支援室では、小児患者さんがヘルスリテラシー(自分の病気を理解し、自己管理を高め、病気に対する気持ちを自分で気付きコントロールする力)を身につけて一般の医療機関での受診をスムーズに行えるよう、患者さんとご家族に寄り添いながら丁寧に時間をかけてサポートします。
当院には、医療環境にある子どもやご家族を心理的・社会的に支援するチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS:日本チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会認定)の有資格者が2名在籍しています(2024年7月時点)。CLSは、子どもの発達やストレスへの対処に関する専門知識を備え、子どもが自分の病気と向き合い主体的に治療へと関わっていけるように、それぞれに合った方法で体の仕組みや病気、治療について説明するとともに、医療者から病気や治療について説明があった場合には補足説明や受け止めのサポートをします。日本でCLSとして勤務している有資格者は、全国で35施設49名です(2024年1月時点)。
当院は「入院中の子どもたちに少しでも夢や希望を持ってほしい」との思いから、プロスポーツ選手や監督と子どもたちの交流も大切にしてきました。たとえば、野球の元千葉ロッテマリーンズの選手で現在(2024年7月時点)は東北楽天ゴールデンイーグルスの監督である今江敏晃さんや、バスケットボールの千葉ジェッツに所属(2024年7月時点)する原修太選手は、毎年のように当院を訪問してくださいます。原選手はご自身が潰瘍性大腸炎の患者でもあるという背景から、疾患啓発の社会的活動などに取り組まれているそうです。
地域のプロスポーツ選手が病院に来てくださるたびに、子どもたちはとても喜び、目を輝かせています。当院としても、子どもたちが病院から出られなくとも元気になれるような取り組みを今後も盛り上げていきたいと考えています。
当院は“患者相談窓口”を設置し、医療ソーシャルワーカー(MSW:日本医療ソーシャルワーカー協会認定)と看護師が小児患者さんやご家族からのご相談を広くお受けしています(2024年7月時点)。入院生活や治療費、退院後の生活に関する不安や相談はもちろん、医療費助成や福祉サービスについてのご質問、主治医には聞きにくいこと、あるいは「とにかく誰かに自分の気持ちを吐き出したい、聞いてほしい」という要望など、どんなことでも結構です。
ご相談は、当院1階の患者相談窓口やお電話で受け付けています。入院中の方は病棟スタッフにお声がけくださっても構いません。まずMSWや看護師にご相談いただければ、必要に応じて医師や看護師、薬剤師、リハビリテーションスタッフ、栄養士、心理判定員、医療安全管理者とも連携を取りながらしっかりと対応しますのでご安心ください。
少子高齢化が進むなかで、全国の医療機関における小児科の縮小・廃止が相次いでいます。しかし、これから未来の社会を作り上げていく子どもたちを守るために、小児医療はなくてはならないものです。小児医療に特化した病院である当院も、一般の病院では対応できない特殊な症例や専門的な医療を必要とする小児患者さんの“最後の砦”として、その責務を果たし続けねばなりません。
当院の理念である“その子らしく、その子のために”を胸に刻み、これからも、当院を必要とする全ての小児患者さんに専門的な医療と看護、保健サービスを提供できるよう、職員一同が一丸となって努力していく所存です。