院長インタビュー

神経難病の拠点として、包括的な診療体制で患者さんに寄り添う東京都立神経病院

神経難病の拠点として、包括的な診療体制で患者さんに寄り添う東京都立神経病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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東京都府中市にある地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立神経病院(以下、東京都立神経病院)は、東京都が指定する東京都難病診療連携拠点病院として、神経難病や脳神経疾患に特化した包括的な診療と臨床研究に取り組んでいます。そんな同院の特長や取り組みについて、院長の髙橋 一司(たかはし かずし)先生にお話を伺いました。

当院は1980年の開設以来、さまざまな脳神経系疾患の診療に取り組んできました。特に神経難病と脳神経疾患に力を入れており、専門性の高さを備えた拠点病院として患者さんのニーズに応えています。発病のメカニズムが明らかになっておらず治療法の確立していない希少な“神経難病”は、患者さんが早期に適切な医療機関にかかることが難しく、さらに診察や診断も専門的で難しいという特性があります。そのため東京都では、そのような難病患者さんが住み慣れた地域で療養生活を送れるよう難病診療の拠点となる病院(東京都難病診療連携拠点病院)を指定しており、当院はその1つとして神経難病の診断と専門的治療を提供してきました。

神経難病の分野は、病気の進行を抑える治療法や根治的な治療法の開発など、課題が山積しています。そのようななか我々は臨床研究や論文執筆、学会発表を推進し、それらの活動が治療法の確立の一助となるよう尽力してきました。また、筋萎縮性側索硬化症ALS)などにより通院が困難になった患者さんに対しては在宅診療で継続した治療とケアを行います。このように診察から診断、入院、治療、リハビリテーション、在宅診療、緩和ケアまで一貫して専門的な医療を提供できることが当院の強みです。

なお、外来診療については、隣接する地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立多摩総合医療センター(以下、東京都立多摩総合医療センター)の脳神経内科もしくは脳神経外科、同・小児総合医療センターの神経内科が担当します。当院は入院専門の病院として患者さんに対応していますので、初めて外来を受診される方は当ページをご参照のうえ、ご希望の診療科に予約をお願いします。

当院のある府中市は東京都のほぼ中央に位置し、多摩地域を中心に都内各地はもとより遠方の地方からも患者さんがいらっしゃいます。そのような皆さんに「東京都立神経病院を受診してよかった」と思っていただけるような病院づくりに今後も励んでまいります。

先方提供
病院外観(東京都立神経病院ご提供)

現在、パーキンソン病に対する基本的な治療は薬物療法です。しかし、進行期になると症状に薬の効く時間が短くなって症状の日内変動が生じたり、ジスキネジアと呼ばれる不随意運動が出現する場合があります。そのようなケースに対して、近年新たな選択肢となっているのが、医療機器を用いたデバイス補助療法(DAT)です。

当院ではパーキンソン病に対するDATとして、脳深部刺激療法(DBS)や、2023年から国内で使用が認められた治療薬であるホスレボドパ・ホスカルビドパ水和物持続皮下注療法(CSCI)を導入しています。DBSは脳内に植え込んだ細い電極から刺激を与え、症状を治療する方法で、現在は充電式のバッテリーにより体外からの充電も可能になりました。またCSCIは皮下注射のため、胃瘻などの外科的な処置なしで治療を開始できることがメリットです。このように、内服薬だけではコントロールできなかった症状に対して、治療の選択肢が広がったことは患者さんにとって大きな希望となるでしょう。

当院は2014年にてんかん総合治療センターを開設し、難治てんかんの包括的な診療やケアに加えて、地域のてんかん診療連携体制の強化や社会啓発活動などを行ってきました。

てんかんの治療では、発作の抑制はもちろんのこと、患者さんとご家族の身体面や精神面、社会的背景を配慮したトータルケアが求められます。そのため当院では複数の診療科が連携するとともに医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、日本心理学会認定臨床心理士など多職種が協力し、チーム医療に取り組んできました。また、神経小児科や脳神経外科と協力し、乳幼児から高齢の患者さんまで幅広い世代のてんかん患者さんに対応しています。

そうした医療体制や診療実績が評価され、当院は全国で22施設(2024年7月時点)しかない“包括的てんかん専門医療施設(日本てんかん学会認定)”の認定を受けています。

当院は、開設当初から通院が困難で在宅療養を希望する方を対象に在宅診療(訪問看護)を積極的に行ってきました。高齢化の進行に伴い、今でこそ在宅診療はメジャーなものになりましたが、当時は地域の中で訪問看護ステーションに相当する仕組みはありませんでした。そのようななか我々は医師、看護師、保健師、リハビリテーションのスタッフなど多職種でチームを構成し、かかりつけ医とも連携して早くから在宅診療を行い、患者さんが住み慣れた地域で必要な医療やケアが受けられる環境づくりに尽力してきました。

また2015年に開設した“患者支援センター(現 患者・地域サポートセンター)”では、神経・筋疾患の患者さんが円滑に地域療養に移行できるよう、退院支援をサポートしています。さらに近年は、社会福祉士や精神保健福祉士などの資格を有する医療ソーシャルワーカーが中心となり、就労と治療の両立支援、法律に関する相談にも対応しています。

今後は病診連携(病院と診療所の連携)、病病連携(病院と病院の連携)をさらに推進し、在宅診療や訪問看護の拡充を通じて、患者さんがご自宅で安心して治療を続けられる強固な医療提供体制を維持したいと考えています。

医師は、生涯にわたって学び続ける職業と思います。特に我々の専門である神経難病はいまだ解明されてない領域が多く、日々診療の現場から多くの知見を得ることができます。そして、学んだことをすぐ患者さんの診療に役立てることもまた我々の務めです。

このように常に学んで改善していく姿勢は、病院の経営にも通じるものがあります。神経難病や脳神経疾患に特化した病院として、どのようにすればより多くの患者さんのお役に立てるのか、日々問い続けてきました。当院は、これからも神経難病ならびに脳神経疾患の患者さんに真摯に向き合い、より質の高い“全人的医療”を目指して取り組んでまいります。

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