福岡県行橋市道場寺にある新行橋病院は、行橋市とその周辺地域で急性期疾患に対応する中核的な病院として、地域に密着した医療を行っています。同院の役割や今後について、総院長の正久 康彦先生に伺いました。
新行橋病院は1997年、「急性期の病気を診られる病院を」というこの地域の住民の方々の強い要望を受け、149床を備える病院として開院しました。1998年に救急告示病院の指定を受け、2003年には199床への増床し、2004年にHCU(ハイケアユニット)を、2005年にはICU(特定集中治療室)を設置して急性期病院として順調に発展してまいりました。さらに、2003年には地域市民の署名活動により97床の増床を実現し、今では市民病院のような役割を果たしています。
当院には一般内科や外科をはじめ、整形外科や泌尿器科など多岐にわたる診療科が整っています。そのなかでも総合診療部では、どの科を受診したらよいかわからない患者さん、症状が身体疾患によるものなのか、ストレスや心配事によるものか、あるいは心の病気なのかわからない患者さんなどを対象に診療を実施しています。総合診療部での診察後、必要に応じて院内各専門科に紹介するという取り組みをしているのも特徴です。
当院では開院以来、“断らない救急医療”を実践しており、2023年の救急搬入件数は年間4,000件を超えています。循環器、外傷、脳神経、整形、泌尿器(尿路感染症など)領域の救急の患者さんが多く、当院がある京築医療圏はもとより田川市や、大分県の中津市、宇佐市からも搬送され、総人口30~40万人の救急医療を担っております。搬送されてきた患者さんに対してはCT・MRIなどの検査はもちろん、緊急の手術やカテーテル治療も24時間行っており、また蘇生的開胸術、ECMOを用いた体外循環式心肺蘇生も救命室や血管造影室でできるよう常に準備しています。
さらに、当院を運営する社会医療法人財団池友会が所有するドクターヘリ“ホワイトバード”が発着するヘリポートを備えており、海上保安庁のヘリコプターや県のドクターヘリの搬送も受け入れています。
当院は脳神経外科関連の治療に力を入れており、年間300件以上の手術を行っています。脳卒中から外傷まで幅広く治療を行っており、とくに脳卒中に関しては日本脳卒中学会から一次脳卒中センターの認定を受け、一刻を争う血栓回収術も100例近い症例数となっています。(2022年実績)
循環器疾患の救急も多く、年間約400例のPCIも行っています。
泌尿器科治療にも注力し、小児からお年寄りまでの全年齢層を対象とした一般泌尿器科疾患から、慢性腎不全に対する透析療法に至るまで幅広い診療を行っています。特に尿路結石に対しては新しい体外式衝撃波結石破砕(ESWL)装置を導入しており、日帰りでの治療も可能です。
2023年12月には、医療用ロボット“ダヴィンチ(daVinci Xi)”を導入しました。ダヴィンチは高画質で立体的な3Dハイビジョンシステムの手術画像を診ながら、人間の手の動きを正確に再現して精密かつ低侵襲(体に負担が少ない)な手術が行えるロボットです。導入から半年で泌尿器科で30を超える症例を達成しており、2025年には呼吸器外科と消化器外科にも拡大できればと考えています。
当院では常日頃から地域の医療機関との連携を大切にしており、地域連携室を中心に地域の開業医の先生方との医療情報の交換、かかりつけ医への逆紹介を推進しています。今後も一層の連携強化を図ることで、患者さんへより良い医療を提供できることができたらと考えています。
また、救急医療の充実のためには地域の救急隊との連携も重要です。その具体例として、当院からクラウド式心電図伝送システム“SCUNA”を救急隊の2消防本部6か所に配布し、救急の患者さんの心電図を送っていただくようにしています。私たちはそれを見て心筋梗塞などの治療のスタンバイを行うほか、事故現場の写真を送ってもらい患者さんの怪我の状況の把握や治療の準備をするなどして活用しています。
さらに2024年4月からは、当院の救急車を使って患者さんをお迎えに行く取り組みを始めています。骨折などで動けない、車もないとなったときに救急車を呼ぶのではなく、当院の救命士が乗って迎えに行くという試みです。救急搬送数が増えている中、救急隊が使える救急車をなるべく空けて有効活用していただくという意味で重要な取り組みであり、今後さらに件数を増やしていきたいと考えています。
当院は“手には技術、頭には知識、患者さまには愛を”をモットーに、スタッフ一同が力を合わせて診療にあたっています。そして何より、私は職員を大切にしたいという思いを持っています。職員はもちろん、家族や知り合いに何かあったら連れて来たいと思ってもらえる病院にしたいですし、そのような病院でなかったら当院の存在意味がありません。そして、職員がここで働きたい、ここで頑張りたいと思える病院にしなくてはならないと考えています。
また私は、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)、人生の最終段階における医療に取り組みたいと思っています。これは我々だけでできるものではなく、訪問診療の先生や各医療機関の先生、行政、保健所、救急隊、そしてなにより患者さんとそのご家族も含めて取り組む必要があります。
これからますます高齢化が進むなか、救急搬送は年々増えていくでしょう。ACPが広まれば、どのようなときに救急車を呼ぶべきか、御本人やご家族でもすぐに判断ができるようになるはずです。それによって適正な救急搬送が行われ、医療リソースを有効に活用できるようにしたいと考えています。
今後も新行橋病院は、24時間365日いつでも安心してかかれる病院を目指して邁進していきますので、どんなことでもどうぞ気軽に相談していただければ幸いです。