1944年に県農業会白河厚生病院として開院したJA福島厚生連 白河厚生総合病院は、福島県の県南地域において459床の病床数を有する総合病院です。
福島県県南の地域医療を担う中核的な病院としての同院の特徴や強み、力を入れている取り組みなどについて、院長の大木 進司先生に話を伺いました。
当院は、1944年に前身である県農業会白河厚生病院(病床数93床)が開院したことがその始まりです。1957年には旧医療法の規定によって総合病院化し、名称も現名称の福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)白河厚生総合病院となりました。2008年には現在の場所に新築移転し、病床数459床という県南地域でも大規模な病院に生まれ変わって現在に至ります。
当院は「地域を守り地域の皆様に愛される病院を目指します」という理念のもと、白河市と周囲の4町4村で構成される福島県県南医療圏の唯一の総合病院として、また二次救急(入院や手術が必要な重症の患者さんへの医療)の中核をになう病院として、大きな役割を担っています。また、地域のがん医療の中心として質の高い医療を提供する、新型コロナウイルス感染症のような新しい感染症が発生したときにこの地域全体の医療を守るなど、この地域に暮らす皆さんが毎日を安心して過ごせるよう、さまざまな医療ニーズに応えながら、これからも地域に根ざした医療を提供してまいります。
現在は地域全体の高齢化が進んでおり、多くのご高齢の患者さんがいらっしゃいますが、多くの方が複数の病気を併発されています。
総合診療科では、なかなか病名が分からないケースや、複数の病気を抱えている患者さん、呼吸器疾患や神経疾患、皮膚疾患などに対応しています。他にも感染症、脳梗塞、膠原病、悪性腫瘍の患者さんなど、“幅広い症例の診療ができる”という強みを生かし、日中の救急対応も当科で行っております。救急患者さんの多くをまず当科で引き受け、必要に応じて各専門分野の診療科と連携するという現在の体制に変わってからは、救急の応需率も高められるようになりました。
また、院内に総合診療医を育成する場として“福島県立医科大学寄付講座白河総合診療アカデミー”を開設し、臨床と研究の両輪で活躍できる医師を育てており今年で10周年を迎えました。
さらに2022年4月には当院内の農村健診センター(農家の方の健康向上を目的とした健診施設)に在宅療養支援診療所を開所し、総合診療科の医師が通院困難な患者さんに対しての在宅診療を行っております。
また、当院は県南医療圏の二次救急病院として、年々医療の質の向上に努めています。
2025年の1月には救急治療科を新たに設置し、日本救急医学会認定の救急科専門医2名と福島医科大学から派遣される医師の3名体制で診療にあたっています。また当院はこの地域で唯一の日本脳卒中学会が認定する一次脳卒中センターでもあり、脳神経外科が一刻を争う脳卒中の患者さんを常に受け入れているほか、循環器科では三次救急(命に関わるような重症な患者さんへの救急医療)にも相当する急性冠症候群の患者さんへも24時間365日対応を行っています。
さらには、救急の患者さんの搬送を待つだけでなく、医師が同乗してその場で治療を開始できるドクターカーの運用も毎週水曜日に派遣型救急ワークステーションと協働して行っており、今後ニーズに応じて拡張していきたいと考えています。
現在、日中の救急外来は主に内科系疾患を総合診療科が、外科系疾患を救急治療科が窓口になり担当し、必要に応じて専門各科と連携して診療にあたっています。
当院は第2種感染症指定医療機関に指定されており、感染症の流行への対応にも強みを持っている病院です。たとえば新型コロナウイルス感染症が流行した際には、当院が県内で第1号となるコロナ患者さんを受け入れました。
コロナ禍において当院に入院した患者さんは約1,160名、さらに発熱の専門外来では1万名を超える方の診療にあたり、それとは別に帰国者接触者外来においても約2,000名の診療にあたりました。
当院がこれだけ多くの患者さんの診療・受け入れができたのは、以前より新型インフルエンザや麻しん(はしか)などの感染症診療を積極的に行っていたこともあり、感染症診療のノウハウを持つスタッフが多かったからです。そして私が2020年4月に当院の院長に就任した際に、院長としての最初の仕事として、新型コロナ専用病棟立ち上げと感染対策マニュアルの作成を行いましたが、職員が一丸となって取り組んでくれたおかげで受け入れ体制の充実につながったと考えております。
新型コロナ専用病棟は2024年3月末日をもって閉鎖されましたが、今後また何らかの感染症が流行したとしても迅速かつ十分な対応ができるよう、これまでの経験を生かし、よりよい対策ができるよう尽力します。
当院は、県南地域でただ1つの地域がん診療連携拠点病院です。地域がん診療連携拠点病院は地域におけるがん診療の中心的な役割を担う存在で、当院では手術・化学療法・放射線療法のいわゆる3大療法を中心に、がん検診や緩和ケアまで幅広くカバーしています。
外科では、腹腔鏡手術や胸腔鏡手術といった低侵襲外科手術を積極的に導入し、術後の痛みや入院期間の短縮、早期社会復帰を実現しています。がんの根治性を保ちながら、患者さんのQOL(生活の質)を大切にした手術を提供しています。 また、消化器内科では、早期の食道・胃・大腸がんに対し、内視鏡的粘膜切除(EMR)や粘膜下層剥離術(ESD)といった内視鏡治療を行っています。これにより、おなかを切らずにがんを取り除くことが可能となり、治療後の回復も早く、日常生活への影響を最小限に抑えられます。 外科と内科の専門チームが連携し、患者さん一人ひとりに合わせた適切ながん治療を提供しています。
化学療法では、入院ではなく外来での治療が可能な化学療法室を設置し、リラックスして治療を受けていただくことができます。また、年々機器が進化する放射線療法では、2024年4月に定位放射線治療や強度変調放射線治療を行うことのできる“TrueBeam”を導入し、さらに短時間かつ自動でmm単位の位置照合が可能な新型の位置照合装置“Exac Trac Dynamic”も、東北で初めて導入しました。
さらに、がんの早期発見に有用な検査が可能となるPET-CTは2021年に新型に更新し、現在も多くの方にご利用いただいており、地域の皆さんのがんの早期発見、早期治療を支える重要な役割を果たしています。
当院は幅広い診療科を有する病院ですが、入院診療については急性期を担う病院であるため、急性期を終えた患者さんが回復期、療養期を経て社会復帰されるまで、近隣の医療機関とのスムースな連携が必須となります。また外来診療においては、症状が落ち着いて安定期に入った患者さんは、できるだけご紹介いただいた医療機関にフォローアップをお願いし、精密検査や専門的治療が必要な患者さんはご紹介いただくという良い循環が必要です。そのため当院の医師とかかりつけ医が互いに連携して継続的に治療を行う“2人主治医制”を推進し、当院の地域医療連携室がそのコーディネートを行っていきたいと考えています。
2人主治医制は、まずかかりつけの先生方に診ていただくことを基本としており、必要に応じて当院への紹介をしていただきます。そして当院で治療を行い、病状が改善され通院での治療が可能となったら、そこからはまたかかりつけの先生方のところで治療を受けていただきます。
2人主治医制は地域の患者さんを地域全体で継続的かつ効果的にケアしていくのに適した医療連携である、と考えております。今後も当院は、かかりつけの先生方との連携をより強化するための取り組みをしていきたいと考えております。
当院は地域の皆さんへの情報発信や、地域イベントへの協力なども積極的に行っております。
当院からの情報発信としては、健康や医療に関する情報を掲載した季刊広報誌“風によせて”(https://www.shirakawa-kosei.jp/magazine/)を発刊していることや市民公開講座も行っています。さらに2023年11月25・26日に開催された“アウトオブキッザニア㏌しらかわ2023”にも出展し、医師の仕事や助産師の仕事を、地域のお子さんたちに体験していただきました。
また当院は、白河市の“へる塩プロジェクト”の一環として、2016年より人間ドックを受診した方の夕食や一般の方々への減塩メニュー提供*を開始しております。当院8階のレストラン・そらは白河市より“へる塩健康応援店”の第1号店として認定されており、1食あたり3g以下の減塩メニューを提供しております。一般の方でも利用できますので、お気軽にご利用ください。
*一般の方は1食1,000円(税込・要予約)
当院がある福島県白河市は、医療機関や医療従事者が不足している地域です。
当院も患者さんによりよい医療提供ができるよう常に人材確保にも力を入れておりますが、まだまだマンパワー不足な部分があることは否めません。
県南地域唯一の総合病院として2次救急も担っている当院は、幅広い症例を経験できる、とてもやりがいのある病院だと思っております。今後も県南の地域医療を支える存在であり続けられるよう、ぜひ若手医師の皆さんのお力を当院にお貸しいただければ幸いです。
当院は“この県南地域にお住まいの方々が、高度急性期医療から在宅医療まで、全て地域内で完結させられること”を目指し、スタッフが一丸となり日々の業務に取り組んでおります。
今後も進行する地域の高齢化とともに、不調を抱える方も増えてくることでしょう。そして県南地域の医療を守るという当院の使命も、今後ますます重要なものとなってくるはずです。
地域の皆さんのご期待に応えられるよう、より良い医療の提供を目指し、できることは何でもやっていきたいと考えております。
どうか今後とも、当院への変わらぬご理解ご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。