院長インタビュー

急性期から社会復帰まで――地域に寄り添う医療を実践する馬場記念病院

急性期から社会復帰まで――地域に寄り添う医療を実践する馬場記念病院
馬場 武彦 先生

社会医療法人馬場記念病院 理事長・院長

馬場 武彦 先生

目次
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大阪府堺市にある馬場記念病院は、地域の救急医療を担う医療機関として、脳卒中心疾患をはじめとしたさまざまな病気の治療に対応しています。

同院が大切にしているのは、病気を治療するだけでなく、その後の生活まで見据えた医療です。発症直後からのリハビリテーションや地域との連携、就労支援などを通じて、患者さんの社会復帰を支えています。

地域医療における同院の役割や取り組みについて、同院を運営している社会医療法人ペガサス 理事長の馬場(ばば) 武彦(たけひこ)先生にお話を伺いました。

当院は内科や外科、脳神経外科、整形外科などにおいて地域の救急医療を担う医療機関として、救急で運ばれてきた患者さんをできる限り断らずにお受けすることを目指しています。急な体調不良やけがの際に、地域にお住まいの方々が安心して受診できる体制を整えることは、私たちの大きな役割だと考えているからです。

そのために、当院では毎日5つの診療科の医師が当直として院内に泊まり込んでいます。初期研修医たちも一緒になって夜間の救急対応にあたっており、病院全体で地域の救急医療を支えるという意識を共有して日々の診療に向き合っています。

振り返れば、当院は1993年に急性期から回復期までを一体的に支える「ケアミックス型」の病院として診療の枠を広げた歴史があります。もともと脳卒中で受診される方が非常に多く、救命の段階を脱した後も長期的に寄り添い続ける必要があったため、当院を運営する社会医療法人ペガサスでは法人内で患者さんを引き続き診させていただく医療システムを築いてきました。急性期の緊迫した治療の先には、患者さんのその後の人生が待っています。患者さんを住み慣れた地域での生活にしっかりとつないでいくという姿勢は、当院の大きな特徴となっています。 

馬場記念病院 外観(馬場記念病院ご提供)
馬場記念病院 外観(馬場記念病院ご提供)

当院が長年力を入れてきたのが脳卒中の治療で、現在、日本脳卒中学会から一次脳卒中センター(PSC)コア施設の認定を受けています。

脳卒中は時間との勝負です。脳梗塞(のうこうそく)では発症から一定時間以内であればt-PA静注療法を行える場合がありますし、血栓回収療法によって症状の改善が期待できることもあります。できるだけ早く診断し、治療を始めることが重要なのです。

そこで当院では救急隊とも連携し、脳卒中の患者さんに迅速な対応ができる体制を構築しました。常に医師がいる24時間体制で患者さんに対応し、また脳卒中の急性期治療に特化した集中治療室である脳卒中ケアユニット(SCU)を12床設置して迅速に治療にあたっています(2026年6月時点)。

一方で、じっくりと時間をかけて付き合っていく必要のある慢性の病気にも注力しています。たとえば、パーキンソン病ALSといった神経難病の患者さんをお受けしているほか、てんかんの診療まで幅広く実施しています。
さらに、認知症の診療にも早くから取り組んできました。私自身ももの忘れの診療を担当しており、臨床心理士によるきめ細かな検査を行いながら、丁寧な診断に努めています。近年登場したレカネマブなどの新しいお薬による治療も取り入れ、患者さんやご家族が抱える将来への不安を少しでも和らげられるよう、温かみのある外来での治療を心がけているところです。 

高齢化の進行に伴い、重要性が増しているのが循環器の病気の治療です。当院では地域の心疾患の救急患者さんに対応できるよう、新しい医療のあり方を追い求めています。 

具体的には、急性心筋梗塞冠動脈疾患といった1分1秒を争う心臓の病気に対しては、従来の開胸手術だけでなく、ステントなどによるカテーテル治療を行う体制も整えています。加えて、近年は心房細動をはじめとした不整脈の治療にも力を注いできました。ここ数年で普及が始まったパルスフィールドという技術を用いたアブレーション治療の機器も導入済みで、これによって患者さんの体にかかる負担をできる限り抑えながら、不整脈の治療を提供できるようになっています。また、徐脈性不整脈に対するペースメーカー治療にも対応しています。

今後も当院は新しい医療も取り入れながら、地域の先生方からのご紹介や救急の要請にしっかりとお応えし、心臓のご病気で苦しむ方が健やかな生活に戻れるよう尽力してまいります。

手術の様子(馬場記念病院ご提供)
手術の様子(馬場記念病院ご提供)

近年は地域のご高齢の方が増えていることもあり、整形外科の果たす役割が非常に大きくなってきました。当院では、お年寄りに頻発する大腿骨(だいたいこつ)や膝、股関節(こかんせつ)骨折といった外傷に対して、迅速に手術を行える受け入れ体制を敷いています。
当院の整形外科部長が手の外科を専門としていることも大きな特色です。手の外科はマイクロサージャリーと呼ばれる、非常に繊細な血管や神経を顕微鏡下で縫合する技術を用いた治療を行っており、不意のけがで運ばれてきた地域の患者さんの身体機能を守るために力を尽くしています。 

また、お腹の急病に対応する消化器領域でも、緊急の処置が必要な患者さんに24時間の対応を徹底しています。胃や腸からの激しい消化管出血やイレウス、急性の胆嚢炎胆管炎といった胆道系の病気は、救急搬送されてくるケースが非常に目立ちます。当院では消化器内科の医師と消化器外科の医師が科の垣根を越えて消化器センターとしてがっちりと連携し、内視鏡治療や腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)といった患者さんの体に優しいアプローチを組み合わせて治療を行っています。

手術の様子(馬場記念病院ご提供
手術の様子(馬場記念病院ご提供)

ここまで当院の急性期の治療について述べてきましたが、実は当院の歩みや日々の診療を振り返ったときに、私たちのアイデンティティとして真っ先に挙げたいのが、「急性期リハビリテーション」です。

たとえば脳卒中などで倒れられた患者さんについて、手術のような急性期の治療そのものは、もちろん当院の医師が担当します。しかしその治療だけで終わってしまっては、患者さんが元の健やかな生活を取り戻すことは叶いません。必要不可欠なのは、急性期の治療直後から行うリハビリテーション(以下、リハビリ)です。 

私たちは、病気を発症したまさにその当日からのリハビリ介入を何よりも重んじています。患者さんの病状が許す範囲で、できる限り早い段階から体を動かし始めるようにしているのです。
どうしてそこまで急ぎ足で始めるのかと疑問に思われるかもしれませんが、早期に動かし始めることこそが、その後の回復の度合いを大きく左右するからにほかなりません。実際、リハビリの開始が遅れると、関節が固くなってしまったり、筋力が低下したりすることで、その後の回復に時間がかかることがあります。回復期の病院へ移るまでの間に身体機能が落ちてしまうこともあるため、私たちは「できるだけ早く介入する」ことを何よりも大切にしているのです。

だからこそ当院では、急性期治療が終わった直後からリハビリを開始します。そして、土曜日や日曜日、祝日も含めて、365日休みなくリハビリを続けます。休みの日だからとリハビリを休んでしまうと、そのぶん回復が遅れることがあるからです。
現在、200名を超えるリハビリスタッフが在籍しており(2026年6月時点)、こうした体制を支えています。発症当日から集中的なリハビリを提供できることは、当院の大きな特徴の1つだと考えています。

このような熱量を持ったリハビリは、当然ながら1人の力で成し遂げられるものではありません。当院には、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といった専門のリハビリスタッフが在籍しています。それに加えて看護師や医師も含めたさまざまな職種の人間が、1つのチームとしてがっちりと手を携え、大勢の患者さんの日々を支えています。 

現場のスタッフたちが常に意識しているのは、単に「歩けるようになること」だけをリハビリの目標に設定しないことです。患者さんによって、叶えたい未来は本当にそれぞれ異なります。元の職場へ復帰したいと願う方もいらっしゃれば、ご家族とこれまでどおり穏やかに暮らしたい方、あるいは昔からの趣味をもう一度楽しみたいという希望を持つ方もおられます。
だからこそ、私たちは患者さん一人ひとりが胸に抱く個別の目標に耳を傾けるよう心がけています。ただ機械的に体の機能だけを回復させるのではなく、その方がどのような生活を望んでいるのかを丁寧に伺いながら、いま本当に必要な支援を個別に組み立てていくわけです。 

当院の特徴である、患者さん一人ひとりに寄り添う眼差しは、決して入院期間中だけにとどまりません。無事に病院を巣立ったその先も、住み慣れた我が家や地域社会の中で、その方らしい笑顔の暮らしをずっと送り続けられるように後押ししたいと考えています。
そのためには、病院という点での関わりではなく、生活全体を面で支える包括的な仕組みがどうしても必要になってきます。そこでいま当院が推進しているのが、退院後の患者さんの未来まで切れ目なく包み込むネットワーク、「ペガサス・トータル・ヘルスケアシステム」です。

私は、当院で急性期の治療を行った患者さんについて、次の回復期病院へお送りすること自体がゴールだとは決して思っていません。
最終的な目的地は、やはり住み慣れたご自宅へ戻ること、そして環境が整えば再び元気に社会復帰を果たしていただくことです。

たとえば脳卒中の患者さんでは、急性期の治療で命をとりとめたあと、言葉や体の動きについての急性期リハビリテーションを行い、その後自宅で楽にお過ごしいただいて、さらに社会へ復帰していただく、そういった人生が地続きになっています。私は、これらの一連の流れ全てで切れ目のない支援をお届けすることこそが、医療の果たすべき役割ではないかと考えています。

こうした考え方を地域全体で具現化するため、私たちが構築を進めているのが「ペガサス・トータル・ヘルスケアシステム」です。
このシステムでは、救命救急から急性期、回復期、慢性期、そして在宅での支援に至るまで、当院を運営する社会医療法人ペガサスの内外を問わずシームレスにつなぐネットワークを目指しています。実際、病院の近隣には訪問看護ステーションやデイサービスセンターといった関連施設が数多くあり、退院された後も患者さんの生活全体を温かく支え続けられる仕組みができています。

また、働き盛りの世代で病気に倒れてしまった方の再就職を後押しする、職業リハビリテーションをはじめとした就労支援にも真摯に取り組んでいます。当院のスタッフが患者さんの日常生活における自立度を細かく確認しながら、実際の仕事内容に合わせたトレーニングプログラムを立案し、再び自信を持って社会へ一歩を踏み出せるまで徹底的に寄り添っていくのです。
リハビリを経て「もう一度働きたい」という意欲を持たれた方が希望される場合には、当法人の採用試験を受けていただくことも可能にいたしました。患者さんにとって、治療を受けリハビリを重ねてきた勝手知ったる場所だからこそ、そのまま実際の雇用の受け皿となることができます。
このような取り組みを通じて、その先にある「働く場所」の門戸まで開くことで、皆さんの人生の再出発を支えていきたいと考えています。 

ペガサス・トータル・ヘルスケアシステムの取り組みは、医療や介護、社会復帰支援にとどまりません。法人では4つの認可保育園を運営しており、医療的ケア児を受け入れるインクルーシブ保育にも取り組んでいます。病気や障害の有無にかかわらず子どもたちが共に育つ環境を整えることも、地域を支える大切な役割の1つだからです。
当院は、病気が治ったらそれで終わりではなく、その方の人生やご家族の暮らしがずっと幸せに続いていく礎を築いていきたいと心から願っています。

これまで述べてきたペガサス・トータル・ヘルスケアシステムの取り組みは、法人内の施設だけで成り立つものではありません。
当院は地域医療支援病院として、地域の診療所や開業医の先生方と密接に連携しており、日々患者さんをご紹介いただいたり、当院での治療が終わった患者さんを逆紹介させていただいたりしています。
日常的な健康管理はかかりつけ医の先生に担っていただき、専門的な検査や治療が必要になった際には当院へご紹介いただく。そして状態が安定すれば、再び地域の先生へお返しする。このような役割分担を行いながら、地域全体で患者さんを支える医療体制を築いています。

さらに、救急医療においても連携は欠かせません。脳卒中や心疾患は一刻を争うことがありますから、救急隊からの情報をもとに受け入れ準備を進め、病院到着後すぐに治療へ移行できるよう努めています。患者さんを地域の生活へ戻すためには、病院だけではなく、地域の医療機関や救急隊との協力が必要なのです。

ここまでお話ししてきたように、患者さんを地域全体でまもり、誰もが住み慣れた場所で安心して暮らせるための包括的な仕組みこそが、私たちの目指すペガサス・トータル・ヘルスケアシステムです。病気という困難に直面したときでも、決して1人で孤立することなく、医療や介護、そして社会復帰にいたるまで、地域全体で役割を分担しながら患者さんを支えていく。そのような体制を堺の街にしっかりと根付かせるために、これからも私たちはこの取り組みに全力を注ぎ、地域に寄り添う医療を真摯に実践していきたいと思っています。

当院は、地域の皆さんがもしものときに「あそこへ行けば大丈夫だ」と思い出して安心していただけるような、心強い存在でありたいと思っています。一刻を争う脳卒中や心臓のご病気に対する救急体制を維持し、運ばれてきたその日からのリハビリテーションを徹底することで、皆さんの大切な命とその先の生活をしっかりとお守りいたします。 

いつまでもこの堺の街に必要とされ、愛される病院であり続けるために、私たちは各診療科や関連施設で手を携えて日々の診療に全力を尽くしてまいります。皆さんの日々の暮らしの中で、何か体のことで気になる症状や、健康に対する小さな不安が生まれましたら、どうぞいつでも遠慮なくご相談にいらしてください。一人ひとりの患者さんの人生に温かく寄り添いながら、これからも地域医療の発展に尽くしていきます。
 

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