新潟市において地域の急性期医療を支える済生会新潟病院は、2023年に救急拠点病院としての選定を受け、さらなる救急医療の充実を図ってきました。
また、救急搬送件数が増加するなか、完全予約制の導入や地域の医療機関との連携強化を進めています。
同院の院長である本間 照先生に、現在の診療体制や地域とのつながり、そしてこれからの地域医療のあり方についてお話を伺いました。
当院は明治天皇の済生勅語によって始まった済生会の病院であり、その始まりは1927年、新潟診療所として産声を上げたところまでさかのぼります。以来、幾度かの改組や移転を重ねながら地域の医療を支え続け、2027年には創立100周年を迎えます。
医療だけでなく、保健、福祉、介護までを含めて地域に寄り添ってきたのが当院の歩みです。当院には「ともに歩み、支える」という理念があり、これは決して掲げるだけの言葉ではありません。時代とともに求められる役割は変わってきましたが、地域の方々と対話を重ねながら医療を届けるという姿勢は、当院が一貫して大切にしてきたものです。
2023年5月に当院は、新潟市救急拠点病院に選定されました。以前から新潟市では救急医療の機能が分散しているという課題があり、地域の医療資源をどう再編成していくかが議論されていたなかでの選定です。
これを受け、当院では2027年までに年間8,000件の救急搬送を受け入れられる体制を目指して整備を進めています。その成果として、救急者受け入れ台数は選定前の2022年度(2022年4月~2023年3月)は約3,000台でしたが、2025年度(2025年4月~2026年3月)には約4,500台となりました。
とはいえ、単に数字を追い求めることだけが目的ではありません。コロナ禍での経験からも、救急患者さんが3次救急(生命の危険のある重篤な患者への救急医療)の病院に溢れてしまい、病院が機能不全に陥らないように、そうした病院を支えるべく、2次(手術や入院による治療が必要な患者への救急医療)から2.5次(重症例を受け入れるなど、3次に近い2次救急医療)にあたる幅広い救急患者さんをしっかりと受け入れることが非常に重要だと考えています。
高齢化が進むこの地域では今後、高齢の患者さんの救急搬送が今以上に増えていくでしょう。そうした変化のなかで、地域全体の救急医療において当院がどんな役割を果たすべきか、今後も日々考えながら体制を整えていきます。
救急搬送の増加に合わせ、ここ数年で力を入れてきたのが外科の体制強化です。現在外科医は8人体制となり、そのうち4人は県外から「手術がしたい」という思いで着任してくれました。大学の医局とは別の経路で医師たちが集まってくれたことは、夜間を含めた緊急手術の体制を強固にするうえで、当院にとって大変心強い支えとなっています。
また、外科を支えているのが麻酔科*です。当院は日本麻酔科学会によって認定された麻酔科認定病院であり、同学会が認定した5人の麻酔科認定医または専門医が勤務し、24時間体制の医療を支えています。高齢者救急においては緊急手術が必要になる場面もありますが、看護師などのスタッフ配置も含め、病院全体で人を確保しながら安定した体制を目指しています。
*麻酔科標榜医 多賀紀一郎、飛田俊幸、江村美紗、日比野亜也香
救急搬送されてくる方の中には、お腹の痛みを訴える方が少なくありません。胆石や腸閉塞、劇症肝炎、肝不全、急性膵炎など、消化器の病気により緊急対応が必要になるケースは多く、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)やPTCD・PTGBD(経皮経肝胆管・胆嚢ドレナージ)のようにかなり緊急性の高い処置を要する場面では、消化器内科が迅速に対応をしています。
また、当科ではこうした救急対応に加え、慢性肝疾患・肝不全、潰瘍性大腸炎やクローン病といった慢性の病気の診療にも力を入れています。以前に比べて効果の高い薬が増えたこともありますが、症状が重くなってしまった患者さんへの対応は今も簡単ではありません。
そのため、消化器内科の医師の負担は大きくなっています。当院ではこの状況を受け、他の内科の医師たちが率先して一般的な内科診療を積極的にバックアップしてくれるようになっています。
さらに、外科体制の拡充に伴い、消化器内科と外科の連携も進展しています。現在は毎週、内科と外科の合同カンファレンスを実施しており、診療科の垣根を越えて患者さんの状態を相談できる場ができたことで、以前よりスムーズに連携が取れるようになったと感じています。
産婦人科では、無痛分娩(当院では和痛分娩と称しています)を今年度から正式に開始しました。婦人科領域では内視鏡手術を得意とする医師も加わり、良性の病気を中心に、より対応の幅が広がっています。生殖医療の分野には新たに女性の医師が加わり、不妊治療に取り組む患者さんが相談しやすい環境づくりにもつながっていると感じています。
整形外科は新潟大学と連携して、拠点選定後は、医師派遣も増員していただきました。膝や肩、股関節といった関節領域を中心に診療を行っており、予定された手術だけでなく救急患者さんへの対応も重要な役目と認識しています。高齢化が進む地域において、整形外科が果たす役割はますます大きくなっていくでしょう。
循環器領域でも、新潟大学が中心となり、STEMI(ST上昇型心筋梗塞)をはじめとした虚血性心疾患の新潟圏域におけるネットワークが形成され、その搬送先として、当院が拠点の1つに位置づけられています。当院は心臓血管外科も備えており、大動脈解離といった一刻を争う病気の患者さんが運び込まれた際にも対応が可能です。こうした救急対応は、手術室や麻酔科を含めた院内の有機的な連携が支えています。
また、不整脈の治療についても、積極的に診療を行っています。
2024年、当院は産婦人科や小児科など一部診療科を除き、外来を完全予約制に切り替えました。救急を受け入れ続けるためには、病院の限られた医療資源を分配調整する必要があり、紹介患者さんを中心とした診療体制にすることで、救急医療に対応できる力を確保するのが狙いです。実際にこの取り組みを始めてから、一刻を争う救急の患者さんをお断りせざるを得ないケースはかなり減りました。
その一方で、まだ課題も残っています。たとえば、救急を積極的に受け入れる医師やスタッフには大きな負担がかかっています。また、ベッドの空きがなく、やむを得ずお断りしなければならない場面もあります。
後者に関しては、救急で受け入れた患者さんの状態が落ち着いたら、地域の医療機関へ転院をお願いすることも当院の大切な役割と捉え、なるべくベッドを速やかに空けられるよう努めています。救急、紹介、そして逆紹介は、それぞれ別々のものではなく、それらをうまく連携させることが課題を減らすことにつながると考えています。
現在の医療では、1つの医療機関の中だけで治療を完結させるのではなく、介護や在宅まで含めて地域全体で患者さんを支える視点が不可欠です。
済生会には「地域包括ケア連携士」という取り組みがあり、医療ソーシャルワーカー(MSW)が中心に、さまざまな組織との連携や、制度を活用して地域をつなぐ役割を担っています。当院はMSWが14名おり(2026年4月時点)、当院での治療が終わった患者さんが地域で安心して生活を続けられるよう、医療・介護・福祉などにつなぐ役割を果たしています。さらに当院では今後の地域医療を持続的に支えていくため、MSWの人材教育にも力を入れているところです。
当院では救急医療を支える救急車の更新のため、2025年にクラウドファンディングに挑戦いたしました。その結果、目標額の3倍を超えるご支援をいただくことができました。支援者の皆さんからは、「いつもありがとう、これからも頑張ってください」など大変多くの応援メッセージをいただき、これが職員の大きな励みになっています。
きっとこれまで病院との接点があまりなかった方々からのご支援も含まれていると思います。このことは私たちが地域に支えられていることを再確認し、また地域に必要とされる病院とは何かを考える、非常によいきっかけになったと感じています。
私たちが目指しているのは、救急車を前向きに受け入れる病院です。救急車が来たら、ポジティブな気持ちで迎え入れたいと思える自分でありたい――私はそんな話を、急性腹症を扱うアメリカの教科書の冒頭で読んだことがあり、まさにそのとおりだと思っています。
さまざまな救急症例に向き合うことは大変ではありますが、医師としての学びや成長につながる貴重な経験でもあります。そうした気持ちで救急に向き合える医師やスタッフが、これからも当院に集まってきてくれたらと願っています。
もちろん働くスタッフが心身共に健康であることは必須の条件です。忙しさのなかで疲れがたまり、笑顔を失ってしまうような状態では、長く働き続けることはできません。地域の医療を支え続けていくためにも、働く一人ひとりが感謝と喜びを忘れずにいられる病院でありたいと考えています。
最後になりますが、当院は3次救急を支える2次から2.5次の救急医療を担う病院として、これからも地域の急性期医療に貢献していく所存です。
そして救急の場だけにとどまらず、紹介や逆紹介、さらには介護や在宅医療まで含めて地域全体で医療のバトンをつないでいくことで、この地域にお住まいの皆さんが安心して暮らしていけるよう、全力で日々の診療に打ち込んでまいります。
*本記事の情報は、2026年9月時点のものです。
本間 照 先生の所属医療機関
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。