FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、骨の痛みや筋力低下を主症状とする、骨の病気のひとつです。骨の症状を引き起こす原因は、体内のホルモンが過剰にはたらくことで起こる「低リン血症」です。リンは、食事から摂取可能な栄養素ですが、低リン血症は食生活が原因で起こることはほぼありません。それでは、低リン血症とはどのような状態なのでしょうか。
今回は、骨の形成に不可欠な栄養素「リン」と、この病気に深くかかわる「低リン血症」について、東京大学医学部附属病院 伊東 伸朗先生にご解説いただきました。
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、FGF23というホルモンが過剰に分泌されることが原因で低リン血症(血中のリン濃度の低下)が起こり、それに伴って発症する骨の病気です。
主な症状は、低身長や骨の変形(小児)、骨の痛みや筋力低下(小児と成人)です。生まれつきのFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の一部では長期間の経過とともに、関節周囲の骨棘(骨で作られるとげのようなもの)や靭帯の骨化などによる疼痛や関節の可動範囲の制限といった治療の難しい症状が引き起こされることもあります。
FGF23について、詳しくは『FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症とはどんな病気?』をご覧ください。
骨の石灰化が妨げられて、本来は石のように固いはずの骨が柔らかくなってしまう病気のことです。「くる病」と「骨軟化症」は、同様の病態(病状)がみられます。その違いは、子どものときに起こるか、大人になってから起こるかということです。
骨端線*が閉鎖する前に発症するものはくる病、骨端線が閉鎖した後に発症するものは骨軟化症と分類されています。
それでは、この病気に深くかかわっているリンとはどのようなミネラルなのでしょうか。
*骨端線……子どもの成長にかかわる、腕や足の骨の様な長い骨の端にある軟骨組織が集まった部分。線上にみえる。
リンは人の体にとって欠かせないミネラルのひとつで、骨や歯の形成にかかわる電解質です。体内では、リンはカルシウムとともに、歯や骨を構成する成分のひとつ「ハイドロキシアパタイト」を形成しています。
ハイドロキシアパタイトは、歯や骨を構成する成分のひとつです。カルシウムとリンが複雑に結合することで形成されています。骨組織において、石のように固い骨をつくる役割を担っています。ハイドロキシアパタイトが不足すると、骨の石灰化は妨げられてしまいます。
リンは、どんな食事にも含まれている栄養素です。食品添加物にもよく使用されています。リンの食事摂取基準は、成人男性で1日1,000mg、成人女性で1日800mgが目安量とされています。基準に見合った量を摂取することが大切です。
骨の形成に欠かせないミネラルではありますが、健康な人は、意識してリンをたくさん摂取しようとする必要はありません。食事からリンを多量に取り入れたからといって、骨が強くなるというわけではないからです。むしろ、食事全体の量が多くなってしまい、摂取カロリーが過剰になるなどのリスクが高くなってしまいます。
血中のリン濃度の調整には、ホルモンがかかわっています。一時的に食事がとれないような状況になったり、逆に食べ過ぎしたりしても、血中のリン濃度はホルモンによってある程度調整されています。
そのため通常の生活をされている方では、食生活に原因があって低リン血症が起こることは、ビタミンDの極端な摂取不足によるビタミンD欠乏症などを除いてはほとんどありません。
低リン血症は、病気などの特殊な状況が原因で起こることがあります。低リン血症の原因となる代表的な病気は、ビタミンD欠乏症*、腎疾患(ファンコーニ症候群**)などです。
*ビタミンD欠乏症……ビタミンD(25水酸化ビタミンD)の濃度が基準値以下の状態。
**ファンコーニ症候群……腎臓でリンの過剰な排泄を起こす病気。薬剤の副作用、遺伝性疾患などにより起こる場合がある。
低リン血症が起こると、ハイドロキシアパタイト(リンとカルシウムによって構成される成分)が不足します。すると、骨の石灰化が妨げられて、本来は石のように固いはずの骨が柔らかくなってしまいます(石灰化障害)。このように骨が柔らかくなる病気を、くる病・骨軟化症といいます。
低リン血症に伴いハイドロキシアパタイトが不足すると、骨の石灰化が妨げられます。すると、骨芽細胞(骨をつくろうとする細胞)が増殖して骨の強度を高めようとします。しかし、ハイドロキシアパタイトが不足しているためにせっかくつくられた骨の原基(骨基質:骨をつくっている組織の一部)が石灰化することはなく、類骨(石灰化される前の組織。細胞や間質成分を主体としたもの)という柔らかい成分が増えてしまいます。類骨が増加した状態では、骨は柔らかく、骨密度は低くなります。
上述したように、低リン血症は、直接骨密度の低下を引き起こすことがあります。
一方、低カルシウム血症(血中のカルシウム濃度の低下)は、直接骨密度を低下させることはありません。その理由は、骨と血液ではカルシウム濃度を調節するしくみが異なるためだと考えられています。
ビタミンD欠乏症などに伴う低カルシウム血症は、直接骨密度を低下させることはありませんが、間接的には骨密度の低下を引き起こす可能性があります。
低カルシウム血症が起こると、カルシウム濃度を高める副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が促進されます。副甲状腺ホルモン(PTH)は、腎臓でカルシウムの排泄を抑えるのと同時に、骨からカルシウムを血液中に漏出させる作用を持つためです。
前述のように、リンもカルシウムも、ホルモン(FGF23とPTH、活性型ビタミンD)によって血液中の濃度が適正範囲に調整されています。必要以上に摂取しても尿中に排泄されてしまうため、骨密度を増加させる効果はありません。リンやカルシウムの過剰な摂取はむしろ腎機能障害に結び付くことがありますので、バランスのよい食事をとるように心がけることが大切です。
『FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症とはどんな病気?』では、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の原因となる、FGF23についてご説明します。
東京大学医学部附属病院 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、骨粗鬆症センター 副センター長
東京大学医学部附属病院 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授、骨粗鬆症センター 副センター長
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・内分泌代謝科指導医・評議員日本糖尿病学会 糖尿病専門医・糖尿病研修指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本骨粗鬆症学会 認定医・評議員日本骨代謝学会 評議員
糖尿病、高血圧や内分泌疾患全般を診療しているが、その中でも骨粗鬆症や原発性副甲状腺機能亢進症、くる病・骨軟化症といった骨代謝疾患の診療を専門としている。特に生理的なリン濃度調節因子であるFGF23が関連する疾患に関しては世界に先駆けた臨床研究・基礎研究を行っている。
「東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 内分泌骨ミネラル代謝研究グループホームページ」
https://plaza.umin.ac.jp/bone-mineral-lab/
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