サルコペニアとは、主に加齢によって起こる全身の筋肉量減少と、それに伴う筋力低下、身体機能の低下を指します。サルコペニアは、加齢以外にも、病気や入院中の過度な安静などによって起こり、身体機能障害やQOL(生活の質)の低下につながるため、早期に発見し、原因に応じた介入が必要です。
リハビリテーション(以下、リハ)と栄養の2つの側面からアプローチして患者さんの生活機能を高める“リハ栄養”という考え方を提唱し、日々の診療に尽力される若林秀隆先生(前・横浜市立大学附属市民総合医療センター リハビリテーション科 准教授)に、サルコペニアの原因と診断、適切なケアと治療の重要性についてお話を伺いました。
サルコペニアとは、主に加齢によって起こる全身の筋肉量減少と、それに伴う筋力低下、身体機能の低下のことを指します。診断、治療を行うべき1つの病気として国際的にも認識されており、老年医学やリハの分野において注目を集めています。
サルコペニアが進行すると、寝たきり、嚥下障害の悪化、人工呼吸器から離脱できないといった状態に陥ります。重症化して要介護状態になると改善が容易ではなくなるため、予防と早期の治療が重要です。
サルコペニアの原因は、以下の5つに分類されます。基本的には、これらの原因が重なることでサルコペニアが進行していきます。
年齢を重ねると、筋肉となるたんぱく質(骨格筋たんぱく質)が体内で合成されにくくなると同時に分解されやすくもなります。そのため、40歳を過ぎると、全身の筋肉量は年に1%ほど減少するといわれています。
低活動とは、体を使わないことを指します。たとえば、入院中の患者さんがベッドで安静に過ごすと、1日に0.5%ほどの筋肉量が落ちるとされています。筋肉は、使わないことで萎縮するのです。これを“廃用性筋萎縮”といいます。
栄養摂取量が必要量に達していなかったり、経管栄養(消化管内にチューブを入れて栄養剤を注入する管理方法)や点滴でたんぱく質の摂取量が足りなかったりすると、低栄養に陥ります。たとえば、1日2,000kcalを必要とする方が1,000kcalしか摂らず、栄養摂取量が不足すると、筋肉量は少しずつ低下します。なお、エネルギーが足りない場合には、筋肉よりも主に脂肪が減っていきます。
サルコペニアの原因となる病気には、大きく分けて3つの種類があります。
医原性(医療行為によって生じる)サルコペニアには、2種類あります。
2019年10月24日、AWGS(The Asian Working Group on Sarcopenia:アジアにおけるサルコペニアの研究グループ)2019によってサルコペニアの診断基準が改定されました。この改定により、筋肉量を測る検査機器がなくてもサルコペニアを発見できる指標が設定されたため、場所を選ばず、さらには医師だけではなく看護師や管理栄養士、リハビリスタッフでもサルコペニアを見つけることが可能になりました。これは、より早期にサルコペニアを発見し、診断と治療につなげるという点でメリットがあります。
下記の(1)+((2)または(3))が該当する場合は、サルコペニアの可能性ありと診断されます。
最初に、下腿周囲長(ふくらはぎのもっとも太いところ)を測ります。男性で34cm未満、女性で33cm未満の場合は、サルコペニアが疑われます。簡便な発見法であり、高齢の患者さんでふくらはぎが細い方がいれば、まずはふくらはぎの太さを測ります。
より簡単な方法には、“指輪っかテスト”があります。両手の人差し指と親指で輪をつくってふくらはぎを囲み、指でつくった輪とふくらはぎの間に隙間ができる場合は、サルコペニアの可能性があります。指輪っかテストでサルコペニアの疑いがある場合には、筋力と身体機能を調べます。
筋力低下の有無を判断する際には、握力を測定します。男性で28kg未満、女性で18㎏未満の場合は、筋力が落ちていると判断します。
身体機能の低下は、5回椅子立ち上がりテストでチェックします。座っている状態から立って座ってという動作を5回繰り返し、終わるまでに12秒以上かかった場合は、身体機能が落ちていると考えられます。
(1)に加え、(2)握力、もしくは(3)5回椅子立ち上がりテストのどちらかに該当した場合は、サルコペニアの可能性ありと診断されます。
サルコペニアは、転倒による骨折の危険性を増加させ、身体機能障害やQOL(生活の質)の低下、さらには死亡リスクを伴います。そのため、サルコペニアに対する早期介入と予防は非常に大切です。サルコペニアが重症化し、要介護状態までになると、改善も容易ではありません。そのため、重症化する前に早期離床や早期介入を行うことで、入院中に発生するサルコペニアを減らすことが重要と考えます。
このような考え方にもとづき、当院では、重症のサルコペニアに対する治療にとどまらず、比較的軽症のサルコペニア(たとえば自分で歩ける状態など)に対する早期発見と早期介入にも努めています。一例として、手術後の早期離床(なるべく早期に、寝た姿勢から座る、立つ、歩くなどの動作を行い、日常生活活動の自立を目指す)や、重症患者の入院当日か翌日には理学療法士が介入するといった試みがあります。
術後すぐに動くことを躊躇される患者さんもいらっしゃいますが、より早く日常生活に戻れるよう適切にリハやケアを行うことは大切です。患者さんやそのご家族にはサルコペニアの重症化を防ぐ、あるいは予防することの重要性をご理解いただき、可能な範囲でリハを続けていただけたらと思います。
入院時の問診で、転びやすい、食欲がないといった訴えがある方、がんや慢性臓器不全の方などに対しては、サルコペニアを疑い、まずは下腿周囲長を測るようにしています。
男性で34cm未満、女性で33cm未満であれば、握力や身体機能を評価します。そこで、握力や身体機能の低下がみられれば、BIAという検査機器を用いて、手足の筋肉量を身長の2乗で割った骨格筋指数を出します。男性は7.0kg/m2、女性は5.7kg/m2を下回っていれば、サルコペニアと診断します。
当院の栄養サポートチームは、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、理学療法士もしくは作業療法士を基本メンバーとして構成しています。栄養サポートチームは、週に1回のカンファレンスを実施し、回診を行ったうえで個々の患者さんに最適と思われる栄養ケアプランを立てます。熱傷などで全身の代謝があり、通常よりも栄養摂取量を要する場合には、必要に応じて1日3,000kcal以上の栄養摂取量を設定することもあります。このように各職種が連携しながら、患者さんをサポートしています。
当院では、リハを行っているサルコペニアの患者さんに対して、たんぱく質と分枝鎖アミノ酸が強化された1本100kcalのゼリーを、朝食やトレーニング後に1日1〜2本お出ししています。体を動かした直後にアミノ酸を多く摂ると、よりたんぱく質の合成が増えるためです。
これらの栄養サポートには患者さんから追加料金はいただいておらず、必要な患者さんに対して、頻度とタイミングを判断のうえ、お出ししています。
東京女子医科大学病院 リハビリテーション科 教授
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