卵巣嚢腫とは、卵巣にできる腫瘍のうち、袋状で液状の中身が詰まった腫瘍を指します。卵巣嚢腫にはいくつか種類があり、子宮内膜症が原因で卵巣の中にチョコレートのような古い出血がたまる卵巣子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)、水や粘液がたまる嚢胞腺腫、皮膚や髪の毛、歯などの組織がたまる皮様嚢腫などがあります。
小さい場合は経過観察となることもありますが、大きくなると基本的に自然に消失することはないため手術が行われることが一般的です。
ここでは、卵巣嚢腫の手術方法を中心に、検査方法、妊孕性*の温存などについて詳しく解説します。
*妊孕性:妊娠するための力
手術などの治療方針を決めるために、まずさまざまな検査が行われます。卵巣嚢腫が発見されるきっかけには、症状があって受診した場合や、無症状のまま健康診断などで偶然発見される場合などがあります。卵巣嚢腫の大きさによっては下腹部の痛みや腹部にしこりを触れる場合などがあり、特に皮様嚢腫の場合は茎捻転(卵巣のねじれ)を起こして急激な腹痛が起こることがあります。
検査は主に超音波検査やCT・MRI検査によって行われますが、嚢腫がある程度の大きさになっている場合は、内診(触診)でも診断できることがあります。超音波検査では、卵巣嚢腫の大きさや性状を見ることができ、CT・MRI検査では嚢腫の内部構造をより詳しく調べられるため、ここで嚢腫の種類を確定したり、良性か悪性かを予測したりすることができます。
また、良性か悪性かを予測する検査として、補助的に腫瘍マーカー(卵巣腫瘍の場合は血液検査)が用いられることもあります。これはがん(悪性腫瘍)がつくりだす特定の物質の量を調べる検査で、数値によって良性か悪性かを予測することができます。ただし異常値でも悪性でないことがあるため、これだけで良性か悪性かを診断することはなく、あくまで補助的な検査として用いられます。
卵巣嚢腫が小さく、悪性の可能性も低い場合は定期的に超音波検査を行うなどして経過観察を行います。
また、卵巣子宮内膜症性嚢胞の場合は、低用量ピルや黄体ホルモンなどを用いたホルモン療法で小さくなることもあるため、ホルモン療法が行われることがあります。しかし、それ以外の卵巣嚢腫は自然に消失する可能性が低いため、手術が行われることが一般的です。
手術には腹腔鏡下手術と開腹手術の2種類があり、嚢腫の大きさや悪性の可能性がどの程度あるのかによって方法が選択されます。一般的に腹腔鏡下手術のほうが体への負担が少ないとされています。
腹腔鏡下手術では、腹部に5mm~1cm程度の傷を2~4か所つくり、そこからカメラや器具を入れて手術を行います。卵巣嚢腫の場合はさらに、嚢腫の部分だけを取り出す“卵巣嚢腫摘出術”と、嚢腫と一緒に卵巣と卵管も取り除く“付属器切除術”の選択肢がありますが、若い人や出産経験のない人など卵巣の温存が必要な場合は卵巣嚢腫摘出術が選択されることが一般的です。
妊娠を希望する場合、子宮、卵巣、卵管の温存が必要となりますが、卵巣・卵管の摘出が片側だけの場合は、閉経したり完全に不妊になったりすることはありません。そのため、嚢腫だけを取り除く卵巣嚢腫摘出術や、付属器切除術であっても片側だけの切除であればその後の妊娠も可能です。
しかし、摘出手術の結果、腫瘍が悪性であった場合は本来の卵巣がんの治療に準じて追加手術を行うケースがあります。卵巣がんの手術では子宮、両側の卵巣、卵管を切除するため、基本的にはその後の妊娠が望めなくなります。
ただし、卵巣がんの手術においては妊孕性を温存する治療法を選択できる場合があり、さらに、両側の卵巣・卵管を切除しても子宮が残っている場合は、卵子や受精卵の凍結保存によってその後の妊娠を望めることもあるため、主治医に相談するとよいでしょう。
卵巣嚢腫の治療の基本は手術です。手術の際は開腹手術または腹腔鏡下手術によって嚢腫の部分を取り出すか、卵管や卵巣と一緒に嚢腫を取り出します。
また、卵巣・卵管は片側だけ残っていれば今後の妊娠も可能ですが、両側の卵巣・卵管を切除したり、卵巣がんの手術で子宮を切除したりした場合は今後の妊娠が望めなくなります。ただし、何らかの方法で妊孕性を温存する治療法や対策ができる可能性もあるため、妊娠を希望する場合は医師によく相談し、納得して治療を受けられるとよいでしょう。
倉敷成人病センター 理事長
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