こうくうていほうかしきえん

口腔底蜂窩織炎

最終更新日:
2017年04月25日
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2017/04/25
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概要

顎口に発症する感染症は、ほとんどが歯に関連する感染症(歯性感染症)であるとされています。歯性感染症は1群から4群に分類されていて、う蝕(むし歯)や歯周炎(歯肉の炎症)による歯肉膿瘍歯周膿瘍(歯ぐきにが貯まった状態)など(1群)とおもに埋伏智歯(親知らず)による智歯周囲炎(2群)は、顎の骨に炎症が波及する顎骨骨髄炎(3群)や顎の骨の周辺に炎症が波及する蜂窩織炎(4群)へと進展します。本項では口腔底に炎症が波及した口腔底蜂窩織炎について説明します。

口腔底(口底)は、舌の下にある軟らかい組織で形成された部分で、いくつかの組織隙(骨や筋肉、唾液腺などに囲まれた隙間)が存在します。口腔底の組織隙は顎舌骨筋という筋肉によって上下に2つに分けられています。

  • 舌下隙:顎舌骨筋と舌の下の粘膜との間
  • 顎下隙とオトガイ下隙:顎舌骨筋と頚の筋膜との間

下の歯に関連した炎症が舌下隙へ波及するとおもに口の中に症状が現れ、舌下の粘膜が発赤、腫脹します。顎下隙、オトガイ隙の炎症ではおもに頚部に症状が現れることが多いです。これらの組織隙は骨、骨膜、筋膜などと比べて密度が低いため、この部分に炎症が波及すると一か所に限局せず複数の組織隙に拡大してしまうことがあります。

このような場合を、炎症の局在が不明瞭になることから口腔底蜂窩織炎とよびます。さらに炎症が口腔底から咽頭間隙、縦隔(左右の肺の間)など広範におよぶと気道狭窄(呼吸ができない)、縦隔炎などの重篤な継発症を生じ、死に至る危険性もあります。
 

原因

ほとんどの原因は、う蝕(むし歯)、歯周炎智歯周囲炎(親知らず周囲の炎症)、抜歯後の感染など歯性感染症です。特に下顎智歯、大臼歯からは口腔底の組織隙に炎症が波及しやすいといわれています。

症状

全身的な症状は、38℃以上の発熱、倦怠感、頭痛食欲不振などが挙げられます。口や頚の周囲では浮腫性の腫脹、熱感、境界が不明瞭な発赤、疼痛を伴い、開口障害、発音障害や嚥下障害、リンパ節の腫脹・圧痛などがみられます。

また下顎前歯部、小臼歯部からは舌下隙やオトガイ下隙に炎症が波及しやすく、しばしば舌の運動障害を起こします。重篤な例で炎症が後方へ波及すると気道狭窄による呼吸障害を、下方へ波及すると頚部蜂窩織炎縦隔炎を起こすことがあります。

検査・診断

上記に挙げた症状の発症時期や経過、基礎疾患の有無や服薬内容を聴取し(問診)、外表面と口の中の状態(腫脹、発赤の程度、歯磨きができているかなど)、開口障害、舌の運動障害や嚥下障害の有無を確認します(視診)。また腫脹部位の熱感、圧痛、波動の有無、リンパ節の腫脹などを確認します(触診)。

血液検査で炎症の程度を把握します。白血球数、CRP(炎症の程度の指標となるタンパク)などの炎症性検査、関連する各種生化学検査などを行います。CRPが10以上(基準値:0.3以下)の場合は、重症感染症として入院加療とすることが望ましいです。

また画像検査で炎症の範囲と感染源を特定します。パノラマエックス線写真、デンタルエックス線写真、顔面・頚部のCT撮影などを用います。特にCT撮影は、炎症の範囲の特定に有用であり、気道狭窄の有無なども確認できます。また必要があれば胸部エックス線検査を行い、縦隔炎肺炎の有無を確認します。起炎菌の同定には細菌学的検査を実施します。
 

治療

重症感染症に対しては抗菌薬による薬物療法、手術療法が選択されます。細菌学的検査の結果に基づいて適応する抗菌薬を選択することが望ましいですが、一般的に細菌同定には時間を要します。そのためempiric therapy(経験的治療)に用いるものとして以下の口腔内細菌に感受性をもつ抗菌薬の点滴静注が推奨されています。

  • 中等度例:ペニシリン系(SBT/ABPC)、セフェム系(CTRX)
  • 重症例:カルバペネム系(MEPM、DRPM)

抗菌薬投与とともに、穿刺吸引で蜂窩織炎の波及部位を特定し、切開排して消炎に努めます。急性炎症が寛解すると膿瘍形成する(膿が貯まる)ことがあるため、切開、ドレナージ(貯まった膿などを排出すること)を行います。治療の経過をみながら炎症の再燃を予防するために原因歯を治療しておきます。

また開口障害や嚥下障害などのため脱水や低栄養状態にあると全身や局所の抵抗力が低下し、治癒不全や遅延の原因になり得ます。血液検査等で栄養状態を確認し、点滴による補液や栄養補給に十分配慮します。
 

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