口から食べたり飲んだりすることに障害が起きる摂食嚥下障害(せっしょくえんげしょうがい)は、加齢とともに増加する傾向にあります。自立した生活を送るために不可欠な「食べる・飲む」という機能を維持・改善するには、どのような方法があるのでしょうか。東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 老化制御学系口腔老化制御学講座 高齢者歯科学分野 准教授の戸原玄先生に摂食嚥下のリハビリテーションや治療についてお話をうかがいました。
これは、悪い条件があればそれを取り除くということです。たとえば、朝起きてまだ目が完全に覚めていない時に食べさせているのであれば、しっかりと目が覚めているときに食べさせてあげるといった、当たり前ですが「ちょっとしたこと」が大切なのです。
まず環境を整えて、うまくいかなければ工夫をします。それでだめなら次に訓練、もしくは治療というのがおおまかな流れです。治療には薬による治療のほか、歯科治療も含まれますし、さらにいえば嚥下改善術といって手術による治療もあります。しかし、手術まで必要な方は非常に少ないです。
車いすの方はフットレストに足を乗せていると少し後ろにのけぞるような姿勢になりますので、車いすのまま食事をするときには足をフットレストから下ろすだけで食べやすくなるということもあります。
また、猫背の方はどうしてもあごを前に突き出すような形になり、嚥下に大きく関わる舌骨上筋(ぜっこつじょうきん)が伸びきった状態になります。そうすると胸からお腹にかけて詰まったようになり、食べたものが胃に送られにくいということもありますので、背筋を伸ばして正しい姿勢で食事をすることが大事です。
飲み込む反射が遅い方の場合、口の中から喉に食べ物が入って行く時に反射が間に合わないため、むせるということがあります。そういった場合には食べ物にトロミをつけると嚥下がよくなることがあります。ただし、ミキサー食にまで形状を変えてしまうと食べる楽しみはかなり損なわれてしまいます。
日本では嚥下食(えんげしょく・摂食嚥下障害のある方のための嚥下しやすい食事)としてゼリーが一番良いという考えが一般的ですが、必ずしもすべての方にとってそれが一番良いというわけではありません。
ゼリーとトロミのどちらかであれば、私はトロミのほうが良いと考えます。最も状態が悪い方に合わせた対応からスタートするのではなく、そこまで悪くない方に対しては、普通食に近いところから始めることを考えていくべきです。
しかし現実には入院中の患者さんに対しては、最も悪い状態の方への対応に合わせてしまい、そのまま退院させてしまうというケースが多くみられます。
ゼリー食やミキサー食の問題として、ゼリーの場合は作っていったん冷ますなど、用意するのにかなりの時間と手間が必要です。また、ミキサーにかけるためには水分を足さなければならないので、総量として食事のかさが増えてしまうということもあります。
ですから普通の食事に戻し、量を絞ってもいいので必要な栄養を摂る方を勧めたいと考えています。
嚥下をするときにはのどぼとけが上下に動きますが、これは「のどぼとけ」と「あご」の間をつないでいる筋肉によるものです。飲むときにはあごの方(上方向)へ動きますが、口を開けるときは下げるというように同じ筋肉を使っています。
この筋肉を最大に収縮させるためには、最大に口を開ければよいということになります。最大に口を開け、なおかつその状態をキープするという一種の筋力トレーニングによって、嚥下機能に改善が見られる方は少なくありません。
何もしなければのどぼとけの位置は年齢とともに下がってきます。これには明らかに男女差があり、男性の方が多く下がります。「ごくっ」と飲む動作をするときにはのどぼとけが大きく持ち上がりますが、のどぼとけがあごよりもむしろ胸骨のほうに近いというぐらいまで下がると、のどぼとけを大幅に持ち上げないと飲みこめないということになり、かなり嚥下が悪くなります。
嚥下機能を低下させないためには、何か特別な訓練が必要だと思われるかもしれませんが、私はカラオケをおすすめしています。大きく口を開けて声を出すことは摂食嚥下障害を予防する上で非常に有効です。
開口力トレーナー で口を開く力を実際に測定することができます。我々は患者さんにどの程度口を開ける力があるのかを調べるときや、嚥下機能改善の訓練として最大限に口を開けるという動作を行う時にもこの器具を活用しています。
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授、東京科学大学病院 摂食嚥下リハビリテーション科 科長
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授、東京科学大学病院 摂食嚥下リハビリテーション科 科長
日本摂食嚥下リハビリテーション学会 認定士日本老年歯科医学会 認定医・老年歯科専門医・指導医・摂食機能療法専門歯科医師
高齢者を中心とする摂食嚥下障害の治療、リハビリテーションに取り組み、往診による在宅診療や地域連携を積極的に行っている。厚生労働科学研究委託費長寿・障害総合研究事業“高齢者の摂食嚥下・栄養に関する地域包括的ケアについての研究”の業務主任者を務めている。ウェブサイト“摂食嚥下関連医療資源マップ”やその他のインターネットメディア・講演活動などを通して、摂食嚥下障害に関する情報発信も行っている。
戸原 玄 先生の所属医療機関
関連の医療相談が10件あります
8歳の子どもに行うオルソケラトロジーについて
近視の為、眼科でオルソケラトロジーを勧められています。行っても視力は現状維持で、良くはならないと説明を受けました。費用も高額で、毎晩親が装着し、朝は外すという事を続けなければならず、試しにつけた際、痛がったこともあり、やるべきかどうか悩んでいます。何もせず、そのままにしておけばもっと悪くなる恐れがありますし、近視は将来別の病気のリスクが高くなると言いますので、高い費用を払って、毎日の手間をかけてでもせめて現状維持し、将来のリスクを少しでも回避できるよう、やるべきとも思いますが、オルソケラトロジーの眼への悪影響もわからず不安なこともあり、悩んでいます。また、行うとなった場合、最近は行っている病院も増えており、その中から実績があり、信頼のおける病院を探す方法がわからず、そちらも合わせてご教示いただきたく、どうぞ宜しくお願い致します。
鼻炎で鼻汁が気管に下りて痰になり咳が出る
子どもの頃に副鼻腔炎を患ったことがあり、その影響が多分あるのだろうと思いますが、風邪を引くと鼻炎になりやすく、ひどくなると鼻汁が黄色みを帯びてきます。今月になって風邪で発熱し、熱が治った20日位前から、鼻汁が気管に下りてきて痰ができ、それを出すために咳が続いています。今回は鼻汁の色は無色透明です。咳は夜間にひどく出ます。 現在、漢方薬の麦門冬を服用していますが、このまま続けて快方を期待した方が良いでしょうか? また、他に何か効能のある薬やサプリ、食べ物とかを紹介していただけるとありがたいです。
転々と関節炎になる。
11/28に股関節炎(水が溜まっていた)の診断で、2週間の入院を経て、自宅で治療してます。入院した病院から紹介状を頂き、リウマチ科を受診しましたが、検査を2度実施してますが、正式な病名が不明です。関節の違和感や痛み、指先の痺れは継続してます。処方された薬はステロイド系の物、ロキソニン、胃薬です。この状況を察して、どんな病気が考えられますか? リウマチ科の先生は、血管炎とも言ってましたが検査後い特に断言しませんでした。
憩室炎、通院治療の際の推奨される食事内容と別の食事の質問
5日前の夜に右下腹部の違和感があり、4日前から痛みが出ている状況です。 同じような症状は3ヶ月ほど前にもありその際は抗生物質で治った経験があります。 3日前に内科受診、抗生物質を処方される(最寄りの消化器内科が休みのため内科受診) 2日前の夜に痛みがかなり増す。 昨日の朝に痛みがピークになったため消化器内科受診。そこで点滴治療を受けたのと外科の紹介状を書いてもらう。 本日外科を受診して検査の結果、憩室炎と言われました。 入院を強く勧められましたが通院治療を選択しております。 点滴治療を昨日から受けており今後も(少なくとも明日以降3日間も)毎日通院で受ける予定です。 前置きが長くなりましたが、このような状況で推奨される食事内容はどういったものでしょうか? また別の質問で、痛みがかなり酷くなった2日前の昼にバイキングで普段より食べすぎていたのですが、これは痛みが酷くなったのと関係ありますでしょうか? 以上となりますがよろしくお願いいたします。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「嚥下障害」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。