子どもが何らかの怪我をすることは頻繁に見られます。擦過傷、切り傷、骨折、打撲、やけどなど怪我の種類も様々なものがあります。しかし、家で経過観察をすれば自然治癒するのか、急いで受診すべき緊急事態なのか判断がつかない場合もあるでしょう。今回は、子どもが怪我をしたとき最初に見るべき注意点について、年間約38,000件の小児救急診療を行っている東京都立小児総合医療センター 救命集中治療部救命救急科の萩原佑亮先生にお伺いしました。
怪我をした状況に関わらず下記の場合はすぐに病院を受診しましょう。救急車を要請して構いません。
救急隊が到着したら、怪我をした子どもを動かしても問題ないかを含め、救急隊員の指示に従ってください。
怪我を負った子どもをその場から移動させるか否かは難しい判断です。例えば、交通量の多い道路にいるときなど身の安全が確保できない場所であれば、さらなる怪我を防ぐためにも安全な場所へ移動させる必要があります。
しかし、首の骨など命にかかわる部分に損傷がある場合や、太い血管が傷ついている場合は、体を動かすことでかえって損傷が悪化したり、出血量が増加したりすることがあります。移動しても良いかを判断することは容易ではありませんが、その場にいることが明らかに危険な場合には、なるべく体を動かさないように固定しながら危険な場所から移動するほうが良いこともあります。どうすればよいか判断がつかない場合は、救急車を呼び、救急コールセンターの指示や、駆け付けた救急隊員の指示に従ってください。
まずは傷口を確認しましょう。軽度の擦過傷(擦り傷)ならば自宅で様子をみてよいですが、傷が深く、傷口が開いている場合は病院を受診することをお勧めします。また、傷口に砂利やガラスなどの異物が入り込んでいないかもチェックしましょう。
一般的にいわれる受診の目安は、出血が多い、骨折を疑う、動物に噛まれたなど多数ありますが、私は親御さんが「自分では対処できない」と思う傷であれば病院を受診してよいと考えています。一方、親御さんが「この程度の傷であれば自分が患部を洗うことで自然に治るだろう」と思う場合は、受診しなくても構いません。ただし、傷口が感染していないか、怪我の経過を注意深く観察してください。
最近は、傷の治りを良くする市販の傷用テープが販売され、多くの方が使用されています。しかし、汚れた傷にテープを貼り続けたまま何日か放置してしまうと感染の可能性が高まります。テープを使用しても傷口が感染していないか、数日おきに観察することが必要です。
口や頭など血流が多い部位の傷は派手に出血しやすく、親御さんは驚かれるかもしれません。しかし、どのような場合でも基本的な対処法は圧迫止血です。患部を抑え続けても出血が止まらなければ病院を受診してください。
ちなみに、血流の多いところの傷は栄養が行き届くために、治りが良い場所です。医師としては血流が悪い部分の怪我のほうが治癒が難しく、心配になります。
怪我をしてしばらく経ってからは、傷が赤みをおびる、その部位だけに熱感がある、膿が出てくるなど、炎症を示す症状の有無に注意します。これらのような症状が現れてきた場合、一度病院を受診するほうが望ましいです。傷口に細菌が感染してしまっている可能性があるため、適切な処置が必要になります。
傷の処置では、「患部を清潔に洗い汚れや雑菌を落とす」「圧迫止血する」の2点が重要です。
洗う際は、水道水などの流水で構いません。強くこすると傷口をさらに傷めてしまうので注意しましょう。
※圧迫止血:傷口をタオルやガーゼなどで上から抑えて、血を止めること
消毒液の使用については様々な意見がありますが、東京都立小児総合医療センターでは、救急外来で診るほとんどの傷に対して「消毒薬は基本的に不要」とお話ししています。ほとんどの傷は水道水による洗浄で十分な効果が得られるためです。もちろん、重度の傷で手術室での処置が必要な場合や汚染が強い場合などには、消毒液を使うこともあります。
また、治療のためには傷をなるべく乾かさないようにします。
(湿潤療法、応急処置の詳細については記事3『子どもの傷に対する家庭での処置方法』、記事4『子どもの怪我と傷 ―怪我の傷跡を残さないためには?』もご覧ください)
下記の二点は医師がしっかりと確認する必要があります。
4種混合ワクチンは、破傷風(はしょうふう)という細菌感染症を予防できる効果があります。破傷風菌は傷口から入り混み、いったん発症すると重篤な感染症です。4種混合ワクチンをしっかりと接種していれば、破傷風に感染するリスクは減少します。
加えて、どのような場所で怪我をしたのかも重要な情報です。たとえば、フローリング状の清潔な床の上と土の上とでは、破傷風に限らず傷口からの感染を起こすリスクが異なります。
また、子どもが基礎疾患をもっている場合は医師に伝えてください。具体的には「心臓病の治療で止血しにくくなる薬を飲んでいる」「骨が折れやすい病気(骨系統疾患など)である」などが考えられます。
子どもが怪我をするのは成長・発達のうえで自然なことであり、全く怪我をしない子どもはいません。
我が子が怪我をしたときに親御さんが不安になってしまう気持ちももっともなことです。ただ、親御さんがあまりに不安になりすぎると、子どもは自分が悪いことをしたと感じて、罪悪感を持ってしまうことがあります。子どものためにも、親御さんが冷静になり、落ち着いて判断・処置することが大事だと思います。
「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。
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