大動脈瘤とは、心臓から直接伸び、人の体でもっとも太い血管である大動脈の一部がこぶのように膨らむ病気です。無症状であることが多い病気で、ある日突然破裂し、命を落とすこともあります。高齢者がかかることが多い病気で、高齢化とともに患者数も増えているといわれています。
大動脈瘤の治療法はさまざまな種類がありますが、根治を目指す場合に中心的な治療となるものが外科手術です。それでは、どのような大動脈瘤で手術が必要となり、どのような治療が行われるのでしょうか。
大動脈瘤の治療には大きく分けて内科治療、外科手術、ステントグラフト治療(ステントグラフト内挿術)の3つがあります。
このうち、内科治療は大動脈瘤破裂を防ぐことを目的としており、根本治療にはなりません。ステントグラフト治療は比較的新しく、体の負担が少ない治療ですが、治療後の経過によっては再治療が必要になることもあります。
手術は大動脈瘤の根治療法として以前から行われてきた方法で、さまざまな術式があります。一般的に成功率は高い治療ですが、体の負担が大きく、重大な合併症のリスクもゼロではないため、状況に応じてどの治療を行うかが決められます。
大動脈瘤は破裂すると出血性ショックで死に至る可能性がある病気であるため、破裂の危険性の高さによって手術の必要性が検討されます。
こぶの破裂時期を正確に予測することは難しいですが、こぶの大きさ、拡張の速度、形状などから総合的に判断されます。特に、こぶの大きさは目安の1つとしやすく、胸部大動脈瘤で55~60 mm、腹部大動脈瘤で45~50 mmを超えると、手術をすすめられることが多くなります。
その一方で、大きさの目安を超えていたとしても、手術のリスクが高いと判断されれば手術ができないこともあります。手術のリスクが高くなる因子としては、高齢(80歳以上)、呼吸機能、心機能、肝・腎機能の低下、大動脈の再治療、開腹手術歴などがあります。
また、大動脈瘤破裂や大動脈解離を起こしており、緊急手術が必要な場合も多々あります。
大動脈瘤の治療で行われる手術は、人工血管置換術と呼ばれるものです。体を切開して大動脈瘤に到達し、こぶの部分をポリエステル繊維や樹脂などで作られた人工血管に置き換えます。手術用の糸でしっかりと固定するため、手術後にずれる心配がありません。
また、胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤では手術の方針は同じであるものの、手術の方法が少し異なります。
胸部大動脈瘤の手術では、心臓に近い血管に手術を行う必要があるため、人工心肺装置と呼ばれる器械を使用して、心臓を停止させる体外循環と呼ばれる方法を行います。
また、胸部大動脈瘤の中でも弓部大動脈瘤と呼ばれる大動脈瘤の治療を行う場合は、脳血流に影響を及ぼす場合があることから、脳血流を保護するための方法をとる必要があります。
このような血流を確保するための方法は日々改良されており、手術成績は大きく向上しているものの、合併症のリスクを否定することはできません。そのため、患者の状態によってはステントグラフト治療など、より体の負担が少ない治療が優先されることもあります。
腹部大動脈瘤の手術では、人工心肺のような体外循環は使用されません。脳への影響は少ないものの、消化管などの血流が障害されることもあるため、注意が必要です。大動脈瘤が到達しやすい場合であれば少ない切開範囲で治療ができることもありますが、体の奥にある場合などは、開腹手術が必要になります。
人工血管置換術は大動脈瘤の標準的な治療で長い歴史があり、手術後の経過や起こりうる合併症などについてはデータの蓄積があります。開胸・開腹や血流遮断、体外循環の使用など体の負担が小さくない手術ですが、さまざまな改良が加えられたため、徐々に安全性が高まりつつあります。
人工血管置換術を行えば、大動脈瘤は人工血管に置き換えられることによってなくなります。また人工血管の耐久期間は20年以上といわれているので、追加の治療が必要になることはほとんどありません。しかし、手術の影響でさまざまな合併症を起こしたり、日常生活や生活の質(QOL)に影響したりすることも否定はできません。
ステントグラフトとは、ステントといわれるバネ状の金属を取り付けた新型の人工血管のことです。ステントグラフト治療では人工血管置換術と異なり、開胸・開腹せずに足の付け根の血管からカテーテルと呼ばれる細い管を入れ、ステントを取り付けます。ステントは、ターゲットとなる動脈瘤の内側に金属のバネの力によって固定され、瘤への血流を遮断します。これを血管内に留置することにより、動脈瘤の破裂を予防する効果が期待できます。
ステントグラフト治療は開胸・開腹する必要がなく、血流を遮断する必要もないので体外循環も必要ありません。そのため、体の負担の小さい手術となっており、高齢者や全身状態の悪い人、合併症をお持ちの人など、いわゆるハイリスクといわれる人への適応が期待されます。
ただし、ステントグラフト内挿術は全ての動脈瘤に行うことができるわけではなく、瘤の部位、形態、動脈壁の性状などを細かく検討する必要があります。
ステントグラフト治療は人工血管置換術と比較すると、開胸・開腹などの必要がなく患者にかかる負担が少ないため、日常生活の動作や生活の質を損なう確率が低いといわれています。ただし、ステントグラフト内挿術では人工血管置換術と違って瘤が完全に取り除かれるわけではないので、治療後に定期的に検査を受け、瘤が大きくなっていないか、血液の漏れ(エンドリーク)がないか、ステントグラフトに移動・閉塞・破損などが生じていないかを観察する必要があります。経過観察はCT検査などによって行われ、術後1か月、6か月、12か月、その後は年1回を10年間継続することが一般的です。経過観察で瘤の拡大が認められる場合には、ステントグラフトを追加するなどカテーテルで治療することが検討されるほか、ときに人工血管置換術を行わなければならないこともあります。
大動脈瘤の外科手術やステントグラフト治療は広く行われている治療の1つであり、大きな合併症がなければ運動制限なども必要なく、これまでどおりの生活を送ることが期待できます。
ただし、大動脈瘤のリスクとなる生活習慣を改善しなかった場合、手術しなかった部位で再び大動脈瘤ができる場合もあるため、血圧の管理を中心とした日常生活上の注意が必要です。
大動脈瘤の手術は大動脈瘤を根治させるためには重要な治療であり、破裂する前の大動脈瘤の手術成績は一般的に良好です。
その一方で、体の負担が大きい治療であるため、メリットとデメリットについて主治医とよく話し合ったうえで、どのような治療を選ぶか考えることが重要です。
大阪急性期・総合医療センター 心臓血管外科 主任部長
白川 幸俊 先生の所属医療機関
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