概要
後天性血友病とは、出血を止めるための重要なはたらきを担う血液中の“凝固第VIII因子”に対して、何らかの原因によってそれを攻撃する“自己抗体”が形成され、出血しやすくなる病気のことです。
ヒトの血液中には血液を固めるたんぱく質である凝固因子(第Ⅰ~XIII因子)があり、遺伝子の変異によって生まれつき第VIII因子あるいは第IX因子が欠乏している病気を“血友病”と呼びます。第VIII因子の欠乏が生じているものを“血友病A”、第IX因子の欠乏が生じているものを“血友病B”と呼びます。
この病気は第VIII因子に対する自己抗体によって第VIII因子が減少することが原因ですので、正確な名前は“後天性血友病A”になりますが、凝固因子に対する自己抗体の大部分は第VIII因子に対する抗体であり、第IX因子に対する自己抗体が生じることはほぼないため、Aを付けずに“後天性血友病”と呼ばれることもあります。
後天性血友病は突然の重篤な出血が生じることで発見されることが多く、発症率は100万人に1人程度と、極めてまれな病気であると考えられてきました。しかし、正確な診断がなされていないだけで、実際に発病している人はもっと多いと予想されています。また、後天性血友病は加齢が発症の引き金になることが分かっており、高齢化が進む現代において、さらに患者数は増えていくことも考えられます。
原因
後天性血友病は、 “第VIII因子”を攻撃する自己抗体が形成されることによって発症します。
どのようなメカニズムで凝固因子に対する自己抗体が形成されるかは、まだ解明されていません。しかし、加齢が大きな要因のひとつであることが分かっています。また、自己免疫疾患である関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)、シェーグレン症候群、がん、糖尿病、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患にかかっている人、種々のウイルスに感染している人に発症しやすいことも分かっており、これらの疾患と発症に何らかの関連があると考えられています。
また、妊娠や出産を機に発症するケースも目立ち、後天性血友病の2~15%を占めるとの報告もあります。
症状
後天性血友病は、これまで目立った出血症状がなく、親や兄弟などの血縁者に出血しやすい病気の人がいないにもかかわらず、突然出血が止まりにくくなるのが特徴です。
症状としては、特に誘因なく、あるいは軽度な打撲で非常に大きなあざ(皮下出血)ができたり、筋肉が腫れて痛みが生じる筋肉内出血を発症したりするようになります。全身のいたるところにわずかな刺激で出血を生じる恐れがあるため、頭蓋内出血や胸腔内出血など命に関わる重篤な出血症状を引き起こすこともあり、命を落とすケースもあります。
検査・検診
後天性血友病が疑われる症状が現れた場合、次のような検査が行われます。
スクリーニング検査
後天性血友病では、血液の固まりやすさを評価する指標である活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT)、血小板数、出血時間などを第一に検査します。出血症状があり、これらの検査でAPTTのみの延長が見られるときは、後天性血友病が疑われ、以下の検査を実施します。
APTTクロスミキシング試験
APTTの延長が凝固因子の単純欠乏によるものか、凝固因子に対する抗体が原因かを調べるために、“APTTクロスミキシング試験”と呼ばれる検査を行うことがあります。この検査は、患者の血液と健康な人の血液を混ぜ合わせ、一定時間後にAPTTを測定する検査です。凝固因子が単純に欠乏しているだけの場合、APTTは正常化しますが、後天性血友病の原因である自己抗体によるものの場合、APTTは正常化しません。
凝固因子活性と凝固因子抗体の検出
APTTが延長し、APTTクロスミキシング試験の結果から、後天性血友病の可能性が高い場合は、第VIII因子活性と第VIII因子に対する抗体を測定し、第VIII因子活性の低下と第VIII因子抗体が検出されれば後天性血友病の確定診断をすることができます。
画像検査
後天性血友病自体の診断は血液検査のみで可能ですが、筋肉の腫れが強いとき、頭蓋内や胸腔内などに出血を生じていることが疑われるときは、CTやMRIによる画像検査が行われることがあります。
治療
後天性血友病の治療は、命に関わることもある出血を止める“止血治療”と、発症の根本的な原因である免疫の異常を改善する“免疫抑制療法”に分けられます。
止血治療
後天性血友病の全てのケースで止血治療が行われるわけではありませんが、出血が生じている場合は、第VIII因子以外の凝固因子を活性化して血液を固めるバイパス止血療法が行われます。
免疫抑制療法
後天性血友病は免疫反応が過剰に生じることによって発症するため、免疫反応を抑えるための免疫抑制療法を行うのが一般的です。多くはステロイド剤が用いられますが、重症な場合や、すでにほかの病気の治療でステロイド剤を使用している場合は、免疫抑制剤が併用されることも少なくありません。
この病気は妊娠や出産をきっかけに発症することも多く、特に妊娠中では一部の免疫抑制剤は避けたほうがよいとされているため注意が必要です。
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