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心不全とどう付き合うか――NTT東日本関東病院のチーム医療の特色

心不全とどう付き合うか――NTT東日本関東病院のチーム医療の特色
安東 治郎 先生

NTT東日本関東病院 循環器内科 部長

安東 治郎 先生

目次
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心臓は全身と肺に血液を送り出すポンプとして休みなくはたらいています。この心臓のはたらきが少しずつ悪くなる病気が“心不全”です。一度発症すると治療によって完治させることは難しく、生涯付き合っていく必要があります。できる限り悪化や再入院を防ぎ、よりよい生活を送るためどのような点に気を付ければよいのでしょうか。NTT東日本関東病院 循環器内科 部長の安東 治郎(あんどう じろう)先生に、同院における心不全に対する取り組みについて、詳しく話を伺いました。

心不全とは、虚血性心疾患などにより心臓の機能が低下し、全身に血液を送るポンプとしての役割が果たせなくなった状態です。心不全の原因には心臓弁膜症高血圧症不整脈心筋症などさまざまな心臓の病気がありますが、中でも多いのが虚血性心疾患です。

心不全を発症すると回復と悪化を繰り返しながら進行し、身体機能が落ちていきます。急性増悪(きゅうせいぞうあく)を防ぎ、速やかに処置をすることは病状の安定や病気との共存に不可欠です。

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写真:PIXTA

日本全体の心不全の患者数は、2020年の時点で約120万人に達していると推計されています。加齢とともに高血圧症や糖尿病、不整脈の方が増えること、また年齢が上がるほど虚血性心疾患の患者さんが多くなることを考えると、社会の高齢化に伴い心不全の罹患率は上昇するといえるでしょう。実際に心不全を発症した人の割合は、50歳代では1%であるのに対し80歳代では10%と報告されています。高齢化が進むことで、今後も心不全の患者さんの数は増加すると考えられます。

心不全を発症すると心臓のポンプ機能が低下し、体全体の血液循環が悪くなります。その結果、低心拍出とうっ血が起こり、さまざまな臓器に影響が出ます。

低心拍出の症状には、血圧の低下、倦怠感、疲れやすさなどがあります。これは心臓が全身に血液を送り出せないことにより起こるものです。

うっ血の症状には、息苦しさや足のむくみ、体重の増加などがあります。また足がむくむのと同様に腸管もむくむため、腸の動きが悪くなり食欲不振や吐き気などの症状が現れることもあります。これらの症状は全身から心臓へ血液の戻りが悪くなり体に水がたまることにより起こります。

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心不全の進行

心不全は、上記表のようにステージA〜Dの順に進行します。ステージAとBの時点ではまだ心不全の症状はありません。心臓の病気があるかどうかもはっきりしておらず、高血圧症糖尿病などの虚血性心疾患の危険因子がベースとなり動脈硬化が起こってはいるものの、心不全は起こしていない状態です。ステージBは心電図の変化などがみられ、心不全の症状は現れていないものの心不全に近い状態になっていることもあります。この段階で命に関わることはほとんどありませんが、放っておくと急に心不全を発症し、途端に身体機能が落ちていきます。

一度心不全を発症すると、回復と悪化を繰り返しながら少しずつ波打つように進行し、低下した身体機能を元に戻すことが極めて困難になります。そのため、心不全の症状が現れる前から治療をはじめることが非常に重要なのです。

心不全の治療は予防と症状コントロールが鍵となります。心不全は治療による完治が難しいとされる病気です。重症化するとがんと比べても5年生存率が低く、実際にはがんよりも予後が悪いといわれています。心不全を発症すると健康寿命がどんどん短くなってしまうため、急性増悪をできるだけ食い止めることが重要です。また心不全が悪化し入院を繰り返すと、たとえ症状は改善されても入院するたびに心臓のポンプ機能は低下していきます。そのため、心不全悪化による再入院を防ぐことも大切となります。

ステージA、Bの心不全発症前であれば、食塩や水分の過剰摂取、体への負担やストレス、薬の飲み忘れなど、心不全の発症につながる生活習慣に注意することが大切です。また、心不全につながりやすい基礎疾患がある方は血圧や血糖値を管理して治療します。

心不全の症状が現れるステージCでは、症状のコントロールと、再入院と突然死の予防が治療目標となります。ステージA、Bと同様に塩分制限や運動療法などの生活習慣の改善が推奨され、心不全に対する薬物療法が行われます。また、症例に応じてさまざまな手術療法も検討されます。

一方、心不全の再増悪により入退院を繰り返すステージDは難治性の末期心不全であり、薬物療法や手術療法に治療抵抗性であることも多く、適応がある場合には心臓移植も検討されます。また、緩和ケアやターミナルケアなどの、痛みやそのほかの身体的、心理的問題を緩和するためのケアが必要となります。

心不全の治療は個々の患者さんの状態に応じて異なるため、担当医とよく相談しながら患者さんに適した治療法を選択することが重要です。

再入院を回避するためには患者さん自身が心不全とうまく付き合い、 “してはいけないこと”“すべきこと”を守り、悪化にいち早く気付いて受診できる力をつける必要があります。また、患者さんのご家族や医療従事者によるサポートも不可欠です。当院では2019年から多職種による“ハートケアチーム”を立ち上げ、積極的な治療から痛みや不快な症状を和らげるための治療まで、心不全患者さんを一貫してケアできる体制を整えています。

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ハートノート

当院では“ハートノート”の普及に取り組んでいます。“ハートノート”とは、心不全について正しい知識を持ち、心不全での再入院を減らすための自己管理ツールです。患者さんが毎日の体重や血圧、脈拍、自覚症状に対して点数を付けて数値化することで、自分の病状を評価し、早期受診や緊急受診などの判断基準とすることができます。また、患者さんが自身の体調を積極的に把握することで、心不全の悪化を予防し再入院を回避できると期待されています。

心不全の治療は多岐にわたるため、循環器内科、心臓血管外科、緩和ケア科などの複数の診療科で連携して取り組むことが必要です。当院では医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床心理士*、ソーシャルワーカー、リハビリテーションスタッフなどの多職種が連携し、ハートケアチーム一丸となって患者さんの心と体を包括的にケアしています。

ハートケアチーム内には、教育、心臓リハビリテーション、療養支援、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)**の4つのチームがあり、患者さん一人ひとりの病状の変化に応じて細やかにサポートしています。

*臨床心理士:日本臨床心理士資格認定協会が認定する、心の問題に取り組む専門職。

**アドバンス・ケア・プランニング(ACP):将来の医療やケアについて、患者が家族や医療チームと事前に話し合い、自分の希望を明確にしておくプロセスのこと。特に終末期の治療やケアについての意思を確認し、尊重するために行われる。

教育

医師による“心不全教室”を病棟で定期的に開催し、心不全がどのような病気でどのような治療が必要かを患者さんに分かりやすくお伝えしています。塩分制限や水分摂取の方法、体重管理、服薬管理などについては管理栄養士や薬剤師が説明します。看護師は“ハートノート”の活用方法についての指導を行います。

心臓リハビリテーション

心不全の発症後も適度に体を動かすことは大切です。心不全を安定させるための運動の方法や悪化させないための体の動かし方を指導します。運動耐容能(体がどれくらいまでの運動に耐えられるかの能力)をしっかりと測定して数字化しているので、どれくらいまで運動してよいのかを患者さん自身が理解することができます。入院中はもちろん退院後も、理学療法士などが定期的にサポートを行います。

療養支援

心不全の患者さんが退院後も必要な医療やケアを受けられるよう、ソーシャルワーカーなどが中心となり療養支援を行います。重症の心不全の患者さんは掃除や洗濯など身の回りのことも含めて在宅時のケアが必要になることがあるため、ケアマネジャーなどに介護医療や在宅医療を進めてもらえるよう支援します。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは患者さんが生き方を考え、家族や医療従事者など信頼する方々と話し合い共有することをいい、 “人生会議”とも呼ばれます。主に看護師や臨床心理士がサポートします。患者さんが今現在や近い将来、どのような治療を受けるか、よりよく生きていくためにどうするかを考えておくことは大切です。たとえば重症で入院された患者さんに対して、自身の病状を正しく理解できるよう医療従事者が情報を提供し、最後は心肺蘇生を希望するのか・しないのかまで踏み込み、早い段階から共に生き方を考えていきます。

心不全を発症した患者さんの再入院を防ぎ、悪化のスピードを遅らせるための指導の一環としてもACPは重要です。患者さんが自己管理を積極的に行えるようになり、ご家族も早い段階から注意すべき点に気付き積極的に治療に関わることができるようになります。

心臓のポンプ機能が低下し、やがて生命を脅かす心不全は、悪化を防ぐために“どう付き合っていくのか”がポイントとなります。患者さんご自身の自己管理はもちろんのこと、関わる全ての方の協力が欠かせません。NTT東日本関東病院のハートケアチームは多職種で患者さんの心と体をケアし、心不全の患者さんやご家族にとって心強い味方になりたいと思います。

また、これからは患者さんと当院だけではなく、かかりつけ医や在宅医療のスタッフなどとも“ハートノート”を1つのツールとして共有できるようにして、地域全体で心不全に対するチーム医療を展開していきたいと考えています。

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