心房細動は、脳梗塞や心不全などの合併症が起こる前に治療を行うことが重要です。心房細動の治療にはどのようなものがあり、何を目的として行われるのでしょうか。今回は、心房細動の治療について、札幌心臓血管クリニックの北井 敬之先生にお話を伺いました。
心房細動はそれ自体が命の危険を脅かすものではない一方で、生活の質(QOL)を下げる症状が出たり、脳梗塞など命に関わる合併症が起こったりすることがあります。そのため、治療方針は、以下の観点を考慮して検討していく必要があります。
特に“心臓と脳を守る”ということは最優先事項だと考えています。とはいえ、心房細動の方が必ずしも心不全や脳梗塞になるわけではありません。たとえば心房細動の合併症としての脳梗塞は、なりやすい(リスクが高い)方の予測がある程度可能です。その予測に用いられる指標がチャッズ(CHADS2)スコアです。具体的には以下の5項目で予測されます。
当てはまる数が多ければ多いほど脳梗塞のリスクが高いとされ、これらの項目に1つでも当てはまる場合、脳梗塞を予防するための治療を開始する必要があると判断されます。
また、当院ではまずは患者さんに生活習慣の改善を指導するようにしています。たとえば、高血圧や糖尿病の方は血圧や血糖値管理の徹底、飲酒、喫煙習慣のある方は禁酒、禁煙もしくは量を抑えるといった指導のほか、日々のストレスをできるだけ少なくしていただいたり、睡眠時間を十分にとっていただいたりするというのが主な指導内容です。これらは心房細動を誘発する因子というだけでなく、合併症(脳梗塞)などのリスクも高めます。裏を返せば、こうした生活習慣の改善をするだけでも心房細動の悪化や脳梗塞のリスクを抑えることができるのです。
生活習慣の改善や血栓をできにくくする薬(抗凝固薬)の服用で、脳梗塞のリスクを抑えることを前提としたうえで、心房細動そのものを治療する方法として主に2つの選択肢があります。
心房細動の治療の選択肢として、“抗不整脈薬”の服用が挙げられます。これは、心房細動が起きている状態から正常なリズムに戻す、もしくは心房細動にならないように予防するための薬です。抗不整脈薬が有効な方がいる一方で、抗不整脈薬を服用することで徐脈(極端に脈が遅くなる状態)となり、ふらつきや失神などの症状が出る場合もあるため、注意が必要です。
また、このほかに心拍数を抑える薬を使用することもあります。この薬は、房室結節の機能を調整して電気信号を通しにくくすることで、心拍数を抑えます。これにより、動悸などの症状は軽減されます。
カテーテルアブレーション治療は、心房細動の根治療法です。アブレーションとは“切除”という意味で、カテーテルアブレーション治療ではカテーテルといわれる医療用の細い管を体内に入れ、その先から高周波の電流を流してカテーテルに接している組織を焼灼します。
『心房細動とは——メカニズムや原因について』のページでも解説したとおり、心房細動は洞結節以外の部位から異常な電気信号が発せられることによって引き起こされます。そのため、心房細動のカテーテルアブレーション治療の目的は異常な電気信号を発している部位を焼き切ることです。
当院では全身麻酔下でこの治療を行っており、治療中の痛みはありません。術後、カテーテルを挿入する際に切開した脚の付け根の傷が数日間痛むこともありますが、比較的体の負担は少ない治療です。また、当院でこの治療を実施する場合には、3泊4日の入院を基本としていますが、個別の事情などで難しい場合には1泊2日で対応することもあります。ただし、患者さんには体を休めることも治療の一環であるということをお伝えして、できる限りゆっくりと過ごしていただくようにしています。
治療の際は、数時間にわたって心臓の中にカテーテルを挿入するため、0.1~0.3%程度の方に脳梗塞、1.2~2.5%程度の心タンポナーデといった合併症が起こるリスクもあります。当院では万が一そうした状況になった場合でもすぐに対応できるよう、心臓血管外科と連携をとって治療にあたっています。また、カテーテルアブレーション治療を行っても心房細動が再発する場合があります。その原因としては、異常な電気信号の発信源がほかにもあった場合や発信源の心筋組織を焼き切れていなかった場合などが挙げられます。再発した場合には、再度カテーテルアブレーション治療を行うことも可能です。
当院では、その患者さんにとってどの選択をすれば一番メリットが大きくなるかという点はもちろん、患者さんご自身の意思も大切にしています。カテーテルアブレーション治療を受けるか否か非常に迷われる患者さんもいらっしゃいます。そうしたなかで、カテーテルアブレーション治療を受けると決めた方に対しては、できるだけ2週間以内に治療を実施するようにしています。もちろん、仕事など患者さんの都合であれば決断から1か月後に行うこともありますが、都合がつく方に関してはなるべく早めに治療を行い、困っている症状を早期に取り除けるよう努めています。
健康診断などで不整脈を指摘されて不安を感じている方や、動悸などの症状がありながらも我慢をしている方、症状が出るのが不安で外出を控えるようになった方など、さまざまな方がいると思います。患者さん一人ひとりの生活や状態、考え方などによって選択する治療は変わっていきます。どのような治療をすればよりよい生活をしていけるのか、患者さんと一緒に不整脈に向き合っていきたいと考えています。不整脈は「起きてもしょうがない」などと決して治療を諦める必要はありません。不安なことがある場合にはぜひご相談ください。
医療法人札幌ハートセンター札幌心臓血管クリニック 循環器内科
北井 敬之 先生の所属医療機関
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