周産期である分娩前1か月から分娩後5か月の期間に、心臓病の既往歴(過去の病歴)のない方が、心不全を発症することを周産期心筋症といいます。発症の原因はまだはっきりとは解明されていません。しかし、特定のホルモンの増加や遺伝子、年齢などが関係するといわれています。
今回は、周産期心筋症の概要から、発症の要因とされるものや症状について、国立循環器病研究センター周産期・婦人科部 部長の吉松淳先生にお話しをうかがいました。
周産期心筋症とは、周産期*である分娩前1か月から分娩後5か月以内に、今まで心臓にまったく問題になかった患者さんが、心臓の収縮する機能が急激に低下し心不全の症状を発症する疾患です。
以前までは、分娩後に発症する疾患として、産褥(さんじょく)心筋症といわれていました。しかし、患者さんの3割ほどは妊娠中に心筋症を発症することから、2017年現在は周産期心筋症といわれています。発症時期のピークは、分娩後1週間です。
周産期…妊娠から出産をし、母体が元の状態にもどるまでの期間。
周産期心筋症の日本での発症頻度は、2009年の時点で約2万人に1人の発症率となっています。周産期心筋症の発症頻度は、人種によって異なっており、欧米と比較すると日本は若干少ない割合です。
周産期心筋症の年ごとの患者数の推移ははっきりとはわかりません。しかし、妊婦の高齢化や、医療機関側の周産期心筋症という疾患の認知度が上昇したため、周産期心筋症という診断を受ける患者さんは増加したと思われます。
また、日本での周産期心筋症を発症した患者さんの平均年齢は35歳です。比較的年齢の高い方の方が多く発症する傾向にあります。
周産期心筋症の原因はまだはっきりとはわかっていません。しかし、周産期心筋症を発症しやすい方は、以下のような素因が関係しているといわれています。
周産期心筋症の患者さんの約4割は、妊娠高血圧症候群*という疾患を先行して発症されています。妊娠高血圧症候群がどうして周産期心筋症と関係しているのかははっきりとわかっていませんが、母乳分泌のために母体体内でたくさん作られているプロラクチンというホルモンの異常や、胎盤から分泌される血管を障害する物質が、この二つの病気に共通した因子ではないかとの報告があります。
妊娠高血圧症候群…妊娠20週以降、産後12週の間に高血圧を発症すること。
周産期心筋症の患者さんの約2割は、拡張型心筋症*の原因遺伝子を持っていることがわかっています。そのため、ご家族のなかで、周産期心筋症や心筋症を発症したことのある方がいる場合、周産期心筋症の発症に留意する必要があります。
拡張型心筋症…心臓の筋肉の細胞が進行性に障害され、心機能が低下し、心臓が拡張される疾患。
周産期心筋症を発症する患者さんは、比較的年齢の高い方や、双子や三つ子といった多胎妊娠の方の割合が多くなっています。
また、肥満体形がリスクになると考える方も多いと思いますが、周産期心筋症との直接的な関係はないと考えてよいでしょう。しかし、妊娠高血圧症候群の患者さんは、妊娠前に肥満体形であった方の発症率が高くなります。そのため、妊娠高血圧症候群の患者さんが周産期心筋症を発症しやすいというところまでさかのぼると、間接的な関係は多少あると考えられます。
周産期心筋症の症状は、一般的な心不全の症状ですが、健常妊産婦が感じる症状と似ています。そのため、正常な妊娠経過による症状か、心不全による症状か、判断が難しく、心不全の診断が遅れる場合も多いです。妊娠中、または出産後に以下のような症状が発生し、どんどん悪くなる場合は、早めに医療機関を受診してください。
実際に患者さんが異変を感じ、医療機関へ相談を受けるきっかけとなる最も大きな症状は息切れです。普段では息切れをすることのないような軽い運動でも息切れを起こします。
就寝中に咳が出たりするようになります。
心臓の機能が低下すると腎臓の働きも悪くなります。そのため、腎臓からの水分排出が上手くできなくなり、体のなかに水分が溜まります。その結果、全身に浮腫(むくみ)が生じ、急激に体重が増加するといった症状が現れます。
疲れやすくなり、体がだるいといった倦怠感が現れます。
記事2『周産期心筋症の治療と予後 2人目の妊娠は医師との相談が重要』では、周産期心筋症の検査や治療、周産期心筋症の既往歴がある患者さんが次に妊娠をする際のリスクや注意事項について、詳しくご説明いたします。
国立循環器病研究センター病院 周産期・婦人科部 部長
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