何らかの原因で血液に入り込んだ菌が心臓に到達し、心臓内で増殖して組織を破壊していく病気を感染性心内膜炎といいます。感染性心内膜炎は発症率が高い病気ではありませんが、引き起こす合併症には重篤なものもあるため、診断後には速やかに適切な治療を進める必要があります。
今回は、国立国際医療研究センター病院の宝来 哲也先生に感染性心内膜炎がどのように発生するのかといったメカニズムや原因、病気の症状などについてお話を伺います。
感染性心内膜炎は、心臓内で感染が起こる敗血症性の病気です。敗血症とは、細菌やウイルスなどによって感染症にかかり、それに対して体の抵抗力が耐えきれずに臓器の機能障害などを引き起こした病態を指します。感染性心内膜炎は真菌(カビ)やウイルスが原因となる場合もまれにありますが、基本的には細菌が原因となることが多いです。心臓の中に入り込んだ細菌が増殖して疣贅といわれるいぼを形成して血管を塞いだり、増殖した細菌が心臓の弁などを破壊したりすることによって体にさまざまな影響を及ぼします。感染性心内膜炎の原因となる細菌は多様で、子どもの咽頭感染症の原因の1つである溶連菌(溶血性連鎖球菌)や食中毒の原因にもなるブドウ球菌、人間の腸内に常在している菌の腸球菌などが挙げられます。
感染性心内膜炎の根底には、心臓以外の部位の何らかの感染が血液の中にも及ぶ(菌血症)という原因があります。菌血症を起こす感染症は誰でもかかり得るため、菌血症の結果として起こる感染性心内膜炎も、年齢や性別を問わずどのような方でも発症する可能性があるといえます。そのため、好発年齢や男女比などがはっきりしている病気ではありません。
感染性心内膜炎の主な症状としては発熱や倦怠感が挙げられ、特に発熱においては、感染性心内膜炎の症例のうち約90%に認められるといわれています。38℃以上の発熱が診断の目安の1つとなっていますが、抗菌薬や抗炎症薬を服用した場合には、発熱が38℃未満となり、診断が難しくなるケースもあります。発熱のほかに挙げられる症状は、寒気やふるえ、食欲不振や体重減少です。これらの症状はいずれも体内で炎症が起きていることが原因といえます。
感染性心内膜炎の経過はさまざまで、感染性心内膜炎によって心不全が急激に悪化する場合もあれば、感染性心内膜炎が慢性化する場合もあります。慢性化した場合には、発熱の程度は軽く、心不全症状も軽いことが一般的です。感染性心内膜炎と心不全の関連性については次ページで詳しく解説します。こうした多様な経過は、感染性心内膜炎の感染原因となる菌(原因菌)の違いが関係しているともいわれています。
本来、体内に入った細菌やウイルスは免疫によって排除されます。しかし、体内にある人工物は体にとっては従来あるはずのない“異物”ともいえ、異物の部分には直接的に免疫がはたらきかけることができません。つまり、人工物についた菌はなかなか排除することができずに感染に至ってしまうため、人工物が心臓内に入っている方は感染性心内膜炎を発症するリスクが高いといえるのです。
心室中隔欠損症のような先天的な心臓の異常がある方や、心臓弁膜症など弁に異常のある方も感染性心内膜炎の発症リスクが高いとされています。こうした病気を持つ方々は、形態の異常や血液の逆流などによって“異常ジェット血流”といわれるような状態が心臓内で発生します。そのジェット血流によって心臓の弁や心内膜が傷つけられ、弱った部位から感染が広がりやすくなっているのです。
透析治療では、週に数回、体内の血液を外に出して機械に通し、再度血液を体内に入れて循環させるということを行っています。そのため、透析治療を受けている患者さんは通常よりも血液内に菌が入り込むリスクが高いため、感染性心内膜炎のリスクも高まります。
このほか歯の治療やカテーテル検査、外科手術、腹腔鏡下手術といった侵襲的な医療的介入がきっかけで感染性心内膜炎を発症するケースもあります。そのため、感染性心内膜炎のリスクが高いケースでは、歯科治療や手術治療に際して事前に抗菌薬が投与されるなど、リスクをふまえた対応がなされることが多いです。
このように、感染性心内膜炎はさまざまな原因によって引き起こされますが、その一方で細菌などがどのようにして心臓内に入り込んだか、原因が分からないケースも多くあります。そのため、感染性心内膜炎の予防を意識しながら生活することは難しいといえるでしょう。ただ、感染性心内膜炎は未治療のまま放置することで、命に関わる危険性もあります。こうしたことから、感染性心内膜炎においては早期診断と治療のタイミングが非常に重要です。次ページでは、感染性心内膜炎が引き起こす合併症や、診断のために必要となる検査などについて解説します。
国立国際医療研究センター 心臓血管外科 元科長・非常勤、北里大学医学部 診療准教授
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