感染性心内膜炎は誰にでもかかる可能性があるうえ、予防は難しい病気であると宝来 哲也先生はおっしゃいます。一方で、未治療のまま放置してしまうと命を脅かす合併症を引き起こすこともあるため、感染性心内膜炎はできる限り早期発見をして、合併症が起こる前に治療を行うことが重要です。本記事では感染性心内膜炎が引き起こす合併症や、診断に必要な検査についてお話を伺います。
感染性心内膜炎の合併症としてもっとも多いのが、心不全です。左心系の心臓弁(僧帽弁と大動脈弁)に感染している場合、その約50%に心不全が起こるともいわれています。さらに、僧帽弁よりも大動脈弁の感染のほうが、心不全を合併するケースが多いことが分かっています。
通常、心臓弁は血液の逆流を防ぐために閉じており、血液が送り出される際に開きます。しかし、感染性心内膜炎によって弁が破壊されうまく閉じることができなくなると、効率よく血液を送り出すことができなくなり、心臓には大きな負荷がかかります。これにより、心不全の症状が現れるというのが、感染性心内膜炎による心不全発症の代表的なメカニズムです。感染性心内膜炎の合併症としての心不全は、急激に進行するパターンも多いといわれています。
塞栓症も心不全同様、多くみられる合併症の1つです。感染性心内膜炎患者さんが塞栓症を合併する率は20~50%程度といわれています。塞栓症の中でも60~70%は脳梗塞のように中枢神経系に発症します。そのほか、脾臓や腎臓、手足の動脈、肝臓、肺などさまざまな部分に塞栓症が起こる可能性があります。
感染性心内膜炎では多くの場合、細菌の塊である疣贅が心臓の弁に付着します。心臓から血液が送り出される際、その勢いで弁から疣贅がはがれ血流にのっていってしまうことで血管が詰まり塞栓症が引き起こされるのです。また、血流で運ばれた細菌が脳でさらに増えることで、新たに細菌性の動脈瘤を形成することもあります。
特に感染性心内膜炎の原因菌がブドウ球菌の場合には、疣贅がもろく血流の勢いで弁からはがれやすいため、塞栓症を引き起こすリスクが高いとされています。
前ページで紹介したような、長期にわたる38℃以上の発熱や倦怠感、寒気や食欲不振などの症状がみられた場合には、感染性心内膜炎を疑い検査を行います。
感染性心内膜炎では手のひらや足底、目などに出血斑がみられることがあり、これらは診断において非常に有用な情報です。しかし、こうした症状が現れる頻度はあまり高くありません。
聴診によって新たに心雑音が認められた場合には、感染性心内膜炎の疑いが強まります。しかし、以前から心雑音が認められていたという場合も多く、心雑音だけで感染性心内膜炎と断定することは困難です。そのため、心雑音が認められた場合には、心エコー(超音波)検査を実施してより詳しく検査を行うことが一般的です。
採血をして血液検査を行った際、CRPという項目に着目します。CRPの値を確認することで、炎症の有無を判断ができます。これだけでは感染性心内膜炎と断定はできないものの、体内で何かしらの感染症・炎症が生じていると考えられることから、感染性心内膜炎を疑う1つの要素となります。
感染性心内膜炎の診断において、心エコー(超音波)検査は非常に重要です。心エコー検査によって、疣贅や血液の逆流の有無、弁の損傷具合などを確認します。より正確に疣贅の大きさや弁の状態などを把握するために経食道エコー検査*が行われる場合もあります。
*経食道エコー検査:胃カメラのような細い管を飲み込み、心臓の裏側(食道側)から心臓を観察する検査。通常の心エコー検査では肺や骨などが邪魔をして見えづらい場所などでも、鮮明に見ることができる。
血液培養検査によって、血液の中に菌が入り込んでいる(菌血症)か否かを判断します。また、この検査によって感染性心内膜炎の原因となっている菌を特定することで、その菌に対してより効果の高い抗菌薬を選択して投与することが可能となります。そのため、血液培養検査は感染性心内膜炎の診断においても治療においても、重要な役割を果たします。
CTやMRIは、主に合併症の有無を調べるときに用いられます。特にCT検査では、全身の塞栓症を探すために行われます。一方MRIは脳血管障害が起きていないかを高い精度で検知することに優れています。そのため、脳梗塞などの中枢神経症状が出ていない患者さんにも実施することで、重大なダメージをもたらす前に合併症を発見できる可能性もあります。
感染性心内膜炎は診断が非常に難しい病気です。最初に医療機関を受診してから1週間ほどで診断がつく方もいらっしゃいますが、診断までに1か月以上かかることもままあります。発熱や全身の倦怠感を訴えて医療機関を受診し、抗生剤によって1度はよくなったものの、再度発熱などを繰り返すというケースもみられます。
日ごろ健康状態に特に問題がない方が1~2週間ほど発熱を繰り返した場合や、人工弁がすでに体内に入っている方が38℃以上の熱が3~4日続いた場合には、医療機関の受診を検討してください。その際、発熱のほかに健康なときと比較して体に変化(出血斑など)がある場合には、ささいなことであってもぜひ積極的に医師に伝えることをおすすめします。
国立国際医療研究センター 心臓血管外科 元科長・非常勤、北里大学医学部 診療准教授
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