感染性腸炎は、細菌などの感染によって腸に起こる炎症の総称です。気づかぬうちに発症していることも多く、2016年現在で患者数が20万人を超えるといわれる炎症性腸疾患(IBD)と非常によく似た症状を表すことがあります。感染性腸炎と炎症性腸疾患の鑑別は、本当に正しくなされているのでしょうか。札幌医科大学医学部消化器・免疫・リウマチ内科学講座教授の仲瀬裕志先生にお話をうかがいます。
感染性腸炎は、潰瘍性大腸炎と非常によく似た内視鏡像(内視鏡で腸を観察した時の様子)が表れているケースが無数に存在します。現在、炎症性腸疾患のひとつである潰瘍性大腸炎の患者さんは17万人を超えるといわれていますが、患者数の増加とともに鑑別の意識が曖昧になってきたことは否めません。
以前は、腸に問題があって受診された患者さんを診察すると「カンピロバクター腸炎ではないか?」「サルモネラ腸炎ではないか?」と疑うものでしたが、現在ではそのあまりに多い患者数のためにまずは「炎症性腸疾患ではないか?」と疑うことが多くなっています。しかし、実際には感染性腸炎も非常に発症頻度の高い病気です。いくら潰瘍性大腸炎が増加しているとはいえ、感染性腸炎と炎症性腸疾患は間違いなく鑑別がなされなければならないのです。
日本は今、高齢者の人口が増え続けています。たとえば、高齢者の病気の治療に使われる消炎鎮痛剤は、小腸に潰瘍をつくってしまうことがあります。この鎮痛剤の作用によってできた潰瘍を「NSAIDs潰瘍」と呼びますが、この潰瘍のできるNSAIDs起因性腸炎は誤ってクローン病(炎症性腸疾患のひとつ)と診断されることがあります。また、回腸の末端に潰瘍ができる腸結核やエルシニア腸炎などもクローン病と誤って診断されやすい病気です。腸結核やエルシニア腸炎は日常で診療する機会が比較的多いといえますから、鑑別は非常に重要でしょう。
誤った診断は、感染性腸炎と炎症性腸疾患のどちらにも見られる特徴のいくつかを適切な検査なしに診断の材料にしたために起こってしまいます。そこに患者さんの病歴や飲んでいる薬などが考慮されることはなく、正確な鑑別診断のために必要な情報が完全に不足しているのです。
なかには、若い患者さんが受診した場合など、この工程を踏まずに内視鏡で見た症状のみで炎症性腸疾患と診断されている例もあります(炎症性腸疾患は若年発症が多い)。炎症性腸疾患は自己免疫疾患の病気です。まずそのような特殊な疾患を考えるよりも、年代問わずいつでもどんな方でも発症する感染性腸炎のほうが、基本的には可能性が高いはずです。正しい鑑別診断がなされなければ、もちろん正しい治療もできません。ですから、内視鏡の所見だけでなく100パーセント確かな鑑別を行うことを忘れてはならないのです。
免疫抑制の薬を使用していなければ、感染性腸炎のリスクは「一般的に」高いとはいえません。炎症性腸疾患の患者さんは慢性的に炎症が起きるため、メサラジンやサラゾスルファピリジンなど炎症性腸疾患の治療では基本的な作用の軽い薬でコントロールできない場合に、ステロイドや免疫抑制剤など作用の少し強い薬に移行することがあります。そのような免疫機能を抑える薬を使用した際に(免疫力が下がるので)感染性腸炎を併発するかもしれません。
また、患者さん側にもぜひ心得ていただきたいことがあります。それは、今患者さん自身が持っている情報を医師に漏れなく伝えていただくことです。自分が何を食べたか、いつから症状があるかなどを隠さずにお話しいただくことが正しい診断に結びつきます。
アナムネ・・・患者さんの既往歴を追うこと。既往歴とは、病歴や飲んでいる薬とその経過、ライフスタイル、最近の食事内容まで及ぶ。
札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授
札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授
日本炎症性腸疾患学会 副理事長日本消化器免疫学会 理事日本小腸学会 理事日本高齢消化器病学会 理事日本内科学会 評議員・総合内科専門医・指導医日本消化器病学会 財団評議員・消化器病専門医・消化器病指導医・炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン作成委員会副委員長・北海道支部 幹事日本消化器内視鏡学会 社団評議員・消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医
炎症性腸疾患の病態研究における第一人者の一人。炎症性腸疾患とサイトメガロウイルスの関連などの研究のみならず、消化器内科分野における外科、放射線科、化学療法部との密接な協力体制により患者さんのよりよいQOLのための高度先進医療を目指す。
仲瀬 裕志 先生の所属医療機関
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