精巣腫瘍とは、精巣(睾丸)にできる腫瘍のことです。精巣腫瘍には良性と悪性(がん)がありますが、ほとんどが悪性です。悪性である場合は早期に発見できるほど治る可能性が高くなるため、症状がみられたら早めに病院を受診することが大切です。それでは精巣腫瘍ではどのような症状が起こるのでしょうか。
精巣は男性特有の臓器で、男性ホルモンや精子を作る役割を持っています。この精巣から発生する腫瘍を精巣腫瘍といい、発生頻度は人口10万人あたり1~2人とされ、1~2歳くらいの乳幼児や20~30歳代の若い人に好発します。
原因はまだはっきりと分かっていませんが、停留精巣(精巣が生まれつき正常な位置にない状態)、萎縮精巣、精巣外傷、妊娠時のホルモン剤投与などがある方は精巣腫瘍が発生するリスクが高まると考えられています。また、家族に精巣腫瘍にかかったことのある人がいる場合、父親であれば4倍のリスク、兄弟であれば8倍のリスクがあると報告されています。
精巣腫瘍の症状には大きく局所症状と全身症状があります。局所症状は腫瘍の発生に伴って生じるもので、全身症状は主に腫瘍が転移した場合にみられます。
精巣腫瘍の主な症状は、精巣の腫れやしこりです。痛みを伴わないことが多く、痛みを伴ったとしても軽度あるいは違和感がある程度のことが多いです。
ほとんどは片側の精巣にのみ腫瘍が発生しますが、まれに両側に発生することもあります。痛みがないので分かりにくいのですが、精巣の大きさや硬さに左右差がみられるようになって気が付くことが一般的です。
精巣腫瘍は、短期間でリンパ節や肺、脳などほかの臓器に転移し、転移するとその臓器に応じた症状がみられる場合があります。
転移による症状として、たとえばお腹のリンパ節(後腹膜リンパ節)に転移するとお腹のしこりや腹痛、腰痛など、首のリンパ節に転移すると首のしこり、肺に転移した場合には咳や息苦しさ、血痰(痰に血液が混ざること)など、脳転移では頭痛や吐き気、めまいなどの症状が現れます。これらの症状がきっかけで医療機関にかかり、よく調べたら精巣に腫瘍が見つかった、ということも時々あります。
また、腫瘍が産生するホルモンの影響で乳房が膨らむこと(女性化乳房)があります。
精巣腫瘍の主な症状である精巣の腫れやしこりは、ほかの良性疾患でもみられます。症状が似ている病気として、陰嚢水腫、精巣上体炎、精巣炎、精巣捻転、鼠経ヘルニアなどがありますが、泌尿器科にかかれば比較的容易に診断がつきます。以下にそれぞれの特徴を記します。
陰嚢水腫とは、陰嚢(精巣を包む袋)内に水がたまる病気です。新生児や乳児に比較的よくみられ、大人にも生じることがあります。しこりは認めず、陰嚢が弾力のある腫れ方をするのが特徴で、多くの場合痛みを伴いません。液体なので光を通す(透光性)ことで精巣腫瘍と区別できます。
精子の通り道にある精巣上体に炎症が起こる病気を精巣上体炎、精巣自体に炎症が起こる病気を精巣炎といいます。精巣上体炎は尿路からの細菌感染によって生じ、クラミジアや淋病などの性感染症が原因で起こることもあります。精巣炎はほとんどの場合、おたふく風邪の原因ウイルスであるムンプスウイルスによって起こり、子どもでは起こらず成人で発症します。
精巣上体炎も精巣炎も症状としては陰嚢全体が腫れて痛みを伴うことが多く、発熱や吐き気、頭痛、筋肉痛がみられることがあります。また、精巣炎では両側の精巣に発症する場合もあります。
精巣捻転とは、精巣につながる血管がねじれて精巣への血流が止まってしまう病気です。精巣が成長する10~15歳の思春期と、新生児期に発症することが多く、突然の精巣の激しい痛みで始まり、次第に腫れてくるようになります。腹痛や吐き気を伴うこともあります。
症状は左側の精巣に起こりやすく、また夜間から早朝の時間帯や冬といった寒い時期に起こることが多いとされています。放置すると血液が流れず精巣が死んでしまうため、早急な治療が必要となります。
足の付け根(鼠径部)の筋肉の隙間から腸が皮下に飛び出て膨らんでくる病気を鼠経ヘルニアといいます。鼠径部に膨らみができ、違和感や不快感、痛みといった症状が現れますが、進行すると腸が陰嚢に下りてきて陰嚢まで膨らむことがあります。
精巣腫瘍は、精巣の腫れやしこりが生じても痛みを伴わないことが多く、病気の部位が陰部であるために恥ずかしさから病院への受診が遅れ、発見時には進行した状態であることが少なくありません。精巣が大きくなってきた、あるいは精巣の大きさに左右差が出てきたなど、異常を感じた場合には痛みがなくても早めに泌尿器科を受診することが大切です。
精巣に痛みを感じる場合には精巣腫瘍でなく炎症の場合が多いのですが、緊急手術が必要となる精巣捻転の可能性も考えられます。いずれにしても精巣が腫れてきた場合はすぐに受診したほうがよいでしょう。
神奈川県立がんセンター 副院長、地域連携室長、泌尿器科 部長
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