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結節性硬化症の治療と経過――病気と付き合いながら生きるために

結節性硬化症の治療と経過――病気と付き合いながら生きるために
菊池 健二郎 先生

埼玉県立小児医療センター 神経科 科長

菊池 健二郎 先生

目次
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患者さんの年齢によって、全身にさまざまな症状が現れる結節性硬化症。診断後はそれぞれの症状や合併症に合わせた治療が必要ですが、定期的な診療を受けていれば、多くは日常生活に制限なく生活することができます。

今回は、埼玉県立小児医療センター 神経科 科長の菊池 健二郎(きくち けんじろう)先生に結節性硬化症の治療のトピックスや予後、埼玉県立小児医療センターでの取り組みなどについてお話を伺いました。

結節性硬化症そのものを根本的に治す治療法は2021年現在のところありませんが、それぞれの症状や合併症に合わせた治療を行うことにより、症状を抑えられる場合があります。近年は、結節性硬化症の特徴的な症状である良性の腫瘍(しゅよう)の“過誤腫(かごしゅ)”の治療方法や、結節性硬化症に合併したてんかんの治療薬に進歩がみられます。

結節性硬化症では脳、心臓、腎臓などさまざまな臓器に過誤腫が生じ、それによって症状や合併症が現れることがあります。過誤腫が大きくなってしまった場合、手術によって取り除く必要が生じることもあるため、事前に増大を防ぐ治療が必要です。

近年は、過誤腫の増大を抑える治療薬としてmTOR(エムトール)阻害薬が使われるようになりました。この治療薬は、細胞を作るはたらきを持つmTORというタンパク質の暴走を抑えることにより、過誤腫の増大を抑えます。以前は過誤腫の大きさなどによって適応範囲が限られていましたが、2019年以降、結節性硬化症の診断がつけば使用できるようになりました。ただしmTOR阻害薬は、抗がん剤および免疫抑制剤の1つであるため、副作用などの薬の特性を理解し、患者さんの症状や状況に応じて慎重に判断することが大切です。子どもの結節性硬化症の患者さんに処方する場合、必要な予防接種(生ワクチン)が打てなくなるなどの注意点があるため、判断はいっそう慎重になります。また、mTOR阻害薬はあくまで過誤腫の増大を抑える効果しかなく、過誤腫を完全に消したり小さくした状態を恒久的に維持したりすることは期待できません。服用をやめれば再び過誤腫が増大することもあるため、私たちも患者さんの状態に合わせて処方を慎重に検討しています。

結節性硬化症では乳児期から2歳以下の幼児期を中心に、けいれんなどてんかんの症状がみられることがあります。てんかんの症状がみられる患者さんに対しては、抗てんかん薬の処方などが検討されます。

てんかんにはさまざまな種類がありますが、結節性硬化症は“ウエスト症候群*”の原因となることが特徴です。ウエスト症候群は難治なてんかんで、てんかん発作が治まりにくかったり、発達の遅れなどが生じやすくなったりすることもあるため、特に注意が必要です。

*ウエスト(West)症候群:寝入りばななどに首や四肢に一瞬グッと力が入る “てんかん性スパズム”が特徴的な発作型で、何回もこの発作を繰り返す群発(シリーズ)を認め、1日に数回シリーズを認めます。座っている状態では、頭部が前方にかくんと落ちる様子から、点頭てんかんとも呼ばれます。

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)治療

ウエスト症候群の治療方法としては、副腎皮質刺激ホルモン(以下、ACTH)治療や抗てんかん薬の処方が挙げられます。2022年1月現在、効果が期待できる治療方法の1つとしてACTH治療が挙げられます。しかし、心臓に過誤腫がある結節性硬化症の患者さんに対してACTH治療を行うと、過誤腫が大きくなってしまうこともあるため、適応を慎重に検討する必要があります。ちなみに、ACTH療法は連日筋肉内注射を行う必要があるので、原則入院して治療を行います。

抗てんかん薬“ビガバトリン”による治療

海外をはじめ、結節性硬化症によるウエスト症候群に対し、ビガバトリンという抗てんかん薬の有効性が証明されています。心臓に過誤腫のある結節性硬化症の患者さんやBCGやロタウイルスなどの生ワクチンを接種したばかりの患者さんでは、ACTH療法がすぐに実施できないため、そのような患者さんに対して抗てんかん薬であるビガバトリンは使用できる飲み薬です。ただし、副作用として視野障害が生じることがあるため、処方する際は特殊な眼科的検査を行う必要があります。また頭部MRI検査を行う必要があります。処方に際してこのような制約がある薬剤であるため、日本ではビガバトリンは登録された医療機関でしか処方できません。
当院はビガバトリンが処方できる医療機関であり、症例に合わせてビガバトリンによる治療を行っています。また院内の診療科間の連携が強固であるため、この薬剤を処方する場合に副作用の有無を確認する眼科的検査もスムーズに実施できます。

mTOR阻害薬

先ほど述べたmTOR阻害薬により、ウエスト症候群のてんかん性スパズムが消失したという報告もありますが、その有効性については今後さらなる検証が必要です。

これまで結節性硬化症は、小児科(当院であれば神経科だけ)など、単一の診療科のみで診療してきた過去がありました。しかし、ここまでお話ししてきたように、結節性硬化症ではさまざまな症状が体のいたる所に現れ、年齢によっても注意すべき症状・合併症が異なります。そのため、全身に現れる症状や合併症をつぶさに発見して管理するために、近年はさまざまな診療科が協力し、長期的に患者さんの診療を行っております。埼玉県立小児医療センターでは、2018年より結節性硬化症総合外来の“TSCボード”が発足しました。神経科、泌尿器科、遺伝科、脳神経外科、外科、眼科、放射線科、歯科などさまざまな診療科の医師や地域連携・相談支援センターのスタッフが連携して、患者さんを診療・サポートする仕組みを作っています。TSCボードの発足により、さまざまな診療科の専門家が集まり、話し合いながら治療方針を決めていくようになったため、全身の症状や合併症の見落としを可能な限り防ぎ、適切な治療を検討する体制が整いました。

また当院は小児専門病院のため、患者さんが大人になった際、別の医療機関でも適切な診療を受けることができるよう、地域連携・相談支援センターを中心に地域の医療機関との連携も進めています。結節性硬化症の患者さんを生涯にわたってサポートできるように、これからも全力を尽くしていきたいと思います。

埼玉県立小児医療センター TSCボードはこちらのページからご覧いただけます。

結節性硬化症は年齢に応じてさまざまな症状や合併症が起こることがあります。しかし、専門の医療機関で定期的に診療を受けていれば、この病気を理由に命を落とす確率は低いといえます。以前は腎臓の腎血管筋脂肪腫の破裂などによって、一定数命を落としてしまう方もいました。しかし、現在は腎臓のエコー検査など経過を観察するための検査が広く行われるようになったことや、mTOR阻害薬のような過誤腫の増大を抑える治療薬が登場したことによって、そのような患者さんの数も少なくなりました。

前述のように、結節性硬化症と診断された際は生涯を通じて専門の医療機関を定期的に受診することが大切です。自覚症状のない方や知的発達症などがあって自身の健康管理が難しい方の場合、大人になるにつれて定期的な受診がおろそかになる方も少なくありません。しかし、腎臓の腎血管筋脂肪腫などは学童期以降に現れたり、特に女性に多い肺のリンパ脈管筋腫症LAM)は40歳以降に出現し進行したりするため、医師の指示に従い、定期的に医療機関を受診していただきたいと思います。

私は結節性硬化症の患者さんに対し、定期的な通院をしていただきながら、日常生活では基本的に特別な行動制限などは必要ないと考えています。ただし、てんかんがある方の場合は、発作が起こりやすい状況を避ける、睡眠不足に注意するなどのてんかんに対する配慮は必要です。日頃から医師に処方された治療薬などの内服を継続し、気になることがあれば、医師に相談するようにしましょう。

結節性硬化症の患者さんであっても、妊娠・出産をすることは可能です。ただし、妊娠をすると女性ホルモン“エストロゲン”の増加によって、肺に生じる肺リンパ脈管筋腫症LAM)が増大する可能性があるため、妊娠の予定がある場合には事前に医師に相談するようにしましょう。また、結節性硬化症は子どもに遺伝する可能性がある病気です。そのため、出産後には子どもの健康観察をしっかり行っておくとよいでしょう。

結節性硬化症は、年齢に応じてさまざまな症状・合併症が現れる病気です。そのため、生涯にわたって専門の医療機関を受診し、健康を管理していくことが大切です。また近年は病気の解明が進み、治療方法も確立してきています。新しい治療方法も徐々に増えてきていますので、定期的な受診を通じて健康管理を継続していくなかで日常生活に大きな制限はありません。私たちもTSCボードなどの取り組みを通じて、結節性硬化症の患者さんを包括的にサポートできる体制を整えています。気になる症状があれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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