聴力や顔面神経機能に不可逆的な影響をもたらしかねない聴神経腫瘍。この良性脳腫瘍を、より安全かつ確実に治療するために、治療法には工夫が加えられ、新たな設備や装置も導入され始めています。今回は、聴神経腫瘍の最新治療について、東京医科大学脳神経外科学分野主任教授の河野道宏先生にお話しいただきました。
聴神経腫瘍手術の問題点は、施設や術者によって成績に大きな差が出てしまうことです。そのため、聴力や顔面神経機能を温存しながら腫瘍を完全に切除するためには、経験豊富な術者が治療にあたる必要がありました。しかし、脳神経腫瘍の手術はあらゆる脳外科手術の中でも難易度が高いため、人材の育成にも長い期間を要します。このような背景から、近年では比較的安全性の高い手術と放射線治療を組み合わせるという治療法が登場し、注目され始めています。
手術と放射線治療の組み合わせとは、腫瘍の完全切除による後遺症や神経の損傷、合併症などが危惧される場合に、あえて腫瘍の一部を残して、放射線治療で腫瘍の増殖を制御するという方法です。
放射線装置も進化しており、かつてのガンマナイフだけでなく、サイバーナイフや定位分割リアニック照射といったものも登場しています。ガンマナイフ装置も改良が進み、現在はコンピュータによる自動計算システムが導入され、施設ごとの治療の差が出にくくなりました。しかしながら、これらの治療法には20年、30年といった長期成績は存在しません。それゆえ、真の評価は今後の課題であるといえるでしょう。
前記事までに、聴神経腫瘍は顔面神経や聴神経を圧迫するため、手術の際にはこれら神経機能の温存を企図することが必須であると述べました。そのために必要なのは、手術中に刺激を与えて神経の反応を確認する「術中モニタリング」です。モニタリングが高いレベルで行えない施設では、基本的に聴神経腫瘍の手術を行うべきではないでしょう。
これまでの標準治療においては、術者が必要に応じて神経に刺激を与え、反応を確認するというモニタリングが行われていました。しかし、これではなんらかの処置により神経を損傷してしまっていた場合に対応が遅れてしまいます。最悪の場合、神経機能を喪失してから気づくということも起こり得ます。
上記のような事態を防ぐために、当科で最重要視して行っているモニタリングが、「顔面神経持続モニタリング」です。これは、手術中に持続的に刺激を与え続けて神経の反応を見るもので、神経機能が落ち始めたときには即座に「警告」が出るため、瞬時に手を止めることができます。顔面神経持続モニタリングを導入している施設はまだ数えるほどしかありませんが、聴神経腫瘍の手術成績を格段に上げる「正真正銘のモニタリング」といえるものであると確信しています。
また、聴神経腫瘍をはじめとする難易度の高い脳神経腫瘍の手術においては、術者のスキル、モニタリングの完備だけでなく、モニタリングを行う臨床検査技師の技量と経験も重要になります。そのため、当科ではモニタリングを職業とする技師を2名、手術チームに加えて手術に臨んでいます。モニタリングの整備、それを扱うプロの技師の存在と、チームの信頼関係、これらが揃っていない環境では、良好で安定した手術成績を出すことは難しいでしょう。このような環境の整備には10年単位の時間がかかりますが、講演などでアピールすることで、少しずつ増えていけばと願っています。
また、現在はメディアを通じて情報を得ることも可能になったため、患者さんご自身が施設を選んで来院されることも増えています。環境が完備されている施設は全国的に見て多いとは言えませんが、前述のような時代の流れと共に、患者さんが専門施設に集中する「センター化」が進んでおり、これが今後の治療成績向上に繋がると期待されています。
東京医科大学病院 脳卒中センター長、東京医科大学 脳神経外科学分野 主任教授
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