インタビュー

頭蓋底腫瘍とはー「聴神経腫瘍」を中心に専門医が解説

頭蓋底腫瘍とはー「聴神経腫瘍」を中心に専門医が解説
河野 道宏 先生

東京医科大学病院  脳卒中センター長、東京医科大学 脳神経外科学分野 主任教授

河野 道宏 先生

この記事の最終更新は2015年12月14日です。

一般的に良性腫瘍は悪性腫瘍に比べて進行速度が遅く、転移のおそれもないため、体にとっては比較的害の少ない腫瘍と言えます。しかし、その発生部位が私たちの生命活動を司る「脳」であったらどうでしょう。重要な神経や血管が密集する脳幹近傍にできる腫瘍は、たとえ良性だとしても、正常な身体機能や生命をも脅かす危険な存在となりえます。今回は、良性脳腫瘍の中で「聴神経腫瘍」をはじめとする頭蓋底腫瘍について、東京医科大学脳神経外科分野主任教授の河野道宏先生にお話しいただきました。

後頭部の下部、「後頭蓋窩(こうずがいか)」には、小脳と脳幹で形成される「小脳橋角部(しょうのうきょうかくぶ)」があります。この小脳橋角部にできる腫瘍の約4分の3をも占める良性脳腫瘍が「聴神経腫瘍」です。

聴神経とは、蝸牛神経と前庭神経の2つからなる神経のことを指し、これらは耳の奥にある内耳道を通っています。聴神経腫瘍は前庭腫瘍から発生するので、「前庭神経鞘腫」とも呼ばれます。この腫瘍が伴走する蝸牛神経を圧迫するため、多くの方は、まず聴力低下や耳鳴り、めまい感といった耳の症状を訴えます。実際、聴神経腫瘍の多くは耳鼻咽喉科で発見されています。

また、聴神経腫瘍が発生する内耳道には、表情筋の運動を支配する顔面神経も通っているので、腫瘍は顔面神経にも接触しています。聴神経腫瘍の治療は、これら聴神経と顔面神経の機能温存(機能を守ること)を第一に考えながら行っていきます。

先に述べた小脳橋角部は、聴神経腫瘍だけでなく、様々な腫瘍が発生しやすい部分です。また、平衡機能や運動機能を調整する小脳と、重要な脳神経が多数出入りする脳幹からなる部分であるため、ここにできた腫瘍は高い確率で複数の脳神経と接触してしまいます。小脳橋角部にできる聴神経腫瘍以外の良性腫瘍には、「三叉神経鞘腫」「顔面神経鞘腫」「頸静脈孔神経鞘腫」「髄膜腫」「類上皮腫」などがあります。

三叉神経とは、「痛い」「冷たい」といった顔の感覚を脳に伝えたり、ものを噛む筋肉を支配する役割を担う神経です。三叉神経鞘腫はこの神経から発生する良性腫瘍であり、主な症状は上記の機能低下や、三叉神経痛(顔の痛み)などです。三叉神経鞘腫の発生頻度は、聴神経腫瘍の40分の1程度と、それほど多いものではありません。

顔面神経鞘腫は、顔面神経から発生する良性脳腫瘍です。特徴的な症状は、顔面のけいれんが次第に顔面麻痺へと移行する、何度も同じ側で顔面麻痺が起き、それが悪化と軽快を繰り返すといったものです。このような症状に聴覚障害が加わっている場合は、顔面神経鞘腫を疑って検査を行います。発生頻度は聴神経腫瘍に比べると極めて稀です。

神経鞘腫が下位脳神経群のいずれかの神経から発生したものを、頸静脈孔神経鞘腫といいます。こちらも、聴神経腫瘍の20分の1と、発生頻度は少ない疾患です。症状は嚥下障害(飲みこみの障害)や声がれ、舌のしびれ、ろれつが回らなくなる、といったものです。また、手足のしびれや歩行障害など、脳幹・小脳・脊髄の症状が加わることもあります。

これらの腫瘍を切除する手術では、聴神経腫瘍の手術とは異なるアプローチ法を使用したり、二つの手術法を組み合わせることもあります。

聴神経腫瘍や、そのほかの小脳橋角部腫瘍を含む頭蓋底腫瘍(ずがいていしゅよう)。頭蓋底は、かつては“no man’ s land”(「手の付けられない場所」)と呼ばれており、ここにできた腫瘍は治療はきわめて困難とされていました。顕微鏡手術が導入されたことにより頭蓋底へのアプローチも可能になり、現在では、外科的手術、放射線治療などによるアプローチが行われています。しかしながら、脳の表面にできる腫瘍とは異なり、脳の深部にできた腫瘍を外科的手術で取り除くのには、豊富な経験や高い専門性、最新の設備などが必要であり、あらゆる脳腫瘍の手術の中でも最高難易度のものであることは依然として変わりありません。これら良性の頭蓋底腫瘍の中で最も多いのは、「頭蓋底髄膜腫(ずがいていずいまくしゅ)」です。

次の記事以降では、良性脳腫瘍の代表格である聴神経腫瘍を中心に、頭蓋底にできる腫瘍それぞれの治療法を説明していきます。

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