インタビュー

聴神経腫瘍の治療法-大きさや年齢で変わる

聴神経腫瘍の治療法-大きさや年齢で変わる
河野 道宏 先生

東京医科大学病院  脳卒中センター長、東京医科大学 脳神経外科学分野 主任教授

河野 道宏 先生

この記事の最終更新は2015年12月19日です。

聴神経腫瘍の治療法には手術と放射線治療があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。そのため、これら治療法の選択は、腫瘍の大きさや患者さんの年齢等を考慮して慎重に考えねばなりません。本記事では、聴神経腫瘍の治療法を決定する際の目安となる基準を、東京医科大学脳神経外科学分野主任教授の河野道宏先生にご解説いただきました。

難易度が高く、患者さんにかかる負担も大きい聴神経腫瘍の手術ですが、再発のリスクを防げるという利点から、年齢によってはこちらを選ぶ方が適切だと考えられます。

たとえば、患者さんが20代や30代であれば、長期成績のない放射線治療は避け、ほぼ確実に手術を勧めます。逆に、50代後半以上の比較的高齢の方であれば、開頭手術のリスクを避け、放射線治療により腫瘍をコントロールする方法を勧めます。

見極めが必要になるのは、この間に位置する40代や50代前半の患者さんです。この年代の方の聴神経腫瘍を選択する際には、腫瘍の大きさを合わせて見ることが重要になります。

私たちは、およそ15mm以下の腫瘍を「小さい腫瘍」、25mm以上の腫瘍を「大きい腫瘍」と呼んでいます。あくまで目安ですが、40代や50代前半の方で腫瘍が15mm以下であれば経過観察とし、20mmを超えて脳幹などに接触している場合は手術を行います。

また、50代を超えた患者さんであっても、腫瘍が25mmを超える大きいものである場合は手術を勧めます。

一般的には、15mm程度の小さな腫瘍が聴力温存の対象であると言われています。しかし、当科で行う手術のほとんどは30mmを超えた大きな腫瘍の切除手術であり、聴力が残っている場合は、もちろん機能温存を企図して治療を行います。30mm以上の腫瘍というと、体積は15mmの腫瘍の8倍以上になりますから、温存できる確率はやはり下がってしまいますが、それでも有効聴力がある患者さんに、初めから聴力温存をあきらめて手術を行うことはありません。

顔面神経については、たとえ大きな腫瘍であっても神経機能の温存を大前提にして手術を行います。患者さんの多くは聴神経腫瘍の手術により顔が歪んでしまうというイメージを持っていらっしゃいますが、このような心配は実はほとんど必要ありません。実際に、当科で手術された方の約8割の方は、手術直後でも顔面への影響は全く出ていません。手術直後には影響の出てしまう約2割の方も、1年後にはきれいに治っていることがほとんどで、2-3%の人に永続的顔面神経麻痺が残っています。

前段では、大きな腫瘍でも神経機能の温存は可能であるとお話ししました。しかし、腫瘍が大きくなってから発見された場合はほぼ100%手術となり、患者さんにかかる負担もリスクも増してしまいます。術後2~3週間の入院が必要であり、仕事をされている方などにとってはこの点も大きなデメリットとなるでしょう。こういった負担を減らすためには、やはり腫瘍の早期発見が重要になります。

しかしながら、聴神経腫瘍は、症状が難聴など耳鼻科の疾患と酷似しており、非常に発見されにくいという特徴があります。自身のデータでは、初発症状から発見されるまでに平均で3.5年もかかっているという数値が出ています。このような状況を改善することは非常に重要です。そこで、「疑わしい場合はぜひMRI検査を行ってほしい」と、科の垣根を超えて全国の医療従事者の方に発信していきたいと考えています。

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