インタビュー

聴神経腫瘍の治療と後遺症-手術と放射線治療のメリット・デメリット

聴神経腫瘍の治療と後遺症-手術と放射線治療のメリット・デメリット
河野 道宏 先生

東京医科大学病院  脳卒中センター長、東京医科大学 脳神経外科学分野 主任教授

河野 道宏 先生

この記事の最終更新は2015年12月15日です。

小脳橋角部にできる腫瘍のおよそ4分の3を占める聴神経腫瘍。聴神経腫瘍の治療については、現在ガイドラインは存在しておらず、治療方針は施設や医師により変わります。今回は、手術や放射線治療など、聴神経腫瘍の治療法それぞれのメリットとデメリットを、東京医科大学脳神経外科学分野主任教授の河野道宏先生にお話しいただきました。

複数の重要な神経と接触している小脳橋角部腫瘍の手術は、脳神経外科の中でも最も難易度の高い手術の一つです。小脳橋角部腫瘍の手術で用いられるアプローチを大別すると、下記のようになります。

後頭蓋窩法:脳神経外科の手術アプローチであり、使用頻度が高いものになります。日本では、この後頭蓋窩法が最も多く使われています。

経迷路法・後迷路法:耳鼻咽喉科で高頻度に用いられる手術アプローチです。

中頭蓋窩法・拡大中頭蓋窩法:ともに中頭蓋窩を経由する方法ですが、中頭蓋窩法は耳鼻咽喉科、拡大中頭蓋法は脳神経外科で用いられるという違いがあります。

腫瘍の大きさや種類によっては、上記のアプローチを2つ以上組み合わせることもあります。聴神経腫瘍の手術は、ほとんど後頭蓋窩法を用いて行われます。

耳鼻咽喉科の手術法も脳神経外科の手術法も行っており、腫瘍の発生部位や種類により使い分けることで、一人ひとりの患者さんの病状に適した手術を行っています。しかしながら、このような施設はいまだ多くはなく、受診する科によって手術法が決まってしまうことは大きな課題であると感じています。

腫瘍を切除することで「治す」ことができるということです。あらゆる大きさの腫瘍を治療することができるだけでなく、再発も防げます。また、開頭して検体をとることができるので、病理診断も確定できます。

しかし、頭を開かなければいけないということ自体が、手術の最大のデメリットとなります。患者さんにかかる負担も大きくなるうえ、難易度もリスクも高くなります。そのため、当施設では、腫瘍の大きさや患者さんの年齢などを十分に考え合わせ、本当に必要な人に対してのみ手術を行い、それ以外の方には放射線治療を勧めるようにしています。

また、同じ脳外科を受診したとしても、施設や設備によって、手術にかかる時間(日数)や手術成績が変わってくるということも、ぜひ知っておいていただきたい聴神経腫瘍の現状です。手術によって生じる顔面麻痺など、合併症の可能性は放射線治療に比べると高くなります。

聴神経腫瘍の手術は難易度が高く、どの施設、どの医師でも一定した手術成績が得られるわけではありません。このような事態を打開すべく、安全性の高いガンマナイフなどの放射線治療が導入されたという経緯があり、歴史は比較的浅い治療法と言えます。

やはり開頭せずに済むことでしょう。合併症の頻度も少なく、手術に比べれば入院期間も1~3日と短期で費用も安価となります。

しかし、放射線治療は、あくまで腫瘍の増殖をコントロールする治療法で、腫瘍がなくなるわけではありませんので、腫瘍自体とは一生付き合っていかねばなりません。

また、20-30年クラスの長期成績がないため、腫瘍の増殖を将来にわたって抑えることができるのか、また、長期的な合併症がないのか、現在のところわかっていない部分も残されています。また、再発した場合には手術が難しくなり、大きな腫瘍や嚢包性の腫瘍には適していない治療法でもあります。

腫瘍が小さい場合には、経過観察となることもあります。手術が「治す治療」、放射線治療が「コントロールする治療」だとすると、経過観察は「見極める方針」であると言えます。メリットは合併症やその他のリスクがほとんどないこと、デメリットは経過観察中に聴力が急激に低下・喪失してしまう可能性をはらんでいることです。

今回挙げた各治療法は、聴神経腫瘍の標準治療となっているもので、それぞれにメリットとデメリットが存在します。次の記事「聴神経腫瘍の最新治療」では、上述した標準治療のリスクを補うために、近年普及し始めた「最新治療」について、詳しく解説いたします。

 

参考URL:「聴神経腫瘍の外科 脳神経外科医・河野道宏のページ」『聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍に対する手術アプローチの特徴と解説』

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