椎間板ヘルニアは、背骨を構成する骨の間にある「椎間板」が、なんらかの要因で突出し、神経に触れたり炎症を起こしたりすることで発症します。椎間板ヘルニアの原因や症状について、北青山Dクリニックの泉雅文先生にお話を伺いました。
椎間板ヘルニアは、背骨を構成する骨の間でクッションの役割を担う「椎間板」のなかにある線維輪が破綻して、髄核(椎間板の中心部にあるやわらかい組織)を伴って突出し、神経に触れたり炎症したりすることで起こります。
椎間板ヘルニアは、首(頸)から腰まで、どの場所にも発生する可能性があります。
発生した場所によって「頚椎椎間板ヘルニア」、「腰椎椎間板ヘルニア」あるいは、「胸椎椎間板ヘルニア」などに分類されます。
基本的に椎間板ヘルニアは、体の重みを支えている椎間板が、負荷を受けて劣化することで起こります。
椎間板が劣化する原因はさまざまです。大きな要素としては、加齢、生活習慣など「環境的(後天的)な要因」が挙げられます。よって、椎間板ヘルニアは、「病気」というよりも、慢性的な「怪我」に近いといえるでしょう。
環境的な要因のほかに、外傷や遺伝的(先天的)要因によって椎間板ヘルニアが起こることもあります。たとえば、遺伝で生まれつき椎間板が弱い方は、椎間板ヘルニアを発症しやすい要素を持っています。また、非常にまれですが「マルファン症候群*」によって椎間板などの軟部組織の耐久性が低くなり、椎間板ヘルニアを発症するといったケースもあります。
マルファン症候群・・・マルファン症候群とは、遺伝子異常によって結合組織(細胞と細胞をつなぎとめる役割などを持つ線維成分)などに障害があるために、全身のあらゆる臓器・系統に障害が現れる疾患の総称です。
椎間板ヘルニアの原因になりやすい姿勢のひとつは、反り腰と、お腹に力が入っていない猫背です。直立の状態で重心線が腰よりも後ろにあると、体重が腰にかかります。すると、そのぶん椎間板への負荷が大きくなり、ヘルニアの原因になることがあります。
上前腸骨棘(腰に手を当てたときに触れる出っ張りの部分)と肩峰(肩甲骨のもっとも外側にある部分)が一直線上に並ぶような立ち方が正しい姿勢とされます。
平均的な体重の方で、上半身の重さは全体重のおよそ6割といわれています。そのため、体重が重い方はそのぶん椎間板にかかる負荷も大きくなります。
人間は、生物としての側面、物質としての側面を持っていますが、年月とともに、物質としての劣化、つまり「経年の劣化」は当然起こります。加齢によって体にさまざまな影響が起こりますが、そのひとつとして、椎間板も劣化していきます。
患者さんには「たとえばあなたが40歳なら、建物でいえば築40年ということで、かなり長いです。そのぶん、体にさまざまな変化が起こるのです。」とたとえてお話しすることもあります。
長時間座っている・立っている、同じような動作を反復する、といった体に負荷がかかる生活習慣も、椎間板ヘルニアの原因になりえます。一例として、スイングを何万回と練習するプロゴルファー、アメフトやラグビーなどのコンタクトスポーツの選手、体に急激な力が加わる(勢いよく動いたり、止まったりする)体操の選手などを含めて、プロスポーツ選手は体への負荷が大きくなりやすいといえます。
喫煙と椎間板ヘルニアには関連があるといわれています。
椎間板は、その上下にある「終板」という組織の毛細血管から血液をもらい、ゆっくりと再生を繰り返しています。喫煙は毛細血管の血流を悪化させるため、椎間板の再生速度を遅らせることにつながり、劣化や変性が起きやすいと考えられます。
椎間板ヘルニアを予防するためには、持続的に運動することが非常に大切です。たとえば、上半身をよく動かしながら(腕を大きく振るなど)ウォーキングすることをおすすめしています。あるいは、泳ぎが得意な方はスイミングもよいです。泳ぎが得意でない場合は息つぎで首を痛めてしまうことがあるため、無理に泳がず、上半身をよく動かしながらプールのなかで歩くことを推奨します。
また、先述の通り体重が重いと体に負荷がかかりやすいため、運動や食生活の管理を行い、体重をコントロールすることも大切です。
椎間板ヘルニアは、突出した髄核が神経に触れたり炎症を起こしたりすることで、しびれ、痛み、力が入りづらい、感覚が鈍くなる、といった症状があらわれます。
<椎間板ヘルニアの症状>
椎間板ヘルニアは、前屈みの姿勢など何かしらの動作をしたときに痛みが生じることが多いです。椎間板ヘルニアになると前屈姿勢で痛みを生じやすいため、自分で靴下を履けないなど、日常生活に支障が出る場合があります。さらに、ヘルニアが非常に大きい場合、じっとしていても痛みを感じるケースもみられます。
「椎間板ヘルニア」というと、必ず腰痛があると思われがちですが、腰の椎間板ヘルニアの場合、実際には下肢痛など脚の症状だけのケースもみられます。つまり、腰痛がなくても椎間板ヘルニアを発症している可能性はあるのです。
ヘルニアの大きさと症状の重さは比例するとは限りません。画像診断で椎間板が正常な位置から突出して神経が圧迫されているようにみえても、症状が出ない、あるいは症状が軽いといったケースもみられます。
まれではありますが、ヘルニアによって馬尾と呼ばれる神経が圧迫され傷つくと、排尿障害、排便障害を生じることがあります。排尿・排便障害は、なんらかの症状と合併してあらわれることが多いようです。
首の椎間板ヘルニアは、おもにしびれや痛み、力が入りづらい、細かい動作が難しいといった神経症状があらわれます。首の椎間板ヘルニアが重症化すると、歩行障害や膀胱直腸障害(頻尿、尿閉、尿失禁など)が生じることもあります。この場合、首の脊髄神経の本幹を痛めている可能性が疑われます。
椎間板ヘルニアを疑うとき、基本的には1週間以上しびれや痛みが続く、あるいは症状が悪化する場合に、病院を受診することをおすすめします。専門的な診断を行ったうえで、しびれや痛みの原因をきちんと特定し、適切に対処することが大切です。
先にも述べたように、椎間板ヘルニアは必ずしも痛みを伴う症状が出るとは限りません。もし少しでも気になる症状や変化があれば、早期に病院を受診しましょう。
椎間板ヘルニアを予防するためには、姿勢の癖を是正し、運動の習慣をきちんとつけ、体重をコントロールすることが大切です。体に脂肪がつく原因を「脂質」だと認識されている方も多くいらっしゃいますが、実は、お米などの炭水化物に含まれる「糖質」も大きな要素です。
一方で、減量の際には、食事の管理だけで体重を減らすことはおすすめしません。なぜなら、食べないダイエットによって糖が欠乏すると、消費カロリーの多い筋肉が削られるため、結果的に筋肉量が低下して体の代謝が低下し、痩せにくい体になる可能性があるからです。糖質を制限する場合は夕食のみにして、朝と昼の食事はバランスよくとることで、代謝が落ちないように注意することが大切です。さらに、食事の管理に加えて、筋肉を動かす運動を継続的に行うことも重要です。
記事2『椎間板ヘルニアはどのように治療するの? 選択肢と保存療法の詳細』では、椎間板ヘルニアの治療の概要を解説します。
泉 雅文 先生の所属医療機関
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