概要
特発性間質性肺炎は、はっきりした原因が見当たらないのに、肺の組織の間質という部分が障害され、酸素を十分に取り込めなくなる病気の総称です。肺の奥には、肺胞という小さな袋が多数集まっており、血液中に酸素を取り込んで二酸化炭素を排出しています。この肺胞の壁の部分を“間質”と呼びます。間質性肺炎では、この肺胞の壁に炎症や損傷が起こり、次第に厚く硬くなっていきます(線維化)。肺胞の壁が硬くなると呼吸によって酸素をうまく取り込めなくなり、咳や動いたときの息切れなどが現れます。
間質性肺炎のうち、原因不明のものが特発性間質性肺炎です。特発性間質性肺炎は国が定める指定難病の1つで、症状の現れ方や治療法などが異なる複数の病型が含まれます。
特発性間質性肺炎の診断にあたっては、問診や血液検査、画像検査、呼吸機能検査などが行われ、これらの検査結果を踏まえて総合的に判断されます。治療では抗線維化薬(線維化の進行を抑える薬)やステロイド、免疫抑制薬による薬物療法、酸素を補う治療などが病型や症状に応じて行われています。
種類
特発性間質性肺炎には、症状の現れ方や治療法などが異なる複数の病型が存在します。これらの病型は頻度の高い主要な6つの病型と、まれな2つの病型、そしてどの病型にも当てはまらない分類不能型の合計9つに分かれています。
主要な6つの病型
主要な6つの病型には、次のものがあります。
- 特発性肺線維症(IPF)……喫煙者に多く、50歳以上の男性に発症しやすい、ゆっくり進行する病型
- 特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)……IPFに比べて非喫煙者や女性に多く、ある程度の時間をかけて症状が現れる病型
- 特発性器質化肺炎(COP)……50~60歳代に多く、数日から数週間で発熱や咳などのかぜに似た症状が現れる病型
- 急性間質性肺炎(AIP)……数日から数週間で、かぜに似た症状に続いて急速に呼吸困難が進む病型
- 剥離性間質性肺炎(DIP)……30~40歳代の男性喫煙者に多く、数週間~数か月かけて肺の広い範囲に炎症が及ぶ病型
- 呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD)……喫煙と関連が深く、気管支の細い部分(呼吸細気管支)とその周囲を中心に炎症が起こる病型
このうち、最も頻度が高いのはIPFで、全体の半数以上を占めています。
まれな2つの病型
まれな2つの病型には、以下のものがあります。
- 特発性リンパ球性間質性肺炎(iLIP)……数年かけて慢性に咳や息切れが進む病型
- 特発性胸膜肺実質線維弾性症(iPPFE)……ゆっくりと進行し、動くときの息苦しさや、痩せて胸の形(胸郭)の変化が現れる病型
分類不能型
検査を行ってもどの病型にも当てはまらない場合や、必要な検査を行えない場合などには、分類不能型特発性間質性肺炎と呼ばれます。
原因
原因を特定できない間質性肺炎が特発性間質性肺炎として分類されますが、複数の遺伝的な体質と環境の要因が関わっていると考えられています。たとえば最も多いIPFでは、喫煙や加齢などが発症の可能性を高める要因として知られています。
発症の要因
特発性間質性肺炎のはっきりとした原因や仕組みは分かっていません。しかし、複数の原因遺伝子と環境の要因が影響している可能性が考えられ、原因遺伝子を特定するための研究が進められています。また、環境の要因として、IPFでは喫煙や加齢、胃の内容物が食道に逆流する逆流性食道炎などが危険因子として挙げられます。ただし、これらの要因だけで必ず発症するわけではなく、複数の要因が重なることで発症する可能性が高まると考えられています。
IPFの発症の仕組み
IPFでは何らかの原因によって、肺胞の壁を構成する細胞(肺胞上皮細胞)が繰り返し傷つけられています。それを修復する機能がうまくはたらかないことが、発症の中心的な仕組みと考えられています。
症状
特発性間質性肺炎では、初期には自覚症状がないことが多く、進行すると痰を伴わない咳や、体を動かしたときの息切れが現れます。急に症状が悪化する“急性増悪”が起こることもあります。
主な自覚症状
特発性間質性肺炎では、初期には自覚症状がないことが多いといわれています。進行すると、痰を伴わない乾いた咳(乾性咳嗽)や、労作時呼吸困難と呼ばれる症状などを自覚するようになります。労作時呼吸困難とは、安静にしているときは症状が現れず、坂道や階段、平地歩行や荷物の持ち運び、家事などで体を動かしたときに息苦しさを感じる症状です。さらに進行すると、安静にしているときにも息苦しさを感じるようになります。
なお、症状の進み方は病型によって異なり、IPFは年単位で慢性にゆっくりと進むのに対し、COPやAIPは数日~数週間と比較的速く症状が現れます。
急性増悪
特発性間質性肺炎患者がかぜやインフルエンザなどにかかった後、短い期間で急激に息切れが悪化することがあり、急性増悪と呼ばれています。急性増悪は主にIPFでみられますが、ほかの病型でも起こることがあり、早急な医療機関の受診が必要です。
検査・診断
健康診断でのX線検査や、自覚症状などによって間質性肺炎が疑われた場合、原因が特定可能な間質性肺炎を除いたうえで、問診やさまざまな検査から総合的に診断します。なお、発症時に原因不明の特発性間質性肺炎と診断されても、後から原因が明らかになった場合は、その時点で特発性間質性肺炎から除外されます。
問診・身体診察
診断では、関節リウマチなどの膠原病、感染症、ほこりやカビの吸入、薬などが原因で起こる間質性肺炎の可能性を除外することが重要です。そのためにまず、問診によって家族歴や職業歴、既往歴、喫煙歴、生活環境などを詳しく確認します。
併せて、聴診器で肺の音を聞く聴診や、手指の爪・皮膚の状態の確認なども行われます。特発性間質性肺炎では、息を吸うときに「パチパチ」「バリバリ」と聞こえる細かい音(捻髪音)が聞かれることがあります。また、指先が太鼓のばちのように太くなる“ばち指”がみられることもあります。
胸部の画像検査
肺の状態を詳しく調べるために、通常のCT検査より細かく調べることができる高分解能CT(HRCT)が主に行われます。HRCTでは、肺の線維化の広がりや、蜂の巣に似た穴が集まった“蜂巣肺”などの特徴的な変化を確認できます。
呼吸機能検査と酸素飽和度の測定
肺がどのくらいはたらいているかを調べるために、呼吸機能検査が行われます。また、指先で酸素の状態を測るパルスオキシメーターを使い、体を動かしたときに血液中の酸素量(酸素飽和度)がどの程度保たれているかを確認します。必要に応じて、動脈の採血をして酸素の量を詳しく調べる検査(動脈血ガス分析)を安静時に行うこともあります。
血液検査
血液検査では、間質性肺炎で上昇することが知られているKL-6、SP-D、SP-Aなどの値を調べます。
肺生検
口や鼻から細い内視鏡を入れる気管支鏡検査を行い、肺の組織を採取して調べます(肺生検)。組織を採るときに、気管支鏡を使って組織を凍らせて採取する凍結生検が行われることもあります。また、気管支鏡で洗浄液を採取して調べることもあります(気管支肺胞洗浄)。それでも診断がつかず、手術が可能な場合には、全身麻酔のもとで肺の組織を採取する外科的肺生検が行われます。
治療
特発性間質性肺炎に対する基本的な治療法は、病型によって異なります。IPFでは主に抗線維化薬が用いられ、そのほかの病型ではステロイドや免疫抑制薬を中心に治療が行われます。
IPFに対する薬物療法
IPFの治療目標は、進行を遅らせることです。そのため、線維化の進行を抑える抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が主に用いられており、肺活量の低下をおよそ半分に抑えたり、急性増悪を抑えたりする効果が報告されています。また、最近ネランドミラストという新しい薬も承認され、治療の選択肢が広がってきています。
喫煙者はすぐに禁煙したうえで、ごく軽症で自覚症状がない場合にはしばらく経過を観察することもありますが、定期的な受診が必要です。医師の指示に従って受診しましょう。
IPF以外の病型に対する薬物療法
NSIPやCOPなど、IPF以外の病型では、炎症を抑えるためにまずステロイドや免疫抑制薬などが用いられ、線維化が進行する場合には、抗線維化薬の使用が検討されます。なお、iPPFEに対して推奨されている薬は、2026年時点ではありません。
進行した場合の治療
病気が進行して酸素を十分に取り込めなくなった場合には、日常生活で酸素を吸入する在宅酸素療法が行われます。また、日常の活動量が低下している場合は息切れをやわらげ日常生活に必要な体力を保つため、呼吸リハビリテーションが行われることもあります。
年齢が比較的若く(60歳未満)、適切な治療にもかかわらず進行する場合には、肺移植が選択肢になる場合があります。
急性増悪の治療
急性増悪が起こったときには、ステロイド薬や免疫抑制薬を用いて治療します。急に息苦しさが強まったときは、速やかに医療機関を受診しましょう。
予防
特発性間質性肺炎そのものを予防する方法は確立していませんが、喫煙している場合は禁煙が重要です。感染症の予防も、急性増悪を防ぐうえで大切です。また、病気の進行をやわらげるために、体に負担をかけない生活をしましょう。
禁煙
喫煙はIPFの危険因子と考えられており、喫煙によって病気が進行することも多いため、喫煙している場合は禁煙が必要です。また、肺がんの予防のためにも、禁煙しましょう。
感染症の予防
かぜやインフルエンザ、新型コロナウイルスなどの感染がきっかけとなって、急性増悪が起こることがあります。そのため、日ごろから手洗いやうがい、外出時のマスク着用、室内の湿度を適度に保つことなどを心がけることが重要です。インフルエンザや肺炎球菌、新型コロナウイルスなどの予防接種についても、医師に相談しましょう。
生活上の注意
特発性間質性肺炎の進行を防ぐためには、十分な睡眠と適正な体重を保ち、体に負担をかけない生活を心がけることが大切です。バランスのよい食事と適度な運動を続けましょう。運動をするときは、パルスオキシメーターで酸素飽和度が90%以上に保たれていることを確認しながら行うとよいとされています。医師の指示に従って生活に注意しながら、治療や定期的な検査を続けるようにしましょう。
「特発性間質性肺炎」に関する
最新情報を受け取ることができます
処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください
