DOCTOR’S
STORIES
臨床一筋、カテーテル治療を通して患者さんに向き合い続ける横井 宏佳先生のストーリー
大学の医局を飛び出してから2019年10月現在まで、臨床一本で医師としての道を歩んできました。
もともと金沢大学医学部出身の私は、そのまま金沢大学(旧)第一内科の循環器グループに入りました。当時の第一内科は、不整脈に関する研究に積極的に取り組んでいるグループだったので、私も入局したばかりの頃は不整脈の研究をしていました。しかし、何かがしっくりきませんでした。表現が難しいのですが、不整脈に関する研究や臨床を続けていても、自分の心の中に熱いものを感じなかったのです。
このままでよいのだろうか、と思っていた1981年頃、当時小倉記念病院循環器内科にいらっしゃった
こうして私は、北九州という新天地に足を踏み入れたのです。
カテーテル治療の勉強を始めた頃の私は、「学ぶチャンスになる症例を一例も見落としたくない」と、日中はずっとカテーテル室にこもっているような毎日を送っていました。どんなことがあってもこの場所で成長するしかないと、とにかく必死でした。そのときから何人か患者さんを受け持っていましたが、先輩のカテーテル治療を一秒でも長く見ていたいという気持ちが強かったので、日中は回診をせず、全てのカテーテル治療が終わってから夜遅い時間に病室を見に行っていました。
そのような形で自分なりに努力を続けていたあるとき、延吉先生が私を呼び出しました。そして、こうおっしゃったのです。
「横井君は何を勉強しにここに来たんだ!」
最初はその言葉の意図がくめず、「カテーテルを勉強させていただくために来ました」と答えると、「何も分かっていない。ただ血管を広げるだけで患者さんの病気が治ると思っているのか!」と、さらに怒られてしまいました。
今でこそ延吉先生の言葉に込められていた意味が痛いほど分かりますが、勉強中であった当時の自分には、なぜ先生がここまで怒っているのかが正直理解できませんでした。なぜなら、私はカテーテル治療の技術を学ぶために小倉記念病院まで来ているのに、それで患者さんの病気が治ると思っているのかと言われてしまえば、それ以上何を学べばよいか分からなかったからです。
その後、延吉先生の言葉を自分なりに解釈して、ある答えに行きつきました。
病気という日本語は、“病”と“気”という2つの漢字からできています。
ここでの“病”とは、“血管が狭くなっている状態”を表します。一方で“気”とは、本当にカテーテル治療でつらい症状が取れるのかという不安や悩みなどの“病によって心に生じた不調”を表しています。
“病”はカテーテル治療によって治すことができますが、この方法だけでは“気”は治せません。患者さんには、自分の血管が正常に広がっているという実感がなく、本当に自分がよくなっているのかが分からないからです。だからこそ、カテーテル治療後はきちんと患者さんの病室を訪れ、治療が無事に終わったこと、上手くいったことを直接伝えることが大切です。そうすることで初めて、患者さんの“気”を治すことができるのです。
私は延吉先生の言葉から、カテーテルの技術だけ学んでも、一流の医師にはなれないのだということを学びました。そして、患者さんの“気”も治すことのできる医師になるために、もっと勉強を続けなければと強く思いました。
このときの延吉先生の言葉は今でも記憶にしっかり残っていますし、臨床医として患者さんに向き合う私自身の原点です。
福岡山王病院に勤める2019年10月現在は、自分自身が指導側の立場となり、若手医師に教育を行うことが多いです。
臨床医であり続けるために、若手医師にまず学んでほしいことは、“型”を会得することだと思っています。“型”とは何かというと、臨床医であり続けるための根幹をなすものですが、“型”は教科書には書いておらず、人から手取り足取り教えてもらえるものでもありません。先輩の背中を自分の目で見て学び、習得していかなければならないものです。
私の場合、恩師である延吉先生の指導方針は手取り足取りという形ではなく、どちらかといえば背中を見て学ばせるタイプだったので、延吉先生がいつも真摯に患者さんに向き合う姿を見ながら、自分の医師としての“型”にしていきました。
教科書やマニュアルから学べることもありますが、現場に立って初めて学ぶこともたくさんあるはずです。だから若手医師の皆さんには、かつての自分がそうだったように、現場で働く先輩医師の姿を見て自分自身の“型”を会得してもらいたいと思っていますし、実際にできる限り自分の頭で考えるように指導しています。
私はカテーテル治療を通じて医療の世界に関わり、その進歩のために自分なりに貢献してきたつもりです。ただ、循環器内科医として“今の治療がベスト”と思ったことは今までありませんし、これからもないでしょう。実際、私が学生の頃は教科書に書かれていなかったカテーテル治療が、2019年10月現在では急性心筋梗塞に対する標準的治療法として確立されています。2019年10月現在の教科書に書いてある治療のスタンダードも、いつかスタンダードではなくなる可能性はあると思っています。
医療は日進月歩の世界であり、日々塗り替えられていきます。将来的には、既存の治療法よりもよい治療法が開発されたり、治療が難しいといわれている病気が治ったりする時代がやって来るかもしれません。
医師が今ある医療を100点満点だと評価したら、そこで医療の進歩はストップしてしまいます。「病気を治してほしい」という方々の願いに応え続けるために、我々医師が歩みを止めるわけにはいきません。今の“常識”がいつか変わる可能性があるからこそ、常に気を引き締めて日々の医療に携わることが大切だと考えます。
冒頭でも述べましたが、私は今まで臨床一筋でやってきましたから、周囲に自慢できるような業績や経歴を持っていません。海外の大学への留学経験もありません。けれど、一人ひとりの患者さんにしっかりと向き合うことについては、いつも全力で取り組んできたと思っています。
それでもいまだに、患者さんを治療するとき「どうすればよいだろうか?」と迷うことがあります。そのような迷いが生じたとき、とっさに頭の中に浮かび上がるヒントは教科書の1ページではなく、かつて治療をした同じ病気の患者さんのことです。このように考えると、患者さんは私の先生のような存在といえるかもしれません。
臨床医としてこれからも成長し続けるためには、一人ひとりの患者さんと関わるなかで経験する失敗や困難から何を学び、何を得て次に生かすかが重要です。ですから、1人の患者さんと向き合うことを、いつまでも大切にしていきたいと思っています。そのことを忘れなければ、たとえ輝かしい経歴を持たなくても、高い地位に就かなくても、1人の臨床医として歩んでいけるのだと思います。
この記事を見て受診される場合、
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福岡山王病院
国際医療福祉大学 名誉教授
石橋 大海 先生
福岡山王病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長、福岡国際医療福祉大学 教授、九州大学 医学部 臨床教授
澤津橋 基広 先生
福岡山王病院 名誉病院長
中村 元一 先生
福岡山王病院 整形外科部長、福岡国際医療福祉大学教授 教授
副島 修 先生
福岡山王病院 ハートリズムセンター センター長、国際医療福祉大学 大学院 教授
熊谷 浩一郎 先生
福岡山王病院 副院長・産婦人科 部長
福原 正生 先生
福岡山王病院 産婦人科部長
渡邊 良嗣 先生
福岡山王病院 神経内科、日本神経学会 代議員
赤松 直樹 先生
高邦会福岡山王病院 神経内科部長
谷脇 予志秀 先生
国際医療福祉大学 教授、福岡山王病院 膵臓内科・神経内分泌腫瘍センター長
伊藤 鉄英 先生
福岡山王病院 泌尿器科 部長、福岡国際医療福祉大学 特任教授
野村 博之 先生
福岡山王病院 消化器外科 部長、福岡国際医療福祉大学 特任准教授
愛洲 尚哉 先生
福岡山王病院 整形外科 関節外科センター長、福岡国際医療福祉大学 医療学部 教授
佐伯 和彦 先生
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